ネットやテレビで話題のニュースに関して、編集部が独自の切り口で取材調査をする「ソコ行く!?ソレ聞く!?取材班」のコーナー。今回も興味深いお話を伺ってきました!

メダルラッシュのリオ五輪。実はもう1つのオリンピックも熱かった

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8月5日に開幕して以来話題のリオ五輪。次々と日本代表のメダル獲得が次々と報道され、マスコミもメディアもオリンピック一色となっています。

しかし、その1ヶ月前に開催されたある「オリンピック」で日本代表全員がメダル獲得という快挙を成し遂げたことをご存知ですか?

その名も「国際物理オリンピック」

出典 http://www.jpho.jp

国際物理オリンピックとは、各国の高校生らが参加し、物理問題で競い合う国際的なコンテストです。今年スイスで開催された第47回大会では世界84の国や地域から398人が参加しました。

五輪オリンピックのような種目ごとにメダルを争うのではなく、優秀者に金メダル(参加者の約8%)、銀メダル(同17%)、銅メダル(同25%)が与えられる仕組みとなっています。

スイスで開催された「第47回国際物理オリンピック(IPhO)」において、日本から参加した高校生5人全員がメダルを手にした。5人のうち、3人は金メダルで、日本の参加生徒による金メダル獲得は2年連続となる。

出典 http://resemom.jp

今年は金メダル3つを獲得という好成績を納めた代表のみなさん。なんと日本は6年連続で全員がメダル獲得を成し遂げるという快挙となっています。

しかし、このような快挙を出しながらも一般にはあまり知られていない国際物理オリンピック。そこに出場する、いわば「頭脳アスリート」とも言える彼らはいったいどのような戦いを繰り広げているのでしょうか。

そこで、2009年に代表選手として金メダルを獲得、2013年には引率メンバーとして参加し、現在は東京大学の大学院で量子物理を研究中の蘆田祐人さんにお話を伺ってみました。

1.出場倍率は甲子園超え!?

そもそも、国際物理オリンピックの出場選手はどうやって選ばれるのでしょうか?実はハードな選考過程があったことがわかりました。

「高校生を対象に開催される全国物理コンテストの優秀者から選ばれます。まず第1チャレンジとよばれる一次試験で、およそ2000名の応募者から70名程度に絞られ、通過者は3泊4日の第2チャレンジに進みます。

3泊4日の合宿形式をよる第2チャレンジは相対性理論のような高校物理の範囲を越えた出題もありますね。

代表候補者はその後、添削指導・冬合宿を経て春合宿で行われる最終試験に臨みます。その後、最終的な代表5名が翌年4月に決まり、夏に行われる国際大会に参加します」

約2000人の中から代表選ばれるのは、成績優秀かつ翌年まで高校に在籍できる5名だけ。単純計算で選考倍率400倍という驚異的な数字です。比較として正しいかは置いておいて、夏の甲子園の出場倍率の81倍(約4000校の地方予選から49校出場)と比べてみてもその難易度が伝わるのではないでしょうか。

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ちなみにこちらが第2チャレンジの理論問題の例題。蘆田さん曰く、「高校物理の範囲を超えた内容でも、丁寧に説明があるのでじっくり取り組めば解けますよ」とのことですが、高校時代の成績が毎年赤点だった筆者にはちんぷんかんぷん…。

2. オリンピック対策は各国それぞれ

さて、1年がかりで選出された代表選手たちに残されたオリンピック本番までの時間は約3ヶ月。何か特別な対策は行うのか蘆田さんに聞いてみると、意外な答えが返ってきました。

「本番まで3ヶ月という期限もあり、試験対策として多くのことはできないというのが現状です。ただ、選考過程から引き続き大学機関での指導を受け着々と準備を進めていきます。

このように日本はベーシックな対策をしていますが、中国や韓国では少し事情が違うようです。

大会に出場していた中国・韓国選手に聞いたところでは、大会が近づくと選手が同じ場所に集められ数ヶ月の間、合宿形式で毎日1日中国際物理オリンピックに向けた勉強を行うらしいです。こういった話は物理にオリンピックに限ったことではなく、科学オリンピック全般に共通しているように思えます。各国の科学オリンピックに関する国家ぐるみでの『本気度』が感じられました」

