記事提供:ダ・ヴィンチニュース

世間の流行に乗って、私も『ポケモンGO』をやってみた。突然こいつは何を言い出すのかと思われるだろうが、アイテムを貰えるポイントには史跡などが登録されており、40年来住んできた町内に小さな祠があることを初めて知って、ちょっと感動したのだ。

丸一年にわたり上野の街を取材したという『上野アンダーグラウンド』(本橋信宏/駒草出版)もまた、何度も足を運んだことのある上野の知らざる面を教えてくれた。

入り口ともなるJR上野駅中央改札口の上にある、馬や犬、漁師にスキーヤーといった人物が描かれた壁画は、「自由」というタイトルがつけられており、昭和26年に広告会社が、「戦火が止んで平和が訪れた駅の雰囲気を乗客たちに感じてもらおう」と画家に依頼したものだそうだ。

とはいえ当時にもまだ、駅構内には浮浪児や引揚者が目立っていたという。よく友人と待ち合わせたさいに、この絵を何度も目にしているはずなのに、残念ながらこれまで関心を寄せたことが無かった。

そして本書は駅を出ると、不忍池や国立西洋美術館といった家族連れもいて賑わう場所から、かつて “東洋の魔窟”と呼ばれた九龍城(クーロンじょう)のようなビルに入っている中国エステ店や、男女が密会する出会い喫茶にハプニングバー、アメ横、キムチ横丁などへと案内してくれる。

しかも、潜入取材を得意とする著者の案内だから、それは時にスリリングであり、中国エステ店に潜入するさいの事前調査として、架空の仕事を装い「オフィスを探しているという名目」で不動産会社を訪ねるなど、ちょっとした探偵気分を味わえる。

不動産会社の青年が「警察が巡回しますので安全です」と、客である著者を安心させようとすれば、それはつまりトラブルが頻発しているということで、そこに著者は危険な香りを嗅ぎつける。やはり潜入取材をするのには、用心深くなければならないようだ。

しかしまた、著者が「聖と俗が隣接する」という上野は、異界と日常が地続きでもある。上野公園にある小高い丘の摺鉢山古墳などは、夜には男たちが性愛を求めて登ってくるハッテン場だそうである。

そして、上野公園内にあって、世界遺産に登録される見通しの国立西洋美術館は貧民窟の跡地に建てられたそうだが、この地には今も男色を商売にする者たちがおり、上野の芸術文化のみならず「ゲイ文化を支えてきた」という。

その背景には寛永寺が関係しており、江戸時代は女人禁制だったことから僧侶が男娼と遊ぶ陰間茶屋があったことによる歴史的な経緯が説明されている。

上野公園が男同士のハッテン場なら、駅周辺には男女が密会する出会い喫茶やハプニングバーなどがあって、そこではごく普通のOLや人妻が日常との境をヒョイと越えている、いや行き来していると云うべきか。

ハプニングバーで束の間のストレス発散をしていると取材に答えた女性が、自分の中学生の娘について「目先の楽しみを優先して援交しちゃうのかな。それが心配」と話しているのがまた、なんとも不思議な感覚にさせられた。

他にもアメ横の混沌とした地下食品街や、昭和に世間を騒がせた大事件の舞台となった場所など、「聖と俗」が入り混じった上野の魅力が丹念に拾い上げられており、こんど上野に行く時には本書に出てきたところを幾つか巡ってみようかと思う。

とはいえ、興味本位だけでアブナイ場所にまで足を踏み入れるのはやめておいたほうがよさそうだ。自身の安全のためもあるが、取材をしようと真夜中に摺鉢山古墳を訪れた著者は、こう述べている。

「彼らの安寧を乱してしまったことを私たちは反省しなければならない」

文=清水銀嶺

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