出典 http://tkj.jp

2016年1月5日の新聞4紙に掲載された女優・樹木希林さんを起用し話題となった宝島社の企業広告『死ぬときぐらい好きにさせてよ』が、第64回「朝日広告賞」グランプリを受賞しました。また今年から新設され、読者投票で決定する「朝日新聞読者賞」も同時受賞。この広告が多くの人たちの心を打つものだったと、改めて感じる結果となりました。

死について考えることで、どう生きるかを考えさせられるこの広告の写真は、ジョン・エヴァレット・ミレイの名作「オフィーリア」がモチーフとなっています。シェークスピアの悲劇「ハムレット」で、恋人のハムレットに自分の父を殺され気がふれてしまったオフィーリアが、川に落ち沈みゆく命の最期の場面を描いたと言われたこの1枚。美しい色彩と穏やかな樹木希林さんの笑顔が印象的です。

また、キャッチコピーの下に書かれているフレーズも、多くの人の心を掴みました。

人は必ず死ぬというのに。
長生きを叶える技術ばかりが進歩して 
なんとまあ死ににくい時代になったことでしょう。
死を疎むことなく、死を焦ることもなく。
ひとつひとつの欲を手放して、身じまいをしていきたいと思うのです。
人は死ねば宇宙の塵芥。せめて美しく輝く塵になりたい。
それが、私の最後の欲なのです。

出典宝島社30段広告 2016年1月5日

実はこのフレーズの中にある『人は死ねば宇宙の塵芥。せめて美しく輝く“塵”になりたい。』は、最初の案では『せめて美しく輝く“星”になりたい。』だったのだそうです。しかし希林さんとの話し合いの中で、『“塵”になりたい』に決まったのだとか。“星”ではなく“塵”とした希林さんの、ちっぽけな一人である私たちすべての命への思いを感じられます。

「生きるのも日常、死んでいくのも日常」

この広告の撮影にあたり、希林さんが語った「生きるのも日常、死んでいくのも日常」という言葉が、希林さんの死生観を表している様な気がします。

「死というのは悪いことではない。それは当たり前にやってくるもので、自分が生きたいように死んでいきたい。最後は、もろとも宇宙の塵になりて。そんな気持ちでいるんです。」

出典 http://tkj.jp

2013年の日本アカデミー賞授賞式のスピーチで「全身ががん」である事を告白した希林さん。2005年に乳がんが見つかり摘出手術するも「3箇所位皮膚に転移した」とわかり治療しているうちに、今度は5~6ヶ所の転移が見つかり、更には副腎にも大きなガンが発見。「お医者さまからは全身がんと言われました」と語り世間を驚かせますが、2014年1月の記者会見で、ガン治療が無事終了したことを報告しました。

そんな樹木希林さんの語る死生観には、胸を打つものが数多くあります。

病がダメで健康はいいものなんて、そんな分け方では人生つまんない

「がんはありがたい病気。周囲の相手が自分と真剣に向き合ってくれますから。ひょっとしたら、この人は来年はいないかもしれないと思ったら、その人との時間は大事でしょう? そういう意味で、がんは面白いのよ」

出典 http://www.umareru.jp

「がんをやってから感じているのは、医療をもって体を治すことと、考え方や生活習慣による心の状態があって、現代はこの2つがぶち切れている気がする。西洋的な善悪に分けるのではなく、表と裏、病と健康、善悪が一つの中にある。それが総体的にひとりの人間となって生き生きしてくるんじゃないかしらね。病がダメで健康はいいものなんて、そんな分け方では人生つまんない」

出典「文芸春秋」 2014.年5月号

「この年になると、がんだけじゃなくていろんな病気にかかりますし、不自由になります。腰が重くなって、目がかすんで針に糸も通らなくなっていく。でもね、それでいいの。こうやって人間は自分の不自由さに仕えて成熟していくんです。若くても不自由なことはたくさんあると思います。それは自分のことだけではなく、他人だったり、ときにはわが子だったりもします。でも、その不自由さを何とかしようとするんじゃなくて、不自由なまま、おもしろがっていく。それが大事なんじゃないかと思うんです」

出典 http://futoko.publishers.fm

死を身近で見られない今は、ちょっと不幸な時代

「一般の世の中の人は、死というものを特別なものとして、そういうものを見ないように避けて通るんだなぁと思います。親しい人の死が身近に見られない今の世の中は、ちょっと不幸な時代になったのかなと。損しているなと思いますね」

出典宝島社「死ぬときぐらい好きにさせてよ」広告発表会見

「死に向けて行う作業は、おわびですね。謝るのはお金がかからないから、ケチな私にピッタリなのよ。謝っちゃったら、すっきりするしね」

出典 http://www.umareru.jp

「やったことがほんのわずかだもの。やり残したことばっかりでしょう、きっと。一人の人間が生まれてから死ぬまでの間、本当にたわいもない人生だから、大仰には考えない。」

