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白石康次郎。1967年東京生まれ鎌倉育ち。神奈川県立三崎水産高等学校(現・神奈川県立海洋科学高等学校)在学中に、多田雄幸氏に師事。26歳の時、愛艇「スピリット・オブ・ユーコー」で世界最年少単独無寄港世界一周を達成。

96年には「エコ・チャレンジ ブリティッシュ・コロンビア」に出場、97年にはアドベンチャーレースの元祖と言われる「レイド・ゴロワーズ」南アフリカ大会に出場し日本人最高の11位に。

2002~2003年には、単独世界一周ヨットレース「アラウンド・アローン」参戦、クラスIIで4位を記録。2006~2007年には「VELUX 5オーシャンズ」(アラウンド・アローンより改名に)参戦し、クラスIで2位入賞。

今年11月には、単独無寄港無補給世界一周レース「ヴァンデ・グローブ」にアジア人として初参戦。現在、クラウドファンディングサイト「A‐port」で、支援を募集中。

単独無寄港無補給世界一周、2000時間のヨットレース

「地球って縦に走ると時間が変わらないんですよ。季節が変わる。横に走ると季節は変わらず、時間は変わる。

赤道あたりは子午線の幅が広いから、横切っても時間はあんまり変わらないけど、南極まで行くと、子午線が狭まってるから、どんどん時間が変わるんだよね!」

なんというスケール!ヨットで実際に走ってきた人ならではの話だ。白石康次郎さんは、これまで一人で世界一周を3度成功させた海洋冒険家である。

そもそも歴史上、世界一周を果たしたセーラーは200人に満たないという。その数、宇宙飛行者(飛行士・民間人含む)のおおよそ3分の1である。

で、今度は4度目に挑戦する。11月に行われる「ヴァンデ・グローブ」という、単独無寄港無補給世界一周ヨットレースだ。

4年に1度開催される。フランスの北西部・ヴァンデ県を出港し、アフリカ大陸に沿って南下、南極大陸を1周し、インド洋からオーストラリアの南を通って、アルゼンチンのホーン岬を回って北上し、大西洋を渡ってヴァンデ県に戻ってくる。

そうしたコースを白石さん、地球儀をグルグル回して指でなぞりながら説明してくれる。

「直線で行ければ早いものの、地球って丸いからね(笑)。普通に生活してると、あんまり意識しないんだけど。いったん出港したら、外部援助は禁止。故障しても修理のためにどこかに寄港することすらできません。

普通のスポーツの競技時間ってせいぜい2時間ほどですよね、僕らは人類最小単位(1人)で2000時間というレース。スタートしたらゴールまで時計は止まりません。

2000時間のスピードレースです。クルーをたくさん乗せて行うレースでは『ボルボ・オーシャン・チャレンジ』という大会がありますが、一人でヨットを操縦するレースでは『ヴァンデ・グローブ』は間違いなく世界最高峰ですね」

2000時間=おおよそ83日間。4年前に行われた前回大会では初めて優勝タイムが80日を切ったという。参加30艇のうち、完走率はおおよそ50%。

このレースの「何がいちばんきついか」を尋ねると、白石さん、ものすごく意外なことを言った。

「出場することです。まず船が新艇で3億5000万円ぐらいするんですよ。企業がバックについたワークスチームは人件費なども含め、10億円規模の予算で臨みます。今回は5チームぐらいがエントリーしてるかな。

あとはみんな中古艇。これが半額ぐらい。なんやかんやでそれでも総額3億~4億円は必要なんです。

でも、何しろ完走率50%。
リスクの高い案件に何億もお金を出してくれるスポンサーを見つけ、交渉する技量がないとレースに出られません。

そういう意味での“陸の冒険”が厳しいんですね。それができてようやくレースに出られることになるんです」

当然ながらスポンサー探しは、自ら率先して動く。少しでも、ヨットレースとうまくリンクできそうな案件があれば、頭脳は高速回転を始める。

ちなみにこの取材の日も、カメラマンが自身のヘビーデューティーな携帯電話を紹介したところ、航海中にそれを使って画像や動画を撮影し、通信することで、うまくスポンサードにつながらないかを、即座に議論し始めた。

