早いもので2010年代ももう折り返し地点を過ぎた。さらに先日のリオ五輪閉会式で、多くの人々が4年後の日本に思いを馳せたことだろう。あの日、私たちはひと足先に「2020年代」を目撃した。それはとても華やかで希望と凛々しさに満ちた、新たな日本の始まる第一歩だった。

しかしその未来を実現するためには、私たちにはまだまだ課題も残されている。いつの時代にも、苦しさと闘う人がいる。悲しみと向き合う人がいる。場所や言語を越えてその痛みに少しでも寄り添おうとすることで、初めて“相互に理解しあう”というオリンピック精神は叶う。これからの4年間、次のホスト国となる私たちはそれらと真摯に向き合わなければならない。

住む場所も年齢も違う人々を1つにする可能性の1つに「音楽」がある。今回は私たちの1番近い過去である90年代をテーマに、実際に人々の痛みを支えた楽曲を振り返りながら、繋ぐべき明日を考える。

あの時、あの曲。

#9 苦しむ日本を支えた90年代の名曲5選

1.「愛は勝つ / KAN」

出典 http://www.amazon.co.jp

こちらより『愛は勝つ』が一部視聴できます)

どんなに困難でくじけそうでも
信じることを決してやめないで

出典KAN『愛は勝つ』

シンプルかつ力強いメッセージが光る、シンガーソングライター・KANの『愛は勝つ』。元々1990年9月に発表されたものだが、人気バラエティ番組の挿入歌としてじわじわと知名度を上げていった形のため、本格的に売れ出したのは翌年の事だった。

この曲が2か月連続のオリコン月間1位を獲得した頃、中東のイラクでは湾岸戦争が始まっている。日本人を含む多くの民間人が巻き込まれていたこともあり、当時のテレビや新聞は連日トップニュースとして大きく報道していた。また日本国内では同時にこの頃から、バブル崩壊を象徴する地価の下落も始まってゆく。

芯のある明るいメロディと自らに言い聞かせるようなその歌詞は、結果的に当時の揺れる心情をしっかりと受け止めて支えていた。「愛は勝つ」は1991年の日本レコード大賞を受賞、後に東日本大震災の復興チャリティーソングにも選ばれている

出典 YouTube

2.「ファイト! / 中島みゆき」

ファイト! 闘う君の唄を
闘わない奴等が笑うだろう

出典中島みゆき『ファイト!』

中島みゆき最大のヒットとなった31作目のシングルに、人気ドラマの主題歌「空と君のあいだに」と共に収録されているファイト!』。元は1983年のオリジナルアルバムに収録されていた楽曲だが、CMソングとして起用されることになり、後の1994年にシングルカットされた。

この頃になると市民生活の中でもバブル崩壊に伴う「失われた10年」があらゆる面で表面化していたが、特にダメージを受けたのは、当時の若者たちだった。それまで“売り手市場”だったはずの就職活動は一転、大卒の正規雇用すら難しい状況になる。それまで夢見ていた進路を変更せざるをえない者も少なからず存在した。

この曲は、中島みゆきのオールナイトニッポンに投稿された「私だって高校行きたかった」という17歳女性のハガキに応えて制作された。大人ですら生きるのに必死な社会情勢の中で、若者たちの夢を守ってくれるものはいくつあっただろうか。発表から30年以上が経過した今もなお、本人と多くのアーティストによって「ファイト!」のメッセージは歌い継がれている

3.「TOMORROW / 岡本真夜」

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こちらより『TOMORROW』が一部視聴できます)

涙の数だけ強くなれるよ
アスファルトに咲く花のように

出典岡本真夜『TOMORROW』

女性シンガーソングライター・岡本真夜が1995年に発表した『TOMORROW』。彼女にとってデビュー作でもあるこの曲の原型は、実は彼女が18歳だった1992年頃にすでにできていたという。

沢山のニュースがあった90年代の中でも、1995年の衝撃は特に突出している。岡本真夜がデビューする4か月前の1月17日、阪神・淡路大震災が近畿圏の広域を襲った。さらにそのわずか2か月後、今度は東京で地下鉄サリン事件が発生。震災の傷跡も癒えないまま、日本はずっと見えぬ不安の中に置かれ続けていた。

しかしそれでも、人々は明日を信じていた。ドラマ主題歌に選ばれた「TOMORROW」はその前向きなメッセージで傷ついた多くの人々を励まし、累計170万枚以上を売り上げる歴史的1曲に成長する。阪神・淡路大震災の被災地でもこの曲が流れ、岡本自身が実際に被害の大きかった神戸で歌うこともあった

