最後の晩餐には母の手料理、特攻隊の最後の言葉は「お母さん」など、人は自分の最後を知った時、とっさに母親を想うというエピソードはたくさん聞きますね。

また、昭和から歌い継がれる母親をテーマにした名曲もたくさんあって、その時代を生きていない若者にも普遍の感動を与え続けています。もちろん、時代は平成に変わって生まれた母親にまつわる名曲はあります。

中でも、発売から今年で10年も経つのに未だ色褪せず、普遍的で、昭和の名曲と同じように愛され続けるかりゆし58の『アンマー』。沖縄の言葉で“お母さん”を意味するこの曲は、まさに平成の母の歌を代表する名曲のひとつです。

出典 YouTube

かりゆし58を知らなくてもラジオやテレビから流れてくる、誰かがカラオケで歌う『アンマー』を聴き、グッときたことがある人も多いのではないでしょうか。

出典 http://kariyushi58.com

彼らが『アンマー』の生みの親、かりゆし58。沖縄出身の4人組バンドです。メンバーは左から宮平直樹さん(ギター)、前川真悟さん(ヴォーカル/ベース)、中村洋貴さん(ドラム)、新屋行裕さん(ギター)。

沖縄の美しい自然、アンマーたちのおおらかな笑顔、温かい空気感、そこに流れるかりゆし58のやさしいヴォーカルと演奏は、癒しを通り越して聴く人それぞれの母親への郷愁を呼び起こします。

平和で母親への愛にあふれた『アンマー』ですが、実はこの名曲が生まれた背景には想像を絶する事実があったのです。

売れない…。最後通告をつきつけられたメンバー

今でこそ名曲として、10年もの長きに渡って愛され続けている『アンマー』。その誕生の裏には、かりゆし58の“最後”を賭けた決意があったといいます。

さまざまな困難を経て2005年2月にデビューしたかりゆし58ですが、早々に2000枚発売したCDのうち、1300枚が返品されるという難局に直面したそうです(関係者談)。

レコード会社からは、次がダメだった場合は契約を解消するかもと宣告される。ヴォーカルの前川は、それを受けてこう答えた。「もし次が最後になるのだったら、一番大切な人への想いを書いていいですか?CDを出せるチャンスなんてもう二度とないことだから」と。

出典関係者インタビューより

まさに最後の晩餐、特攻隊の最後の言葉に通じる覚悟を決めたかりゆし58は、ヴォーカル前川さんの“アンマー(母親)”への愚直なまでの想いを歌にします。そうして生まれたのが『アンマー』でした。

母から授かった人生の中で、今音楽をしている

アンマーよ
アナタは私の全てを許し全てを信じ全てを包み込んで
惜しみもせずに何もかも私の上に注ぎ続けてきたのに
アンマーよ
それでも私は気付かずに思いのままに過ごしてきたのでした

出典 https://www.youtube.com

産まれてから母へ迷惑ばかりかけ続け、その愛に気づき、そして素直に感謝の気持ちを伝えることができるようになり、やがて自分も親になる…。5分間の歌の中には前川さんの人生と母親への深い愛が凝縮されています。

沖縄の温かい空気感をたたえた陽気なメロディーとは裏腹の、深く、想いにあふれた歌詞。自分を産んでくれた母への感謝を素直に伝えられられず、抗い続けた若かりし日の葛藤が垣間みられる歌詞が聴く人の心を揺さぶるのでしょう。

実際、「アンマー」のMVに残されたコメントには、素直に感動したという声や、自分のことを見つめ直し、飾らない正直な言葉で母親への感謝を綴ったものが多く見られます。

やばいねこの歌、マジで泣きそうになったよ

出典 https://www.youtube.com

そうなんです。前川さんの歌声を聴くともちろんブワッとなるのですが、歌詞カードをじっくり読んでいるだけでも泣きそうになるんです。

私は今19歳ですが、母親と言い合いになることがほぼ毎日です。でも、その言い合いは、当たり前じゃないと思いました。母親がいるからできる。母親がいない方は言い合いもできないんですよね。そんな当たり前だと思っていた毎日に感謝をしなきゃいけないですよね。かりゆし58の前川さんがどんな想いでこの曲を作り、歌われているのか、曲を通してひしひしと伝わってきました。日本語が下手ですみません。とにかく、母親の大切さ、生んでくれたことへの感謝を考えました。

出典 https://www.youtube.com

若い世代の人たちも、「アンマー」に込められた想いを感じ取り、自分に重ね合わせているんですね。

出典 http://kariyushi58.com

「母から授かった人生の中で、今音楽をしています。その活動を支えてくれる最も大切な曲のひとつが『アンマー』です。」

今年2月に発売されたデビュー10周年記念ベストアルバム『とぅしびぃ、かりゆし』で、前川さんは『アンマー』についてこうコメントしています。

最後通告を言い渡されたから“売れる”曲を作ったのではない、“歌いたい”曲を作ったかりゆし58の10年前の決意は、今も彼らの音楽活動の原動力になっているようです。

音楽の枠を越えて広がっていく『アンマー』の世界観

『アンマー』に支えられ、音楽活動を続けてきて今年10周年を迎えたかりゆし58。この10年の間に『アンマー』は、CDを手にした人だけでなくライヴに訪れたファン、ラジオやカラオケで耳にした人、結婚式で母への感謝を込めたカップルなど、多くのシーンで多くの人々に感動を与えてきました。

そんな『アンマー』に心を動かされた人たちの中には、ある人気小説家もいました。

出典 http://ldandk.com

『図書館戦争』シリーズや『植物図鑑』など、映像化でも話題作を数多く生み出している小説家の有川浩さんです。

多くの人たちと同じく『アンマー』に心を動かされた有川さんは、ヴォーカル前川さんの歌声に「物語を感じて」、なんと長編小説を書き上げてしまったのだとか。

有川浩さんの最新作『アンマーとぼくら』

出典 http://ldandk.com

今年7月に発売された長編小説『アンマーとぼくら』は、有川さん自身が「現時点での最高傑作」と述べるほどで期待が膨らみます。『アンマー』から着想を得て生まれ、沖縄を舞台に母と息子の少し不思議で深い絆が描かれた作品。読み終えた時には母親の声が聞きたくなったり、会いたくなったりするかもしれません。

かりゆし58の“最後”を賭けた決意から生まれた『アンマー』は、多くの人に聴かれ、歌い継がれていくだけでなく、音楽の枠を越え、様々な分野に影響を与え続けるまさに名曲です。どこまでも広がる『アンマー』の世界観、これからも注目していきたいですね。

この記事を書いたユーザー

フキロック このユーザーの他の記事を見る

カルチャー全般と洗濯が好きです。

権利侵害申告はこちら

Spotlightのライターなら1記事最大3000円もらえる!日本最大級メディアでライターデビューのチャンス