マネジャー氏にアイデアを伝え、「うん、うまくいくかもな!」とニコニコしている。

お金集めは、レース出場が決まってもなお続いていて、現在は「A‐port」でクラウドファンディングを行っている。新しいセール(帆)を手に入れるためで、目標金額は5000万円。なるほどヨットはお金がかかる。

実は白石さん、前回・前々回と2度、このレースに挑んで失敗した。“陸の冒険”のほうで、だ。前々回はメインスポンサーの倒産に見舞われ、前回は東日本大震災とリーマンショックの影響をもろに受けた。

今回もギリギリだった。「ヴァンデ・グローブ」には、予選となるレースがいくつか設定されていて、それを完走しないことには出場資格が得られない。

その最後のチャンスが今年5月に行われたニューヨーク・ヴァンデ間の大西洋横断レース。3月になんとかこのレースに出場できるだけのお金が集まり、4月に中古艇を買い、実際に船に触れたのは出走の3週間前。で、完走。14艇中7位に入った。

「奇跡ですね(笑)。通常はレースの1年前には船が完成しているものなんです。

初めての船に3週間付き合っただけで、大西洋を渡るって!案の定、準備不足でエンジンが壊れ、電源がなくなったので、かろうじてバッテリーに残った電気を使って1日2回のメールを送り、1日1回だけ船のポジションを確認。

航海灯も船室の明かりも使わず、夜はヘッドランプだけ。比喩ではなくずーっと舵を握りながら12日間で渡りきりました。今回は、もう奇跡を起こすしかないと思ったんです。それで、自分から奇跡を起こしたんです」

自分から、奇跡を、起こした――と。何を言ってるんだ、この人は。

ビジネスにも使える「奇跡の起こし方」

「僕には、奇跡を起こすやり方が見えてるんです」

話が超自然じみてきたので、こちらの困ったそぶりが一瞬見えたのかもしれない。白石さん、ニコニコ笑いながら「それには、いつも元気で明るくしておくこと」と、元気に明るく言い放った。

「人は、奇跡が起きますようにって神様に祈るけど、そうじゃなくて“神を祈る”っていうのかな…つまり、神様のとる行動と同じ行動をすれば、神様と同じ結果が得られるんじゃないかと思ってるんですね」

それが「いつも元気で明るくしておくこと」。

「要するに、神様って別に何もしないじゃないですか。普通にそこにいるだけ。そういうふうに自分もあろうと心がけているんです。

どんなに辛く苦しくても、元気で明るくいて、人に接しようと思っています。そうするといい判断ができる。自分が不安だと邪な考えに陥るんです。

誰しも“いい判断をしよう”と思うんですけど、ポイントは、その時の自分自身の状態なんです。常に自分が前向きで明るく元気でいる。その状態で判断するとおのずといい判断になる。

だから、いい判断をしようと心がけるんじゃなくて、いい判断ができる状態の自分でいようと心がける」

白石さんが明るく元気で前向きなのは、インタビューが始まって1時間、完全に実感させられている。

でもそれだけの己のメンタルのコントロールは、並大抵の努力ではできないことではないだろうか。…実際、並大抵ではない経験を踏まえてたどり着いた境地なのであった。

鎌倉に生まれ、海に親しんできた白石さんだったが、ヨットを志したのは高校時代。のちに師匠となる多田雄幸さんが、単独世界一周ヨットレースで優勝するのを見たのがきっかけだった。

38歳で独学でヨットを始め、個人タクシーの運転手をしながら資金を貯めてレースに臨んでいた多田さんを、東京駅の公衆電話の電話帳から探し当て、飛び込み訪問。

で、弟子入り。師匠のサポートをしつつ経験を積み、あるプライベートなクルーザーのスタッフとして働いて300万円を貯め、伊豆の造船所に住み込んで、自分の船を造り、単独無寄港世界一周を志したのが25歳の時。

