記事提供:スゴいい保育

男性保育士は全体の2.8%(2010年度国勢調査)。男性看護師でさえ5.8%、保育士はその約半分です。着実に増えつつあるものの、まだまだ女性の仕事というイメージが強い保育の仕事。

そんな中、男性保育士を主人公に描かれた小説「戦うハニー」の著者・新野剛志先生と都内を中心に15園の保育園を運営するNPO法人フローレンスの代表・駒崎弘樹、フローレンスの運営する「おうち保育園しののめ」で園長を務める岩崎将吾の男性3人が「保育×男性」について対談しました。

保育の世界で男性の立場はどのようにシンカしてきたのでしょうか―。

―進路希望票にこっそり書いた「保父さん」

駒崎:「戦うハニー」読みました!ほんと、よく調べられているなと思いました。「保育士あるある」がいっぱい詰まっています。

新野先生:ありがとうございます。この本は実際に保育園を取材して書きましたが、実は男性保育士にお会いするのは今日が初めてなんですよ。インターネットで男性保育士に関するベーシックな情報は調べたけれど、あえて想像で書きたいと思ったので。

駒崎:そうなんですか!会わずによく書けたなと思います。岩崎も主人公と同じく、一度は社会人になって、保育士になったキャリアの持ち主で私の経営する保育園の園長をしています。

岩崎:はい、けっこう主人公と境遇は近いですね。思い返せば、もともと子どもが好きで、中学・高校ぐらいから保育士になりたいと思っていました。でも当時は「保母さん・保父さん」の時代。進路希望の紙にこっそり書いたものの、諦めちゃったんです。

結局、音楽系の専門学校を出たあと、就職せずにフリーターをしていました。きちんと仕事しなきゃと思ったときに、昔の思いがよみがえって保育園でアルバイトさせてもらったら、それが楽しくて。

当時のバイト先の園長先生が学校に行きなさいと言ってくれたんですね。それで保育士専門学校に行って資格を取りました。フローレンスには、私の他にもサラリーマンになってから保育士になった男性保育士もいます。

駒崎:そもそも保育園にいる子どもたちが社会に出たとき、男女比ってほぼ半々ですよね。だから本来、男性保育士がいるのは自然なことなんですけど、保育業界では97%が女性。おかしいと思いませんか?

保育士が女性だけというのは、「子育てや子どもにかかわることは女性のみがやるべきもの」という社会にとって悪いイメージを生むし、子どもにとってもよくない。バランスを是正するためにも、フローレンスでは積極的に男性保育士を雇用しています。

いまフローレンスでは男性保育士が6%ぐらいなので、全体に比べるとかなり多い方ではあります。そんな貴重な存在の岩崎君は男性保育士ならではの悩みはある?

―保育士は男女を意識しない方がうまくいく

岩崎:正直、自分も保育の専門学校で腹を割って話せる男の友達が出来るかなと不安にも思っていました。でも入学したら、全然そんなことなかったです。働き出してからも、特殊かもしれないですが、男性だからという居心地の悪さはなかったですね。男女というよりも、その人と合う・合わないによるかもしれません。

新野先生:小説を書こうと思ったとき、女性の世界に入っていく男性の「摩擦」のようなものを書きたいと思ったんですね。けれど、調べてみると意外と男女は関係ないという意見は多かったです。

ただそれでも、周りの目は違うのかなというのが私の目です。やっぱりまだまだ家庭での接点が多いのはお母さんというのが一般的ですよね。

駒崎:そうですね。でも、自分が子育てしてみて、より思ったのは、父親だからできないことはないということです。子どもは自分に一番関わっている人に懐くんですよ。だから保育に男女の違いはないし、経営者としては保育士が男性、女性であろうが求めるものは違いなく「良い保育をしてほしい」ということ。

たしかに一般的には男性保育士に「娘のおしりを拭かないで」と言う保護者がいる…っていうのがよく言われますね。実際にあったりする?

