記事提供:サイゾーウーマン

日常に潜んでいながら姿が見えない、得体の知れない痴漢加害者は、女性にとって恐怖でしかない。けれど、今日という日も犯罪者は当然の顔をして電車やバスに乗り、犯行を繰り返している。

被害者として多くの痴漢に接してきた体験を通して、その実態を考える漫画家・ライターの田房永子氏と、性犯罪再犯防止プログラムを通しての現場で、日々多くの元痴漢加害者と向き合っている精神保健福祉士・社会福祉士である斉藤章佳氏。

両氏による対談後編は、「痴漢は撲滅できるのか?」がテーマとなった。こんなにも危険な存在が野放しにされているのはなぜなのか? 鉄道各社も事あるごとに撲滅をうたうが、一向にその成果が報告されないのはなぜなのか? 

この疑問を解くヒントは、痴漢たちがおのおの作り上げる“膜の中のストーリー”にある。

(前編はこちら)

■「肌の露出が多い服装なら、痴漢されてもしょうがない」という誤解

田房永子氏(以下、田房) あくまで私自身の感覚ですが、痴漢の話になると男性の9割以上が「冤罪への対応」「女性専用車両で男性差別するな」と言いだします。

彼らの言い分を詳しく聞くと、だいたいは「カネ目的で男を陥れるトンデモない女がいるから、そっちを取り締まれ」ということなんですが、そもそもそんなことをして稼げると思いますか?

斉藤章佳氏(以下、斉藤) まず無理でしょうね(笑)。第一、お金のために性被害に自ら遭うという発想自体が、本末転倒だと思います。

また、仮に裁判になったら時間もかかりますし、加害者側が否認すれば、いつまでたってもお金にはなりません。女性側にとっても、失うものが大きすぎます。

田房 万が一それで稼げたとしても、それは痴漢問題とは別に語られるべき問題です。でも、多くの男性が、この「トンデモない女がいる」説を多かれ少なかれ信じているように見えます。

実際にいるかどうかもわからない存在におびえ、ターゲットにならないよう、つり革につかまります。なのに、実際に存在する痴漢に対しては、一切目が行かない。それって結局、男の人は内輪で痴漢行為を許し合っている感じがするんです。

斉藤 それは、男性同士が認知の歪みによってつながり合っている、ということですね。同じ“膜”の中にいる状態です。

前編で「膜は外から破れない」とお話ししましたが、なぜ難しいのかというと、それが本人としては子どものころから当たり前のように獲得してきた価値観だからです。中には、親の代、さらにはその親の代から引き継いできたものもあります。

たとえば、「肌の露出が多い服装をしていたら、痴漢されてもしょうがない」という歪んだ価値観がありますよね。

田房痴漢だけでなく、一般の男性も、それどころか女性も、結構な割合の人が、そう思っているんじゃないでしょうか?

斉藤 再犯防止プログラムで、「女性はなんのために、そんな格好をしていると思いますか?」「女性自身が、そういう格好をしたいから。若い世代は、みんなしているから。

オシャレのためなんですよ」と伝えて、それこそが認知の歪みであり、そう考えることの根底には女性差別があって……と、諄々と説いていくと、加害者の男性もハッと気づくことがあります。

いままで女性の価値観の立場でものを考えたことがないし、薄々わかっていても巧く“膜”を作るのに利用して、自分が痴漢行為をすることを正当化し、行動に移してきた。

……そう考えると、男性同士が同じ膜の中にいて価値観を変えないうちは、痴漢撲滅への議論は進まないでしょう。

■痴漢に遭った女性が、被害者として扱われない現状

田房 それ以前に、痴漢に遭った女性が、被害者として扱われない現状も気になります。

深夜のバラエティ番組を見ていたら、「最近、痴漢に遭った」と話す年配の女性を、みんなが笑っていました。彼女は性暴力を受けているのに、ヘタすると「触られるうちが花だよ」なんて言われてしまいます。

斉藤 痴漢加害者が中高生や若い女性ばかりをターゲットにしているかというと、そんなことはありません。

ほかにも「痴漢が出没するのは朝の時間帯」「薄着の季節に痴漢が多い」などのイメージがあると思いますが、実際の痴漢は日中の電車でも深夜の夜道でも犯行に及ぶし、1年を通してチャンスをうかがっています。

また、満員電車でなくても、痴漢被害は多数あります。満員電車だとバレたとき逃げ道が確保できないからという理由で、比較的すいている電車を選ぶ加害者もいます。

田房 再犯防止プログラムの受講者には、痴漢歴や頻度を聞くんですか?

斉藤 もちろんです。いつから始めて、どのくらいの頻度で……と詳細に聞きます。痴漢歴だけではなく、初めてマスターベーションや性交渉した年齢もヒアリングします。

田房 頻度って、どのくらいなんでしょう?