出典毎日新聞『おんなのしんぶん 対談・別所哲也』2014年10月31日

「自分が生きてきたことが、人様のご迷惑にならないようにと思ってるの。生きていることによって、出すゴミがないようにね(笑)。『役目を存分に果たした』と思えるように、「人生を始末」する気持ちで毎日を過ごしてるのよ。新しいものはめったに欲しいと思わないし、家のテレビはいまだにブラウン管なんだから(笑)」

出典 http://www.umareru.jp

出典 http://gaga.ne.jp

物の冥利を見極めて終わりたいからと、シャツや靴下は切って雑巾にして掃除に使うなど今あるものをとことん使い切り、不要な贈り物は「使いませんから」ときっぱり断るという希林さん。粗大ごみから拾ってきたものをオイルステインを塗って使ったり、お正月にお孫さんへのお年玉には箸袋を再利用して作ったお年玉袋を使って渡したりしてるそうです。

そういえば、先日のカンヌ映画祭でお召しになっていたこの着物も、娘の也哉子さんが結婚式のお色直しで着ていたもの。元は希林さんが古着屋さんで見つけて購入したものなのだそう。命あるもの、形あるものを最後までしっかりと使い切る、その姿勢こそ希林さんの「生き様」そのものの様です。

来世では内田とはもう逢いたくない。もし次逢ったら、また好きになってしまって大変な人生を送ることになるから

「私は「なんで夫と別れないの」とよく聞かれますが、私にとってはありがたい存在です。ありがたいというのは漢字で書くと「有難い」、難が有る、と書きます。人がなぜ生まれたかと言えば、いろんな難を受けながら成熟していくためなんじゃないでしょうか」

出典 http://futoko.publishers.fm

「どれだけ人間が生まれて、合わない環境であっても、そこで出会うものがすべて必然なんだと思って、受け取り方を変えていく。そうすると成熟していくような気がするのよね。それで死に向かっていくのだろうと思う」

出典毎日新聞『おんなのしんぶん 対談・別所哲也』2014年10月31日

「全部、好きです。すべて、何もかも、好きです。そしてね、もし、来世というものがあって、生まれ変わることがあるのなら、どうか、どうにか、また巡り合うことがないように、出会わないように、気をつけたいわね、と言い合ってるんです。彼と出会ってしまえば、また好きになって大変な人生を送ることになるから」

出典テレビ朝日「徹子の部屋」2010年9月10日

結婚して2年で別居、内田さんの浮気やDVなどもありずっと別居が続く中、昭和56年に内田さんが無断で区役所に離婚届を出しました。希林さんが離婚無効の訴訟を起こし、裁判の結果「離婚は無効」となったお二人は、それ以降も別居婚が続き、年に1回会う位だったのだそうです。

しかし、乳がんの手術を前に「このまま裕也さんを恨んで死ぬのは悪いな」と思って、知人に仲介してもらい謝罪の席を設けてもらった希林さん。しかし内田さんは話しをはぐらかしてなかなか核心には触れさせてくれませんでした。そこで希林さん、ついに「ちょっと私にしゃべらせて!」と怒鳴って内田さんの首根っこをつかまえて「謝らせてちょうだい!」と言って謝ったのだとか。仲介してくれた知人は「けんかごしで謝っている現場を初めて見た」と言っていたそうです。

その時は何も言わずに帰宅した内田さんでしたが、その後に会った人たちから内田さんが上機嫌だったと聞かされ「夫は何かを承知したんでしょうね」と希林さん。それからは、月に1度は会って話をする関係になったのだそうです。

「嫌な話になったとしても、顔だけは笑うようにしているのよ。井戸のポンプでも、動かしていれば、そのうち水が出てくるでしょう。同じように、面白くなくても、にっこり笑っていると、だんだん嬉しい感情が湧いてくるのよ」

出典産経新聞 2009年2月20日

「今日、用事があることを『今日用(きょうよう)』と言っているんだけど、神さまがお与えくださった『今日用』に向き合うことが毎日の幸せなのよね。『今日用』をこなす事が、人生を使い切ったという安堵につながるんじゃない?(笑)」

出典 http://www.umareru.jp

映画祭の授賞式では「疲れたわ」と勝手に司会者席に座ってしまったり、映画の宣伝で出演した番組では「これ観た人が映画を観に来るとは思えないけど来た」と発言したりと、なんとも自由な印象の希林さん。大女優でありながら「人に迷惑をかけない生き方をしたい」と、マネージャーをつけずにスケジュールやギャラ交渉までFAXと留守電だけで自分でこなし、自分で車を運転して電車にも当たり前に乗って仕事場へ移動しています。

希林さんの言葉を読んでいると、自然体に生きる事とはこんなにも覚悟が必要で、けれどこんなにもクールで格好いいものかと圧倒されてしまいます。希林さんご自身が「がんと向き合う事で変わった事も多い」と語っていますが、私たちもあえて「自分の死」というものと向き合ってみる事で、今ある「自分の生」をどれだけ輝かせる事が出来るのか見えてくるものがあるかもしれません。

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