3.現地の敵は試験だけじゃない

出典蘆田さん提供画像

こうして急ピッチの対策を乗り切った蘆田さんを待っていたのは、試験問題だけではなく「文化の違い」も。現在のリオ・オリンピック出場者と似通った体験を蘆田さんもされていることが判明しました。

「選手として出場した時には、メキシコ現地委員のラテン系特有のマイペースさに驚きました。例えば、試験開始・終了の合図があるのは日本では当然ですが、メキシコでは合図がなかったんです。ホテルも『五つ星』認定されていたホテルでしたので期待していたのですが、雨漏りしたりトイレがすぐに詰まったりと想像とは程遠いものでした

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さらにもう一つ、日本代表チームを苦しめたのは現地の食事。

「メキシコ特有の辛い味付けや肉中心の食事が日本人の口に馴染まないものだったようで、滞在していく中で次第に食欲がなくなっていきました

さらに、国際物理オリンピックの開催時期は夏なので、南米の強い日差しやスコールも体力を奪います。

こういった環境に対するトラブルはどこが開催国かにもよるようですが、やはり慣れない環境で体調・メンタルともにキープするのは大変なこと。試験自体も5時間という長丁場なため、会場ではチョコレートや果物がおやつとして配布される場合もあるそうです。

4. 勝負のカギは「引率役員」にもあり?

出典蘆田さん提供画像

物理オリンピックは5人の代表高校生がそれぞれの成績で競い合う個人戦ですが、実は彼らのメダル獲得には「引率役員」という陰の立役者がいます。

高校卒業後、2013年のコペンハーゲン大会で引率役員として参加された蘆田さんも大変だったようで…

「実は、問題の翻訳作業は各国の引率役員が行うんです。そのために2日連続で徹夜したのは辛かったですね」

てっきり翻訳済みの問題用紙が用意されてるのかと思いきや、なんと翻訳は各国チームが行うのです。誤訳があってはいけないため、神経を削られそうですね…。

さらに、メダル獲得までの「あと一歩」を押し出すのも引率役員の仕事。こんな役割もありました。

「引率役員は、現地委員の採点結果に対して選手の解答の部分点などを要求することができます。ただ、ここでも英語で交渉しなければいけならないので、制限時間内に内容を的確に伝えることに苦労しました。」

引率という名前から、ただチームの安全を監督するだけなのかと思いきや、実はこんな苦労が!。実際に点数交渉の結果としてメダルの色が良くなったという例もあるようです。

5. 金メダルをとっても、特別かわったことはない。でも…

このような過酷な試験を乗り越えて、みごと金メダルを獲得した蘆田さん。当然、日本に帰ってきてからはモテたり、クラスメイトのあいだで物理のノートが高値で取引きされたりなどひと騒動あったのかと思いきや…?

「学内表彰で図書券をもらったことくらいですかね…。もちろん『おめでとう』と色んな方から声をかけてはもらいましたが、それ以上特別なことはありませんでした(笑) 」

意外にも帰国後の周囲の反応は普通だったようですが、蘆田さんにとってはこの物理オリンピックに出場したことが、研究者という道を選んだ大きなきっかけになったと言います。

「僕にとって、世界中の文化も言語も異なる人々と物理を通して共に議論・交流する機会が持てたという点はとても貴重な経験でした。同じ興味を持つ優秀な友人と早い段階で知り合えたということも大きな財産だと思います。

ちなみに、一緒に出場したメンバーとも、現在に至るまで交流があり、そのうち1人は東大の同じ研究室に所属して毎日顔を合わせていますね。

大学院修了後も、研究を通して将来の科学技術や社会の発展に貢献していきたいと考えています」

物理が好きという理由で国際物理オリンピックにチャレンジした蘆田さん。その時の経験が、現在の彼を形作る大切な経験となったようです。

リオ五輪が盛り上がっている近頃ですが、こうしたスポーツ以外の国際コンテストに目を向けても日本の将来を担う人材を知ることができ面白いかも知れません。

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