岩崎:実際の保育現場ではないですね。男性保育士の研修ではやっぱり出てくる話題ですが。かえって「男性だからこんな風に言われるんだ」と思っていると辛いかもしれません。

駒崎:フローレンスでは、男性保育士飲み会というのをやっていて、私も男性経営者として参加しています。実際の内容はけっこうバカバカしいものだけど、盛り上がりますね。

経営者としては、保育に求めるものは変わらないけれど、男性は各園に1人2人なのでやっぱり悩みもあるだろうと思います。園の単位を超えて吐き出せる場はあった方がいいかなと。

岩崎:普段はバカバカしい話ですけど、やっぱり悩みを打ち明けたら、親身になって話を聞いてくれる場があるのはありがたいですね。

新野先生:「戦うハニー」にも男性保育士の飲み会は出てきます。大多数が女性保育士という中で過去にやりにくいとかそういうことはありましたか?飲み会ではそういう話は出てくるのでしょうか?

岩崎: やっぱり他の男性保育士と話すと、女性が多い職場特有の悩みが出ることはあります。自分の場合は雑で気にしなさすぎて、「女性の扱いがひどい!」と言われてしまうのですが、むしろ気にならなくていいのかもしれません。

そうやって言ってもらえる関係を築くのは大事ですね。

―預かる園児がいなくても保育園を開けろ?!

駒崎:「戦うハニー」は無認可保育園を舞台にしていて、シングルマザーなどいわゆる社会的弱者と言われる人たちがたくさん出てきます。こうした方々は生きていくのも必死な状況なんです。

実際に保育の現場でも「保育園がなかったらこの家庭はどうなっちゃうんだろう」ということはあります。保育園は子どもたちを預かるにとどまらない「家庭を支える」という機能があるんですね。

岩崎:私の園のある自治体では「預かる子どもがいない日でも開園時間内は園を開けておいてほしい」と言われる保育園もあるそうです。

はじめは「そんな無茶な!」と思いました。でも考えてみればやっぱりそういう子育てに悩む人たちの駆け込み寺のような役割があるんだな、と実感します。

駒崎:モンスターペアレントと言ってしまえばそうかもしれませんが、それぞれ抱えるものがありますから単純に「良い親」「悪い親」という「親の威厳論」では語りきれないんですよね。それをこの本ではすごく上手く描かれていると思います。

新野先生:おっしゃる通り悪者に描かないようにしていますね。実際にこのストーリーはとある保育園を取材させてもらって、そこで起きたことを元に書いています。本当はもっとひどいと思うことも多くて、むしろマイルドに描いているくらいです。

でも、彼らを糾弾しても始まらない。主人公はそんな中で「しょうがないとは言いたくない」と言っていますけど、今、目の前で起きていることをどうにかしなくちゃいけないわけで。

駒崎:保育士の仕事って今まですごくナメられていて。子どもを見るのは誰でもできるでしょ、と言われるんですよ。政治家もそういう発言をする人もいます。じゃあ一回、一週間でいいから保育士をやってみろと思いますね。

やってみたら分かりますけど、保育士は子どもの心の基盤を作る一番大切な時期に関わっているし、家庭のセーフティーネットにもなっている。これを多くの人に知ってほしいです。

岩崎:たとえばお母さんがトイレトレーニングとか、子どもの発達に悩んで、考えすぎていることはよくあります。

正直「もっとゆっくりでも…」と思うこともありますよ。でも、ゆっくり面談して、お母さんの気持ちを理解して、家庭での言葉がけの方法なども伝えています。育児で突き当たる壁の解決策って、親御さんの持っている手段はせいぜい1個か2個。

ママ友や祖父母とか相談相手がいたとしても、それに加えてプラス1個か2個で全部で4個ぐらい。でも保育士は毎日色んな子どもを見ていますから、持っている引き出しはずっと膨大なんですよ。

後編に続く

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