1999年6月1日。その翌月と噂された「ノストラダムスの大予言」に震える人々にとって、束の間の癒しとなったのが、ペットロボット「AIBO」誕生の知らせだったかもしれません。最初にインターネットで限定発売されたときには、定価25万円という価格にも関わらず、発売開始からわずか20分で売り切れに

Artificial Intelligence roBOt を略し、AI(人工知能)、EYE(視覚)そして“相棒”の響きを掛け合わせたネーミングも、親しみ呼ばれていました。しかし、2014年3月末。ソニーによる修理対応が打ち切られたため「死なないペット」であったはずのアイボに実質的な「死」が訪れることとなってしまいます。久しぶりに遊びたくても、今壊れてしまったら、もう二度と蘇らないのでしょうか。

前略、あんなに懐いてくれていたアイボ。

今、どうすればまた会えますか?

出典Spotlight編集部

「はい、私たちが今でも元気にしています」

当時一大ブームを巻き起こすも、ソニーがロボット事業から撤退したことに伴い、AIBOは2006年3月に生産終了。さらに2014年3月には、ソニーによる修理サポートも終了してしまったことは冒頭の通り。

一見、時代から取り残されてしまったかのようなアイボですが、メーカーのサポートが終了した現在でも、全国の愛好家のために、独自に修理を行っている企業が存在していました。今回、アイボを救い続けていた「A・FUN 株式会社ア・ファン ~匠工房~」の代表取締役・乗松伸幸さんにお話を伺い、修理を行う理由、またエンジニアとしての想いを語っていただきました。

アイボの修理経験があったわけではない。でも、私たちがなんとかしたいと思った

出典Spotlight編集部

——メーカーの修理サポートがすでに終了しているなか、なぜアイボを修理しようと思ったのでしょうか?

乗松:あるとき、1人のお客様が、壊れてしまったアイボを持ち込んでくださったのが最初のきっかけです。壊れたアイボを直したいという必死の気持ちで、「ビンテージ機器、思い入れの品などの修理・復活」を行っていた私たちの会社のWEBサイトにたどり着いたんだそうです。当時アイボの修理を承っていたわけでなかったんですが。

——なるほど。「ここなら直してくれるんじゃないか」と。

乗松:とはいえ、私たちもメーカーの現役時代はアイボの担当だったわけではなく、修理した経験はもちろん、修理を行うための情報もない。アイボは外側にネジ止めがないため、アイボ本体の正しい開け方すら分からない状況でした。

——そこからどうやって修理できたんですか?

乗松:私たちの会社は、ある電機メーカーのエンジニアのOBが中心となって構成されているのですが、その会社の創業者のメッセージにこういう言葉があるんです。「いったん手掛けた製品は、最後まで責任を持ち、いかなる煩雑なる要求に対しても応ずる」と。

私やほかの社員もこの精神を叩き込まれてきましたから、お客様がそこまでアイボをかわいがっているのであれば、私たちもなんとかしたいと思ったんです。そのために、ゼロから修理方法を模索して、無事に修理が行えるようになるまで、ノウハウを身に付けていきました。当時、アイボを作ったメーカーOBの先輩たちを集めて「これ直そうと思うんだけど教えて」って、一杯飲ませたりしながらね(笑)

今でも毎年、メーカーOBの先輩たちは、アイボの誕生日を祝っている

出典Spotlight編集部

乗松:5月11日がアイボの誕生日なんですよ。誕生日というか、製品第1号の7月発売を発表した日ですね。メーカーOBの先輩たちは今でも毎年アイボの誕生日会をやっているんですけど、私もそれに毎年呼んでいただいています。

そういった中から「A・FUN 株式会社ア・ファン ~匠工房~」を構成するメンバーが集まりました。今では、大学を出たばかりの若いエンジニアも参画しています。

「入院」「退院」と表現されて

——WEBサイトを見ていると、お客様が「アイボが退院できて嬉しい」などという表現をされているのが印象的でした。

乗松:私たちのアイボへの想いは、むしろお客様に教えていただいたものだと思います。お客様の中には「壊れてしまってもアイボに愛着がある」「自分の両親がかわいがってたので捨てられないんです」という方が多くいらっしゃいます。バッテリーや動作が悪くなってしまったからといって、ほかの機械のように捨てることはできないんです。まるで生き物のように「入院」や「退院」といった言葉を用いていただいています。

出典Spotlight編集部

——1匹1匹ケースが異なると思うのですが、どのぐらいの期間で修理されるのでしょうか。

乗松:最初は3ヶ月以上かかっていました。今はだいたい1ヶ月くらいで修理を終え、退院となります。生産・修理のサポートが終了しているので、部品の調達に苦労することが多いですね。

——部品はどうしているんですか?