斉藤 すさまじいですよ、多い人だと毎日です。アメリカのエイブルという人の研究では、ひとりの性犯罪者が生涯に生み出す被害者は380人というデータがあります。

ただしこれは、強姦被害が中心の数字です。日本の痴漢被害に関していえば、もっと多くの女性が被害に遭っているでしょうね。

田房 そんなにたくさんいるんですか! 数えきれないほどの女性が、電車やバスの中で身の安全を守られず、性被害に遭っているのに、それを止めようとしているポスターがコレです。被害女性もまったく深刻じゃないし、第一、加害者がまったく出てこない。

■痴漢を通報した人が、誤報であっても責められない体制が必要

――これ、加害者が逃げ切ったようにも見えますよね(苦笑)。

田房 今回、斉藤さんの話を聞いて残念だったのは、痴漢に遭ったその場で、加害者の内面を揺さぶって膜を破壊するのが、ほぼ不可能だとわかったこと。

その場で即、犯行をやめさせることができ、さらに加害者が今後絶対にやらないと思わせることができる、そんな即効性のある技を、自分の子ども世代に伝えたかったから。無念です。

このポスターが対象としているのは、女性ですよね。被害に遭った女性たちに、「あなたが声を上げてください」と訴えかけている。でも、痴漢を突き出すのって、すごく怖いです。

成人女性でも負担が大きいのに、まだ年端もいかない女の子にそれを強いるのは酷です。自分よりずっと年上の男性犯罪者を前にしたときに、恐怖を感じないわけないですから。

斉藤 先ほどお話しした通り痴漢は逮捕されない限り行動変容しないので、この卑劣な犯罪を減らすには、いまのところ、どんどん逮捕するしか方法がありません。でも通報へのハードルは高く、多くの女性が泣き寝入りします。

結果、ひとりの痴漢が何十人、何百人……もしかすると何千人という被害者を生みます。私はいっそ、車両に「痴漢通報ボタン」を設置してもいいと思いますね。バスの降車ボタンみたいな。

田房 痴漢に遭ったら、それを押すんですね。

斉藤 はい。で、次の駅で駅員が待っていて、引き渡される。

田房 でも、それも人によっては難しいのかも……。別のバラエティ番組では、痴漢現場に居合わせたらしい視聴者からの「声をかけて、その男性が捕まって、もしそれが間違いだったら、その人の人生を壊してしまう。

どうしていいか、わからなかった」という投書が紹介されていました。なぜか、加害者にピントが合ってしまっている。その理由を考えたのですが、「駅員に通報→絶対に逮捕」というのが、かえって通報のハードルを上げているのでは。

痴漢で通報された人はまず、斉藤さんのクリニックのようなところに行って再犯防止プログラムを受ける……といったシステムじゃないと、当事者であれ周囲の人であれ、通報する側にどうしてもためらいが生まれます。

斉藤 通報した人は、それが誤報であっても責められない体制にしないといけないですね。イギリスではそのような体制が整備されつつあり、通報件数と逮捕件数が30%増加したそうです。

すべて構造上の問題なのに、いまはそれらすべてを被害者である女性が担わされている。

田房 本当にそうなんです。絶対におかしいです「みんなの勇気と声で痴漢撲滅」とポスターで訴えるだけで、女性からの通報が増えるわけないですよね。

本気で痴漢を撲滅したいなら、さっきのお話にあった「痴漢は勃起していません」「痴漢ひとりにつき何千人もの被害者がいます」といった痴漢の実態を伝えるものとか、「病院に通えば痴漢はやめられます」など、痴漢加害者に訴えかけるものとか。

本気で撲滅させるぞという意気込みだけでも、まずは見せてほしいものです。

田房永子(たぶさ・えいこ)

1978年、東京生まれ。漫画家、ライター。01年「マンガF」にて漫画家デビュー。ハプニングバーなどの過激スポットへ潜入したルポ漫画を描きながら、男性の望む「女のエロ」を描き、違和感が蓄積。

08年からノンフィクションレポートシリーズ「むだにびっくり」を自主制作・出版。著書に『母がしんどい』(KADOKAWA)、『ママだって、人間』(河出書房新社)、『男しか行けない場所に女が行ってきました』(イースト・プレス)、『それでも親子でいなきゃいけないの?』(秋田書店)、『キレる私をやめたい ~夫をグーで殴る妻をやめるまで~』(竹書房)等がある。

・ブログ「むだにびっくり

斉藤章佳(さいとう・あきよし)

大森榎本クリニック精神保健福祉部長(精神保健福祉士/社会福祉士)。1979年生まれ。大学卒業後、同クリニックにて、アルコール依存症を中心に、ギャンブル・薬物・摂食障害・性犯罪・虐待・DVなど、さまざまなアディクション問題に携わる。

専門分野は「性犯罪者における地域トリートメント(社会内処遇))で、同クリニック内で行われている性犯罪及び性依存症グループ(通称SAG:Sexual Addiction Group-meeting)のプログラムディレクター。

最近では、日本で初めて常習性の高い性犯罪者に対して、拘留中の面会、裁判員裁判への出廷や刑務所出所前に面会に行き、出所後継続した社会内処遇につなげる「司法サポートプログラム」が、司法関係者やマスコミから注目されている。

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