2012年4月18日、カナダ・ブリティッシュコロンビア州のグラハム島で、日本のナンバープレートがついた1台のバイクが発見されました。バイクを見つけたのは、この島に住むピーター・マークさん。バイクはコンテナに入った状態でビーチに流れ着いていた為、しっかりと元の形を残していました。

バイクが発見される約1年前、2011年3月11日に発生した東日本大震災は、世界中で報道され、多くの人がその被害の大きさに胸を痛めました。バイクを発見したマークさんもそんな一人。そしてナンバープレートやコンテナに書かれている日本語を見て、もしかしてこのバイクは、あの時の津波の流失物ではないかと考えたのです。

発見されたバイクは1450ccのハーレー・ダビッドソンのナイトトレイン。なんと約1年をかけて太平洋6500kmを横断し、グラハム島にたどり着きマークさんに発見されたのです。カナダCBCで放送されたこのニュースを見たハーレーの代理業者がナンバープレートから所有者を探し出し、持ち主は宮城県山元町に住む横山育生さんと判明しました。

これを受けて、米・ハーレー・ダビッドソン社が「無償で修理して日本の横山さんの元に送りたい」と申し出ました。バイクの運搬はハーレー・ダビッドソン社が全面協力し、日本到着後の保管場所には、仮設住宅住まいの横山さんの為に販売代理店が名乗りをあげるなど、多くの人たちが協力を申し出ました。

暮らしの中にバイクという存在がある人ならば、横山さんにとってこのバイクがどれほど大切な存在か、想像に難くないと思います。その大切なバイクが1年の時を経て海の向こうで見つかり、更に元の姿で戻ってくる…どれほど嬉しかったことでしょう。

しかしハーレー・ダビッドソン社からの親切な申し出に対して、横山さんの答えは意外なものでした。

そのバイクは、現状のままミュージアムに展示してほしい

2012年5月25日、ハーレーダビッドソン ジャパン株式会社マーケティング&コミュニケーションズ広報からのプレスリリースで、横山さんからのコメントが公開されました。

東日本大震災により流失した私のハーレーダビッドソンが、被災から約1年の時を経過して約6,500kmも離れたカナダで発見されたことについては、驚きの一言に尽きます。また、発見いただきましたマークさんに対しましては、本来、カナダを訪れ、直接御礼を申し上げるべきところでありますが、未だ震災の影響等もありますことから、この場をお借りして改めて御礼を申し上げます。

遠く離れたカナダにバイクが漂着し、私の所有物であることが判明以来、多くの方々にご注目いただきましたが、未曾有の惨事となった東日本大震災が風化することのないよう、現状のまましかるべき場所に展示いただき、多くの方々に見ていただけるようハーレーダビッドソンミュージアムでの展示を希望したところであります。

出典 http://www.m-bike.sakura.ne.jp

震災当時、トラックの荷台を改造したコンテナにバイクを保管していた横山さん。しかし、津波によってバイクはコンテナごと流されてしまいました。そして横山さんの自宅も流され、家族3人が津波の犠牲となりました。

この震災では、あまりにも多くの人々が、かけがえのない物を失いました。横山さんはその多くの人々の思いを、6500キロ離れた海岸まで流れ着いたバイクに込めて、風化しない様に展示して欲しいと申し出たのです。

この度の一件も含め、震災以降、全世界の皆様から多大なる心温まるご支援を頂戴しましたことに対し、改めて御礼申し上げますとともに、東日本大震災という世界の歴史に残る大惨事を後世に伝えていただきますようよろしくお願いいたします。

出典 https://curation.ameba.jp

この横山さんの思いを汲んだハーレー・ダビッドソン社は、ミルウォーキーのミュージアムに横山さんのバイクを展示しました。

横山氏と協議を重ねましたが、未曾有の大震災から復興に向け苦闘している被災地の現状や横山氏の意思を尊重し、この大災害で失われたたくさんの命と、人生が大きく変わってしまった方々への追悼の意を込めて、当該車両をハーレーダビッドソンミュージアムへご寄贈いただき、保存されることとなりました。

出典 http://www.m-bike.sakura.ne.jp

展示場所では、震災による津波によって日本からカナダへ漂流してきた経緯が、世界地図のパネルを使っって説明されています。

バイクを発見したマークさんはNHKの取材に対し「横山さんの申し入れは理解できます。多くの人に見てもらうのは素晴らしいことですし、これを見た多くの人が自分に何ができるのかを考えるきっかけになれば…。オートバイを見つけて本当によかったと思っています。」と話しました。

2016年春にハーレー・ダビッドソンFacebookで紹介

ミルウォーキーのミュージアムを訪れた多くの人々が、2012年から展示されたこのバイクから様々な思いを受け取りました。そして2016年春、ハーレー・ダビッドソン社の公式HPにて、改めてこのバイクが展示されるに至った経緯の動画が公開され、多くの心を動かしました。

この動画は2016年8月1日現在、140万回以上再生され、2万8千を超えてシェアされています。コメント欄には「このバイクに込められた思いを、私たちは受け継いでいかなくてはいけないと思う」「横山さん、あなたの判断は本当に素晴らしい。尊敬します」「津波の恐ろしさが伝わってきたよ。どんなにか恐ろしかったことだろう」「このバイクを自分の目で見るために、今度ミュージアムを訪れようと思う」など600件を超えるコメントが寄せられました。

横山さんのバイクは今も尚、海水によってバイクの腐敗・劣化が進んでいます。しかし、津波の恐ろしさを伝える為、あえて対処はせずそのままにしているのだそうです。現在もケースの中であの日の津波と向き合い続ける横山さんのバイクは、多くの人たちに東日本大震災の大きな悲しみを伝え続けています。

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