小学4年生の長男が、夏休みの宿題として地元新聞社主催の新聞作りコンテストに応募することにしました。テーマは「ベーゴマの紹介」。実際の新聞の1面サイズの、作文にしたら何本分もある大作なので、本人が思っている以上に大変だろうと筆者は思いました。

しかし「時間もかかるし考えている以上に大変だと思う。本当にがんばれる?」と諭しても、いま夢中になっているベーゴマをもっと知ってもらいたい、と、彼は迷わず新聞作りをすることを選びましたので、見守り応援することにしました。思い立ったらまっしぐらな、典型的な射手座の子です。

なぜいま昭和の遊び、ベーゴマを?

出典筆者

長男が取り上げるのは、いま流行っているベイブレードではなくベーゴマです。なぜ彼がベーゴマをするようになったかと言うと、私が奨めたから。流行ものを与えてすぐ飽きるよりも、より難しく長く楽しめるクリエイティブな遊びを与えたかったから。私の息子たちは器用でもの作りが得意なので、もしかしたらベーゴマの改造までするかも、と見据えたのです。

そして、鉄でできたベーゴマで、ベイブレードをする友だちと戦っても勝てる強いコマを回したら格好いいなぁとも思ったからです。そのように話すと長男は乗り気だったので、現在日本で唯一ベーゴマを作る、日三鋳造所(川口市)からベーゴマをいくつかと、床(とこ:ベイブレードでいうところのスタジアム)に張るシートを買い、公式サイズの床(30ℓの漬け物樽にシートを張る)を作りました。

息子はとても喜んで、弟と一緒にすぐにベーゴマに夢中になりました。そしてベイブレードをしている友だちとも戦ったり、ベーゴマを知らない友だちに教えてあげたりしていました。そんなこんなをまとめて『ベーゴマ紹介新聞』というものを作ることにしたのです。

「昔、ベーゴマをしていた人と戦ってみたい」

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ベーゴマは、明治の終わりから大正時代にかけて作られ始め、一度、戦時中に鉄の供出のために作られなくなり、再び昭和20年〜30年くらいに流行ったのだそうです。「リアルタイムでしたことのある人と、対戦してみたい。」子どものその願いを叶えてやるには、一緒に老人ホームを探すことしかありませんでした。身近な年長者、息子たちの祖母(70代)も筆者の知人(60代、50代)も、ベーゴマを見たこともないと言うからです。

電話帳を開いて、老人ホームに電話したり直接訪ねたりしましたが、担当者は話を聞くとはずむような声で「入居者に聞いてみます」と言ってくれても、翌日にはしょんぼりした声で電話がかかってくるのでした。結局4軒ほどから、申し訳なさそうに断られたのです。

けれど結果的には、88歳の人と対戦することができました。そのことと、それを通して筆者が感じたことを、3つまとめます。

#1 80年以上生きると、想像以上にしんどいらしい

80代の身体の動く人もいる老人ホームで聞いてもらっても「やったことあるけど忘れた」「暑くてしんどい」、そう言われましたと残念そうに電話をくれる職員。そもそも介護度が高く、ほとんどの人が車いすに乗っているか認知症を患っている、という施設にも間違えて電話をしてしまいました。

私たち親子が施設の職員さんたちから教えてもらったのは、介護度の低い人がいる施設は「グループホーム」という名前だ、ということでした。介護浴のバイトをしたことがあるのに、世間知らずで、このざまです。また、職員が直接入居者に尋ねているのが聞こえたこともあったのですが、そのとき聞こえたのは「忘れた」という言葉。その悲しい響き。

70年前、80年前をまだ持たない私には、それがどれくらい遠いことなのかわかりません。暑い夏を生きるだけでも厳しいのに、知らない小学生のお願いを聞くよりは「忘れた」と言うほうが楽なのかもしれませんね。私たち親子はそれを受け入れるしかありませんでした。

#2 灯台下暗し。キーパーソンは案外近くにいる

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電話で聞いて「忘れた」と断られるのは凹むので、直接乗り込むしかない、と思ったのですが、今度はどこに乗り込めばいいのか?「もう対戦の記事は、友だちとしたベイブレード対戦や、弟としたベーゴマ同士の対戦の記事にする?」と息子に聞いても、まだ諦めたくない、と親子ともに思います。「〆切のギリギリまで粘ろう」と私は息子に言いました。

するとふと、近所の駄菓子屋さんを思い出したのです。

そこは、筆者の運営する教室のポスターを貼ってくれている駄菓子屋で、息子たちもときどきお小遣いをにぎりしめて自分たちだけで歩いて行くこともあり、顔見知りです。その店主が、ベーゴマを知っていそうな年格好。「ほかにすることないから」と、日曜でも店を開けている店主。

