知ってるようで知らない、だけど気になるあの仕事をSpotlight編集部が深掘り取材するコーナー「シゴトペディア」。今回はオーケストラの“ある楽器”を演奏する方の仕事に迫ります。

華やかなオーケストラの舞台。各楽器の音色の調和が心地よいものですが、しかしよく見てみると、出番が少ない楽器があることに気付くと思います。

その楽器の代表といえば「シンバル」。曲によっては、1回しか叩かないこともあるのだとか。叩く回数が少ない分、一見ラクそうに見えますが、本番中の出番以外の時間や、普段の練習では、どんなことをしているのでしょうか?

そこで今回は、実際にシンバルを担当しているオーケストラの楽団員の方にお話を伺ってみることにしました。

今回、インタビューをしたのは、「ニューフィルハーモニーオーケストラ千葉」の楽団員である齋藤綾乃さん。「打楽器奏者」として、シンバルを始めとした打楽器をご担当されているそうです。華々しいオーケストラの舞台裏、そして、謎の多いシンバルという楽器について詳しく語っていただきました。

シンバル以外にもたくさんの楽器を兼任している

――斎藤さんは何の楽器を担当されているんですか?

「私が担当している楽器は、合わせシンバル(両手に1枚ずつ持って、打ち鳴らすシンバル)、吊りシンバル(スタンドタイプのシンバル)、大太鼓、小太鼓、シロフォン(木琴)、グロッケン(鉄琴)、カスタネット、タンバリン、トライアングルです」

おお…意外とたくさんの打楽器を担当されているんですね。小規模の楽団では、たくさんの打楽器を兼任することが多いそう。ちなみに、大きい楽団においても、大まかな打楽器の担当は決まっているものの、たとえばシンバル専任といったような、1つの楽器だけを担当することは少ないのだとか。

――シンバルはとても重そうなのですが、一体どのくらいの重さなんですか?

「シンバルの重さは、軽くて2~4kg、重いと6kgほどになります。私も大学で大きいサイズのものを持ったときは、『重いな』と感じた記憶があります。でも、いつの間にか慣れました。小柄な体格でも、体の使い方のコツさえつかめば扱えるようになるんです」

打楽器奏者(シンバル奏者)には、割と小柄な女の人が多いらしく、齋藤さんも身長は145cmとのこと。ダイナミックなシンバルと、小柄な女性、なんとも意外な組み合わせですね。

周りに理解してもらえないことは?

――普段のお仕事について、なかなか理解してもらえないことや、もっと理解してほしいと思うことはありますか?

「演奏がない日って、何してるの?といつも聞かれるんですけど、部屋にひきこもって練習しています(笑)。やっぱりみなさんオーケストラというと、舞台で華々しく演奏しているイメージがあるようで、練習している時間については理解してもらえないことが多いんです。大学時代、練習を理由に遊びを断ると、たまに、音大以外の友達からは『つれないな…』と言われることもありました。彼氏とあまり遊べずにいて、フられちゃった音楽家の友だちもいます」

演奏者の中には、旅行に楽器を持っていて、旅先で練習する人も多いそうです。「一人で技術を磨いて、突き詰めるという点で、この仕事はアスリートや職人に近いと思います」と話す齋藤さん。華やかな舞台の裏で、ひたむきに努力をされているのだと分かりました。

シンバルの演奏は緊張する?

――シンバルは演奏回数が少ない分、失敗したときはかなり目立ちそうですが…やはり緊張するんでしょうか?

「私は緊張しますね。特に、シンバルとシンバルを5mmくらい離して、そっとお互いを組み合わせて、小さい音を出すときに緊張します。意外と大きな音が出てしまったりもするので…。プロに入ってから失敗したことはあまりないんですが、学生時代はしょっちゅう失敗しました。とにかく緊張で手が動かなくて、シンバルを鳴らせずに曲が終わってしまった、ということもありました」

――特に、緊張しやすい曲はありますか?

「よく話題になるのが、『ドボルザークの「新世界」の最終楽章』。曲のラストに、一発だけシンバルを鳴らす箇所があるんですよね」

齋藤さんの打楽器の師匠は、「本番で失敗したときは、誰よりも早く一目散に帰れ」とおっしゃっていたとか。長くその場に留まるとメンタル面に響いてしまい、次の日の演奏にまで影響してしまうからだそうです。齋藤さんいわく「この仕事は、気分の切り替えはすごく大事なんです」とのことでした。

ギャラは他の楽器と同じ?

――曲中、出番がないときは何をして待っているのですか?

「曲によっては、100小節以上休みになることもあります。譜面を覚えていない曲の場合は、休みの分の小節を必死で数えます。休みを数え間違えると、間違えたタイミングで鳴らしちゃうこともありますから…」

――失礼ですが、出番の少ない楽器の奏者と、ほかの楽器の担当者のギャラは同じなんでしょうか?

ギャラは大体同じです。打楽器(シンバル)はたった一発の出番で、曲を盛り上げなければいけません。一点集中のプレッシャーがかかっているわけです。『出番が少ないのに、ギャラが同じなんてずるい』と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、ご理解いただけたらいいな、と思います(笑)」

何も知らない私たちからすれば、一見ラクそうにも見えるシンバルという楽器。でも、実はかなりのプレッシャーがかかることが分かりました。それにしても、シンバルを鳴らせずに終わってしまったときの奏者の方の心中を想像すると、壮絶なものがありますね…。

演奏が観客の人生に影響を及ぼすことも

周囲から理解されなかったりプレッシャーがかかったりする中でも齋藤さんがオーケストラを続けていられるのは、ひとえに聴いてくれるお客様がいるからだと話します。

「この仕事は、お客様の人生に影響をもたらすことがあるんです。悲しいことがあった方や、生きる気力をなくしていた方が、演奏を聴いて、感動してくださって、終演後『元気になりました』と、私の手を取ってくださったこともあります。『音楽が持つ力』で、お客様の心境が変化したんだとわかると、この仕事をしていてよかったなと思います。オーケストラはお客様に来ていただかないと成り立ちません。今後もたくさんの方がコンサートホールにいらしていただけたら嬉しいです。」

今回の取材では、オーケストラのシンバル演奏の実態から演奏者の方の想いまで、様々なお話を伺うことができました。この記事を読んだ皆さんがオーケストラの演奏を聴けば、今までとは違った印象を受けるかもしれません。みなさんも「芸術の秋」を待たずして、一足先に真夏のオーケストラ鑑賞をしてみてはいかがでしょうか?

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