記事提供:幻冬舎plus

ネットは、階級を固定し、人間関係を深め、そこから逃げ出せなくなる道具だーー。グーグルの予測検索で、Facebookで、そう実感する人も多いでしょう。そんなネットの世界からもはや逃れられない私たちはどうすればいいのか?

単行本発売時から、SNS時代の人生論として話題をさらった『弱いつながり 検索ワードを探す旅』が文庫になりました。本書の一部を抜粋しつつ、ネットの統制から逃れる方法を考えます。

旅は「自分」ではなく「検索ワード」を変える

ぼくらはいま、ネットで世界中の情報が検索できる、世界中と繋がっていると思っています。台湾についても、インドについても、検索すればなんでもわかると思っています。

しかし実際には、身体がどういう環境にあるかで、検索する言葉は変わる。欲望の状態で検索する言葉は変わり、見えてくる世界が変わる。裏返して言えば、いくら情報が溢れていても、適切な欲望がないとどうしようもない。

いまの日本の若い世代──いや、日本人全体を見て思うのは、新しい情報への欲望が希薄になっているということです。ヤフーニュースを見て、ツイッターのトピックスを見て、みんな横並びで同じことばかり調べ続けている。

最近は「ネットサーフィン」という言葉もすっかり聞かれなくなりました。サイトから別のサイトへ、というランダムな動きもなくなってきていますね。ぼくが休暇で海外に行くことが多いのは、日本語に囲まれている生活から脱出しないと精神的に休まらないからです。頭がリセットされない。

日本国内にいるかぎり、九州に行っても北海道に行っても、一歩コンビニに入れば並んでる商品はみな同じ。書店に入っても、並んでる本はみな同じ。その環境が息苦しい。

国境を越えると、言語も変わるし、商品名や看板を含めて自分を取り巻く記号の環境全体ががらりと変わる。だから海外に行くと、同じようにネットをやっていても見るサイトが変わってくる。

最初の一日、二日は日本の習慣でツイッターや朝日新聞のサイトを見ていても、だんだんそういうもの全体がどうでもよくなっていく。そして日本では決して見ないようなサイトを訪れるようになっていく。自分の物理的な、身体の位置を変えることには、情報摂取の点で大きな意味がある。

というわけで、本書では「若者よ旅に出よ!」と大声で呼びかけたいと思います。ただし、自分探しではなく、新たな検索ワードを探すための旅。ネットを離れリアルに戻る旅ではなく、より深くネットに潜もぐもぐるためにリアルを変える旅

ネットでは見たいものしか見ることができない

日本では、戦後の高度成長期が終わって昭和が終わって冷戦が終わって、もうこれ以上新しいことはなにも起きない、みたいな気分が支配的です。「終わりなき日常」と言われる感覚ですね。

3・11の震災が起きても、その気分は強固に残っている。「この世界はどこもかしこも同じで、新しいことなんかない」。「海外に行くんだったら、アニメのDVDを買って家で見たほうがいい」みたいな感じ。

個人の趣味に口を出すつもりはありませんが、さすがにまずいと思うのは、日本が最高だと思ってるひとが多いこと。若い世代の論客も、いまの自分たちの生活を肯定するために言葉を連ねていて、そういうひとが人気がある。

しかし、年金は近い将来破綻するし、産業は崩壊しているし、震災も起き、政治はまったく機能していない。それでも本当にいい国なのか。ましてや「最高」か。

ネットは、そういった自己肯定を強化してくれるメディアです。ツイッターに代表されるソーシャルネットワークは、基本的に無料だからお金のない若者がいっぱい集まって来る。有名人はそんな「お金のない若者」の人気を取らなければならない。

結果、ある種の情報は隠すようになっている。彼らは「牛丼食いました」「コンビニ行きました」とは書くけど、「どこどこのホテルに泊まった」とはほとんど書かない。いまネットで人気を集めるためには、自分も同じ庶民ですとアピールしなければならないことをよく知っている。

だからネットに出てくる情報は、「ぼくもみなと同じくらい貧しいよ、みなと同じくらい忙しいよ」というものばかり。でもそれはフィクションなんです。

ツイッターには大金持ちの経営者がいっぱいいる。彼らのアカウントをフォローすると、彼らに近づけたような気がする。でもそれは幻想です。

彼らのつぶやきをいくら追っていても、彼らがどれだけの資産をもってて、どんな車に乗ってて、どんな生活をしてるのか、じつはまったく伝わってこない。本当にリアルな情報はツイッターには書かれていない。

ネットには情報が溢れているということになっているけど、ぜんぜんそんなことはないんです。むしろ重要な情報は見えない。

なぜなら、ネットでは自分が見たいと思っているものしか見ることができないからです。そしてまた、みな自分が書きたいと思うものしかネットに書かないからです。

バックパッカーはバックパッカーが見るインドについてしか報告しないし、金持ちは金持ちが見せたい自分のすがたしかつぶやかない。日本にいて検索してると、そんな情報しか手に入らない。

その限界をどう超えるか。それが本書のテーマです。
『弱いつながり』「1 旅に出る 台湾/インド」より)

『弱いつながり』目次

0 はじめに     強いネットと弱いリアル
1 旅に出る     台湾/インド
2 観光客になる   福島
3 モノに触れる   アウシュヴィッツ
4 欲望を作る    チェルノブイリ
5 憐れみを感じる  韓国
6 コピーを怖れない バンコク
7 老いに抵抗する  東京
8 ボーナストラック 観光客の五つの心得
9 おわりに     旅とイメージ

◆哲学とは一種の観光である
◆文庫版あとがき
◆解説 杉田俊介

東浩紀(あずま・ひろき)

一九七一年東京都生まれ。作家、思想家。株式会社ゲンロン代表取締役。『思想地図β』編集長。東京大学教養学部教養学科卒、同大学院総合文化研究科博士課程修了。一九九三年「ソルジェニーツィン試論」で批評家としてデビュー。

一九九九年『存在論的、郵便的』(新潮社)で第二十一回サントリー学芸賞、二〇一〇年『クォンタム・ファミリーズ』(河出文庫)で第二十三回三島由紀夫賞を受賞。

他の著書に『動物化するポストモダン』『ゲーム的リアリズムの誕生』(以上、講談社現代新書)、『一般意志2.0』(講談社)、「東浩紀アーカイブス」(河出文庫)、『クリュセの魚』(河出書房新社)、『セカイからもっと近くに』(東京創元社)など多数。

また、自らが発行人となって『チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド』『福島第一観光地化計画』「ゲンロン」(以上、ゲンロン)なども刊行。

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