この曲も後に、東日本大震災の被災者を支えるために受け継がれていく。2011年のクリスマス、彼女は福島県で600名の被災者とともに「TOMORROW」を歌った

出典 YouTube

4.「がんばりましょう / SMAP」

Hey Hey Hey Girl
いつの日にか また幸せになりましょう

出典SMAP『がんばりましょう』

そして1995年の日本といえばもう1つ、この曲の記憶もきっと消えることはないだろう。国民的アイドルグループ・SMAPの歌う『がんばりましょう』。冬の時代を長らく過ごした6人が掴んだ2作目のオリコンチャート1位曲である。発売は阪神・淡路大震災が起きる前年、1994年9月のことだった。

1995年1月20日、テレビ朝日「ミュージックステーション」で本来SMAPは新曲を発表する予定だった。しかし3日前に震災が発生。歌唱曲を差し替え、さらに励ましの言葉を付け加えて急遽「がんばりましょう」を披露している。当時、最年長の中居正広は22歳、最年少の香取慎吾は17歳だった。

後に東日本大震災が発生した2011年3月、やはり自身のレギュラー番組「SMAP×SMAP」で、SMAPは再びこの曲を歌った。後日、木村拓哉のレギュラーラジオには、阪神大震災の被災者からこんなメッセージが寄せられている。

「あの時私は一人暮らしをしていました。一日中鳴り止まないサイレンが怖くてずっと泣いていました。実家に帰る事が出来た時ようやく安心出来ました。でも酷い惨状をテレビで見ては泣いていました。」

「そんな中SMAPが被災地に向けてミュージックステーションで「がんばりましょう」を歌ってくれました。本当に嬉しかったです。がんばろう!という気持ちになれました。神戸の三宮にある百貨店では震災後、再開してしばらくの間オープン前の朝の音楽として「がんばりましょう」が流れていたんです。こんな時こそ音楽は大切です」

出典2011.4.15「木村拓哉のwhat's up smap」

5.「未来へ / kiroro」

出典 https://www.amazon.co.jp

こちらより『未来へ』が一部視聴できます)

ほら 足元を見てごらん
これがあなたの歩む道

出典kiroro『未来へ』

最後に紹介するのは、沖縄県出身の二人組音楽グループ・Kiroroの『未来へ』。1998年にメジャー2作目のシングルとして発表された楽曲だが、実は1997年の時点で、すでにインディーズシングルの形で一度世に出ている。制作当時、まだ2人はそれぞれ短大と専門学校に通っているごく普通の学生だった。

リスナーの耳に「未来へ」が届き始めた1997年の“今年の漢字”を、皆さんは覚えているだろうか。その年に最も応募が多かったのは「倒」という一字。その年にサッカー日本代表がワールドカップ本戦初出場を「倒して決めた」という意味合いもあるが、バブル崩壊後の長期化する不況に耐え切れず、山一證券などの大手企業が相次いで「倒れていった」のもこの年だった。

しかしそんな暗いムードの日本社会に翌年、一つの光が射した。日本での2度目の冬季五輪、長野オリンピックの開催だ。ジャンプ団体による悲願の金メダル獲得など、日本人選手の活躍は国民に大きな感動を与える。Kiroroの『未来へ』が改めて発売されたのは、それから4か月後のことだった。母の愛を重ねあわせた胸を打つ歌詞は、オリンピックの醒めぬ感動と共に当時から多くの人の「支え」となった。

そしてこの曲は現在も、日本各地の学校で子供たちによって卒業ソングとして歌い継がれている。偶然にも来年3月に卒業を迎える現在の高校3年生は、ちょうど長野オリンピックの開催年に生まれた、あの頃の「未来」の子供たちになる。

今年のリオ五輪に話を戻すと、もう1つ、実はこんな話題があった。オリンピック史上初めて結成された「難民選手団(難民となり母国から出場ができない選手で構成された複数地域の混合チーム)」には、結束を意味する五輪マークの表示と併行して、独自のシンボルとなる旗と“歌”が制作されていたという内容だ。

そして「難民選手団」の一員として柔道・男子90kg級に出場し、一勝を挙げたポポル・ミセンガ選手は、実際の試合会場でもこんな風景に後押しされていたと話す。

「多くの観客が僕のために歌い、声援を送ってくれた」

出典朝日新聞 2016年8月22日 社会面

歌には住む場所も年齢も違う人々を一つにし、他者を勇気づける力がある。開会式、試合会場、閉会式、そこに響く歌声は世界に勇気を与え、そして笑顔にさせた。これからの4年で、日本にはどんな歌が生まれていくだろうか。

願わくば未来に生まれくる歌も、個々の思いを尊重し、人々が心から応援を届けることのできる、優しき世界の元にあってほしい。そんなことを今、切に思っている。

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Spotlight編集部 小娘 このユーザーの他の記事を見る

1983年生まれのフリーライター。アイドルと音楽と歴史が好きです。デビューから応援しているアイドルの再評価をきっかけに、新規 / ライトファンを意識したエンタメ記事を日々研究しています。

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