ベーゴマの床(とこ)と、ベーゴマを持ってお盆明けに押しかけると、エアコンなしの店内で、扇風機の風とテレビの音を浴びながら、彼はうたた寝していました。

店主を起こしてベーゴマをしたことがあるか聞くと「あるけど……忘れたよ」と言いながらおもむろに立ち上がったので、ベーゴマとひもを渡すとやっぱり「忘れたよ」と言いながら、しかし手はうらはらにひもを巻き始めました。そして床を見るなり、シュッと投げました。彼は私たち親子が初めて見た、ベーゴマのサウスポー!子どもたちは歓声を上げ、一緒に少しの間遊びました。

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どうして少しの間だったかと言うと、私が暑さに弱く、汗だくで長く居られなかったから。そして店主がすぐに疲れて「もう写真撮れたから、いいよね」と言って引っ込んだから。でもとても楽しそうに、子どもたちを見て褒めてくれて、「学校で流行ってるの?」と少なくとも2回は私たちに尋ね、筆者の超スローなベーゴマも「なかなか上手だね」と褒めてくれました。

いくつかのお菓子を買って子どもたちも満足。もう4年も前から顔見知りだったこの店主は、昭和3年生まれで「もう88歳なんだよ」と少し誇らしげに笑っていました。そして「ベーゴマやってたの、80年前くらいだもん」と、悪戯そうに微笑みました。

駄菓子屋さんの店主は、私の息子たちが生まれるのを、80年くらい待ってくれて出会うことができたのだと思うと、とても心あたたまります。私はさらに暑くなりました。

#3 子どもは世話させるように見せかけて、かけがえのない経験をくれている

床じゅうに散らばったレゴブロック、自作キャラ(たとえば写真下)が描かれたスケッチブックの切れ端、読みかけのマンガ『怪物くん』『プロゴルファー猿』、食事中に読んでくれる図鑑の、ハ虫類の生態。夜10時のナイトプール(夜の水風呂 子どもだけの自由スタイル)から聞こえる楽しそうな声。仲良くしていたかと思ったらけんかの声。泣き声。

それらが私の日常。雑誌のインテリア特集のような部屋には、またいつか独りに戻るまで住むことはできないでしょう。毎晩、毎朝そのことに絶望しますが、子どもたちに床だけは片付けて寝てもらうことで、折り合いをつけています。

小学生二人のいる夏休みが始まった当初は、自分の二つの仕事と子どもたちの食事の準備と宿題を監督することで毎日が追われるように過ぎていくのがイヤでしょうがありませんでした。でも、朝起きたら、にぎやかだし新しいキャラクターが誕生していたりして、寂しい思いはしません。突拍子もない面白さが男の子育児の醍醐味なのかしらと思います。

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子どもたちが私にため息をつかせるすべてが、10年後には懐かしくてももう二度と起こらない出来事たちばかりだろうなと思うと「ヤメテ〜!!」と叫びたくなるようなことも、可愛いと思えるようになりました。(思うようにしています、というほうが近いのですが。)

「もうナイトプールは閉店ですよ」と言って、『ほたるの光』をハミングすると、水鉄砲で頭を狙われました。なんてやんちゃなんでしょう!夏休みの1ヵ月で、こんな態度を内心「いいぞ、いいぞ!」と思えるようにもなりました。

部屋に落ちている折り紙の小さな作品も、10数年後、彼らが巣立ったあとには「捨てるんじゃなかった」と思うかもしれないので、そのときのために捨てずにおいてあります。

実際のところ、折り紙も工作もほとんど捨てさせてくれないので、押し入れの天袋は彼らの作品でいっぱい。一人暮らしするときがきたら、映画『トイ・ストーリー』のアンディみたいに自分用の箱に入れてもっていってもらうか捨てるかを決めてもらうことにしましょう。

ベーゴマと出会い、筆者の知らなかったことをたくさん知ることができたのは、子どもたちのおかげ。この夏のベーゴマのことを彼らも、あと80年生きてもおぼえててくれるかしら。

そしてついに次男の誕生日に、我が家にもベイブレードがきました。元祖ベーゴマ対ベイブレードの夢の対決で、大騒ぎ。「ベーゴマもできるようになっててよかった!」と聞き、息子たちが親の一存で流行ものを我慢していただけではなかったと知り、少し、ホッとしています。

あとは『ベーゴマ紹介新聞』を仕上げて、もっとホッとさせてほしい気持ちでいっぱい。

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