「美しさ」とは、表面的な見た目だけに存在するとは限らない。ひとつ筋の通った中から出てくる、“佇まい”にこそ宿るのではないか。絵画も音楽も、そして人も同じだ。その佇まいの背景に永い時間をかけて紡がれた物語があり、そこに私たちは魅了されるのだろう。

今回紹介するのは、まさに“佇まいに宿る美しさ”を感じさせてくれる楽曲。90年代始めから現代のあいだに、その楽曲がどんな結晶を生み出していったかを振り返っていこう。

あの時、あの曲。

#8 「乙女のポリシー / 石田よう子」

出典 https://www.amazon.co.jp

こちらより『乙女のポリシー』が一部視聴できます)

『乙女のポリシー』は、『好きと言って』との両A面1stシングル。テレビアニメ『美少女戦士セーラームーンR』『美少女戦士セーラームーンS』エンディングテーマに使用された。

同楽曲は、オリコンチャートでは最高位77位ながらも30万枚を売り上げた。エンディングに使用された『美少女戦士セーラームーン R』はセーラームーンシリーズの第2作目である。

「アニメは子供のためのもの」
だった時代、当初は第1期『美少女戦士セーラームーン』(1992〜)だけの放送予定だった。しかし子どもだけでなく大人の人気も集めて社会現象になるまでにヒットしたため、続編として第2期『美少女戦士セーラームーンR』が作られ、第5期『美少女戦士セーラームーン セーラースターズ』(1997年)まで放送された。

「大事な恋愛や人生の場面を、自信を持ってどんなことがあっても乗り越えよう」という決意を聴く人に語りかけながら、自分にも言い聞かせるように描かれた女性目線の歌詞が特徴。少女向けアニメということもあって、詞は無駄がなく易しい表現でありつつも内面に訴えかける深さがあって、幅広い世代に響くものとなっている。

当時はバトルヒロインが定着していなかったこともあり、「か弱いだけじゃない、守られるだけじゃない女性像」は新鮮だった。この楽曲は、ポップな曲調に乗せつつそのテーマを見事に表現していた。

カレン、ホント、ガンバル…歌詞にカタカナを多用した意図

“どんなピンチの時も絶対あきらめない そうよそれがカレンな乙女のポリシー”

出典石田よう子『乙女のポリシー』

この歌い出し、「可憐」「カレン」と表記しており、他の箇所でも「ホント」「コワイ」「ガンバル」と“カタカナ化”が際立っている。少女向けとしてなるべく漢字を使わないようにしたとも考えられるが、それ以上にそこには特別なニュアンスがあるように思えるのだ。

「可憐」とは本来“守ってあげたくなるような可愛らしいさま”を示した言葉で、直前の「諦めない気持ち」にかかる語句としては少し違和感がある。しかし、セーラームーン的な「前向きに明るく可愛く美しい」という精神を前提にすると、その違和感は消えてより奥行きのあるものになる。

作品のメッセージの強さが、普段のなんでもない言葉をカタカナで再定義し、辞書の意味からぴょんと飛び出させた。そう思えてならない。

あの頃の乙女が大人になるにつれて変化していった女性の立場

セーラームーンの放送が始まった1992年から7年後の1999年に男女共同参画社会基本法が施行された。男女が互いに人権を尊重し合って、能力を十分に発揮できる社会のために作られた法令である。

この法については日本だけでなく海外からも否定的な見方が多い。「男女平等は、社会の意識が変われば自然と達成される」「女性が優遇されると、同じ能力を持つ男性が差別される」などの声が上がっている。一方、施行によって男女の権利がより平等になったとする意見もある。

ここで女性の労働力の推移を表す図を見てみよう。セーラームーン3・4期が放送されていた平成7年以降のパーセンテージは各世代ほぼ全て上がっていて、特に25~34歳の伸びが大きい。放送当時の小中学生たちが大人になって、女性の立場が変わってきた現代の中心にいるということは間違いない。今まさに働き盛りのセーラームーン世代が活躍している。

そんな彼女たちに『乙女のポリシー』はいま、どう響くだろう。

“なりたいものになるよね ガンバルひとがいいよね 涙もたまにあるよね だけどピッと凛々しく”

出典石田よう子『乙女のポリシー』

2014年にはアサヒ「キレイな間食」のCMにて、神田沙也加がオフィスのエレベーター内で『乙女のポリシー』を歌唱したことで話題となった。前向きに自分らしく生きる女性たちへの応援歌として現在も人気を誇っている。

出典 YouTube

2014年1月にはトリビュートアルバム『美少女戦士セーラームーン THE 20TH ANNIVERSARY MEMORIAL TRIBUTE』が発売された。『乙女のポリシー』はやくしまるえつこにより大胆なアレンジを施され、原曲からは風合いが変わったこれぞトリビュートという仕上がりとなった。

2016年4〜6月には六本木ヒルズ展望台にて「美少女戦士セーラームーン展」が開催。漫画の原画やアニメ資料などを一目見ようと多くのファンが足を運んだ。また近年では再放送やCrystalシリーズ(2014~)の放送により、現代の少女たちも新しいファンとなっている。

こうして次の世代にも、セーラームーンイズム『乙女のポリシー』は受け継がれていく。

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