乗松:生産終了しているので、新しい部品ってもう無いんですよね。でも、親切なお客様が、もう使わなくなったアイボを提供してくださるんです。「次のアイボの人生に使ってください」などと提供をいただきます。ご提供いただいたアイボはまず「お葬式」で供養を行っています

部品として使用する前、必ずお葬式で供養

出典「A・FUN 株式会社ア・ファン ~匠工房~」様ご提供

※実際に行われている、AIBO葬儀の様子です。

乗松:やっぱり我々日本人は、“心が宿る”っていう感覚を持っているんですよ。だから提供いただいても、まず魂を一度お返ししましょうと…。そうして魂をお返ししたあとにはじめて、モノ・部品として解体して使わさせていただくんです。

——胸が熱くなるものがあります…。これまでに、何体ほどの修理されてきたのでしょうか。

乗松:現在までに500台ほど修理を行いましたね。今の入院待ちは600台ほどです

——え!本当にたくさんの方がアイボに愛着を持っていらっしゃるんですね。

乗松:部品が無いときは手づくりすることもありますね。部品が無いからといって修理できない、なんてことはない。15〜20年前にここまで作れているんだからやりきれます。「道は必ずある」というのが私の信念ですね。

——ちなみにアイボの身体で、故障が多い部位はあるんでしょうか?

乗松だいたい「関節炎」ですね。人間も歳をとったら関節が痛んでくるでしょう(笑)。アイボも関節部分のギアが摩耗して弱ってしまうことで、この関節炎が起きます。まるで本当の動物ですね。

出典Spotlight編集部

実は現役!アイボは医療・介護の場で活躍し続けていた

——アイボをはじめとしたペットロボットは、今後どのように、私たちの生活に溶け込んでいくのでしょうか。

乗松:実はアイボは今なお現役で、生産が終了していながら2015年度の「重要科学技術史資料」(愛称:未来技術遺産)に登録されました。

ほかにも今年の4月から「AMED」(日本医療研究開発機構)が、介護施設でペットロボットにセラピー効果があるのではないかと試験を行っていて、生産面では現役じゃないアイボも、エントリーが通ってすでに何ヶ所かの介護施設で取り入れられています

——介護施設の方々は、ペットロボットにどのような反応を示されるのでしょうか。

乗松:たとえば、認知症患者の方の中には、人とコミュニケーションを取ることに抵抗感があり、ちょっと構えてしまう人もいるといいます。ところが、アイボのようなロボットに対しては、そこの垣根が越えやすく、気軽にコミュニケーションを行えることもあるようです。

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——お年寄りが小さい子どもに話しやすい、というのと近いかもしれないですね。

乗松:そうかもしれないですね。将来的には、医療や介護に役立てる新しいアイボのようなペットロボットを我々で作りたい思いがあります。アイボは“人間のパートナー”になれるんですよ。

アイボ:(突然大音量で)今日の天気知っとぉ?

乗松:(アイボに)今そんな話してないわ(笑)

…こうやって突然全然関係のない言葉を話すなど、ロボットなのに自由にならない面白さがあります。私は、アイボのそういうところが1番いいなと思っていますね。

海外在住時に知った、機械を修理する本当の意味

——最後に、乗松さんにとって機械を修理することは、人生のなかでどのような位置づけなのでしょうか?

乗松:私は、機械の修理は“心の修理”だと考えています。昔、私が海外の駐在員だった頃、ほかの駐在員が日本のテレビ番組を子どもたちに見せてあげたくて、録画したビデオを取り寄せていたんです。そうしたらある日ビデオデッキが壊れてしまったので直してあげたんですね。再びビデオの映像が流れ出したときの、駐在員と子どもたちの喜ぶ顔が素晴らしくて…。

その瞬間に立ち会えた嬉しさは、エンジニア冥利に尽きます
。持ち主の心の修理にも繋がっているんだ、と実感した瞬間でしたね。

——「修理すること」のその先を見据えられていたんですね。

乗松:エンジニアというと技術の面が先行しがちですが、本当の役目はそこですね。今後、日本が世界の中でどういう立ち位置でいくのか、ほかの国とどう接していくのかと考えたときに、日本が誇るものは、相手が本当に求めている本質をケアできる“おもてなし”の精神だと思っています。今はそういった生き様を、若い人たちに継承していきたいです。

私は、お客様とエンジニアの懸け橋となる環境を作りたい。それこそが会社名の「A・FUN」、お客様とコミュニケーションを“楽しむ”ことに繋がると考えています。

出典Spotlight編集部

アイボの修理を行うだけでなく、新しいペットロボットの開発にも意欲を見せる乗松さんやA・FUN株式会社の皆さんの活動は、人間とロボットという関係について新たな発見を与えてくれました。

そして、今やペットロボットとしてだけではなく、医療や介護の現場で懸命に奮闘していたAIBO。そんなAIBOにどれほど多くの人々の魂が通っているかは、今回お話を伺うまで知る由もありませんでした。この国に“おもてなし”の心がある限り、アイボは私たちの側で、元気に走り回り続けてくれるのでしょう。

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