で、2度失敗した。

「100%成功を信じていました。疑いもしなかった。これだけ頑張った自分の夢が叶わないはずがないと。もう意気揚々ですよ。でも、舵のトラブルであえなく引き返すことになりました。

伊豆の造船所では僕に飯を食わせてくれて、道具や工具も全部貸してくれて、また船を直したんです。今度こそ大丈夫だ、と啖呵を切りました。そしたらグアム島でマストのトラブル…引きこもりましたよ」

もはやスポンサーもつかず、それでも船を修理し、なんとか3度目を目指していた時、造船所の親方にポツリと言われたという。

“こうちゃんはヨットのお尻を叩きながら走ってるようだな。船を愛するんだよ”

「当時の僕は、海も船も見ていなかったんですね。“成功する”“最年少で世界一周”っていう自分の都合を何より優先していた。それは僕が思っているだけ。

海は人間の作り出したものじゃないから、人間がどう考えても関係ない。別に僕に世界一周されたがってるわけではないですからね。

そこにまったく気づいていなかった。ほめられたい、記録を打ち立てたいっていう余分なフィルターが何枚もかかった状態で海を見ていた」

“生きてさえいれば、何度でもチャレンジできるんだからな”

「3回目失敗したら、帰ってこないつもりだったんです。だってもう死んだほうが楽だったから。それを親方はわかってたんだね。そういう我を捨てて、素直に海と向き合い、とにかく朗らかに漕ぎ出したら、“たまたま世界一周ができた”」

それが奇跡の起こし方の顛末。

ただもちろん、明るく元気でいればすべてを成し得るかというと話は別。そこには「実力」という要素も介在する。白石さん、この2度の失敗でそこのところも痛感したという。

「圧倒的に実力不足だったんだよね。でも、チャレンジして失敗して少し実力がついた。もう1回チャレンジして失敗して、また少し実力がついた。当たり前のことを言うようだけど、実力をつけるためにはチャレンジするしかないんだよね。

僕、時々企業研修みたいな席で、読者世代(25~30歳)の上司の人たちに講演することがあるんだけど、“若者にチャレンジするよう言ってください”って言うんです。間違っちゃいけないのは、そこで若者が失敗しても怒ってはいけないということ。

“チャレンジしろ”って言って、チャレンジしたんだから何もおかしなことはしてないんだよ。だからと言って“結果を出せ”って言うのは危うい。そうすると、若者たちは結果が出せそうなことしかしなくなる。

つまり実力がつかない。そんな社員ばっかりになると会社潰れるよ、と(笑)。チャレンジすれば成長する。僕だって繰り返し繰り返しチャレンジして、ヨットを始めて30年かかってようやく今回のレースに出られるようになったんだから。

まあ、それは好きだったからなんだけど。好きなことをやると続く、そのうちに実力がつく」

一気に語り、白石さんは「僕は満足してるんだよ」と、凪いだような表情を浮かべる。そうか、まさに僕たちは、夢を叶えようとしている男と話をしているのだ。

まだまだお金のこととか、なすべきことはいろいろあるかもしれないけれど、人生の大いなる目標のゴールテープを切ろうとしている人が目の前にいて…。

「とんでもない!これはまず初めての『ヴァンデ・グローブ』への挑戦。次に出る時は新艇で出たいし、もっともっと早く走って優勝したいし。

あと、僕、鎌倉に住んでるんだけど、家から徒歩で港に行ってヨットで海を渡って、徒歩でエベレストに登るなんてこともしたいし…面白くない?テレビ局つかないかな(笑)。

あとは海洋教室で、嵐を乗り越える子どもたちを育てたい。自分の力で幸せになれるたくましさを持ってほしい。

そういう中から、ゆくゆくは世界に対抗できるセーラーが生まれてきても嬉しいし!今、49歳だけど、やりたいことやるのに、寿命じゃ足りないくらいだよ!」

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