ネットやテレビで話題のニュースに関して、編集部が独自の切り口で取材調査をする「ソコ行く!?ソレ聞く!?取材班」のコーナー。今回も興味深いお話を伺ってきました。

ZOZOTOWN創業者・前澤氏62億円で絵画を落札

ZOZOTOWNの創業者である前澤友作氏がオークションでジャン=ミシェル・バスキアの絵画を62.4億円で落札したニュースが大きな反響を呼んでいました。

そこで今回は、訪れた美術展の感想などを掲載している人気美術ブログ「弐代目・青い日記帳」を運営する中村剛士さんへお話を伺うことに。高額になる美術品ってどんなもの?コレクターは美術品を集めてどうするの?ちょっと敷居が高いと感じていた、美術に関する様々なことを教えていただきます。

62億円で絵を買うのは金持ちの道楽ではない

――本日はよろしくお願いいたします。早速ですが前澤氏のニュース、中村さんはどう感じられましたか?

中村:いやぁ、よくぞやってくれた!って思いますね!

出典編集部撮影

――と、おっしゃいますと?

中村:前澤氏が美術館をつくろうとしていることを知っていますか?ご自身が影響を受けた作品を集めて、その素晴らしさを広めたい、と考えていらっしゃるんですね。「後世にこの作品を受け継いでいく重要な責任がある」とコメントもある。自らの資産でそれを行うって、なかなかできることじゃないですよ。

――それは知りませんでした。ネットではこのニュースに関して「絵1枚に62億円なんて、金持ちの道楽」といった見方もありましたが…。

中村:金額が大きい分、そう思われてしまうのでしょうか。買いたい、所有したい、といった感情だけではなく、いいと思ったものはみんなと共有したり、広めていこうとするのが、美術を好きな人の間にある文化だと思います。

――誰かに広められることによって、絵の価値がさらに高まっていくこともあるのでしょうか。

中村:あります。たとえばフランスの「印象派」。モネとか、ルノワールとか、聞いたことがありますよね。印象派って描かれた当初、パリでは全然評価されなかったんですよ。最初に注目したのは、アメリカの資産家でした。購入した印象派の絵画をボストン美術館やメトロポリタン美術館に寄贈したことで、多くの人の目に留まり、「これはすごいぞ」と価値を見出されていったんです。

――たしかに、見られる機会がないと価値もわからないままですからね。

中村:そう。だから美術品を買って展示するって、単にいいものを広める以上に、新しい価値を生んでいくきっかけもつくる。非常に意味のあることなんですよ。ですから前澤氏には本当に、よくやってくれた!って思います。

美術品の価格はあらゆる要素に左右される

――しかし正直なところ、1枚の絵画の価格が62億円するということに対しては、「なんでそんなに高いの!?」と思ってしまいます。

中村:そうですね。たしかに美術品の価格って、曖昧で難しい。「何を根拠に62億円なのか?」と聞かれても、なかなか答えづらいところではありますね。

――今回のバスキアの絵画はなぜこんなにも高額になったのでしょうか?

中村:バスキアの絵は、昔から非常に人気が高いんですよね。植民地主義や人種差別など、アメリカの内包する社会問題に対する批判を含んだ表現を行ったことで、非常に注目を集めました。彼はドラッグが原因で、人気絶頂のときに27歳という若さでこの世を去りました。そのために作品数が限られていることも高額になっている理由だと思います。

政治的な主張を素晴らしい絵画作品として落とし込む才能がありながら若くして亡くなったため、彼の存在は神格化されている部分もあるのかもしれないですね。

――一般的には美術品の価格は、どのようなことから決まってくるのですか?

中村:一概には言えませんが、アーティストの知名度や技術力だったり、描かれた年代や時代背景だったり。そのときの流行にも左右されますね。

――いろんな要素が複雑に絡み合っているんですね。

中村:わかんなくなっちゃいますよね。私も「全然魅力感じないなぁ」と思うものが100億円以上して、驚くことがあります(笑)。ちなみに日本での値付けの文化は独特で、絵の大きさが基準となって決まることが多いんですよ。

絵の大きさは「号」という単位で数えます。ポストカードの大きさが「1号」。アーティストによって「1号あたり○○円」というのが決まっているんです。もちろん有名なアーティストの作品などは例外で、先ほど言ったような様々な要素で金額が変わります。

出典編集部撮影

――持ち込まれた美術品を鑑定士が見て値付けする、というテレビ番組もありますが、価格が決めづらいのであれば、あんなふうに短時間で金額を定めることも難しいですよね。

中村:テレビ番組などに出品されるものは、あらかじめ専門家が見て金額を算出していると思います。ああいったものの場合、金額以前に「本物かどうか」を見極める作業の方が実は大変だったりするみたいですね。

美術の楽しさは、つながりをひも解くこと

――お話を聞いていると、ますます美術って難しいものに思えてきました…。

中村:美術品の「価格」に関することは難しいです。でも美術品の「価格」と、美術品の「楽しさ」や「価値」は全く別物。最初は敷居が高かったりわからなかったりするかもしれませんが、とても楽しいものですよ。

――これまで美術に興味を持ってこなかった人でも、楽しめるポイントってありますか?

中村:美術品を見ながら、つながりをひも解くこと。これが美術を楽しむ大きなポイントだと思います。

出典編集部撮影

――つながりをひも解く、とは?

中村:音楽が好きな人は、自分の好きなアーティストが影響を受けた曲まで調べて一緒に聴いてみた経験があるでしょう。あるいはファッションが好きな人なら、流行が一定のサイクルで巡ってくるのを知ると楽しいですよね。美術も同じなんです。その絵が描かれた時代背景とか、画家が誰に師事していたなど、裏にあるものまで見るとより楽しめるはずです。

絵画を漫然と眺めるのではなく、まずは美術館に行く前に、展覧会サイトなどでその展覧会がどんなものか、展示されているアーティストはどんな人なのか、きちんと読んでから美術館に行くようにしてみてください。それだけでも楽しさが全く違いますよ。好きだと思った絵はメモして、誰かと感想を共有したり、あとからまた調べたりするのも楽しいですよ。

――なるほど、そういった「新しい発見」を重ねていくのが、「つながりをひも解く」ことであり、「美術の楽しみ」なんですね。この夏、中村さんが注目している展覧会についても教えてください。

中村:新国立美術館でやっている「ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち」という企画展示と、横浜美術館の「メアリー・カサット展」は注目しています。あとは、江戸東京博物館でやっている「大妖怪展」ですね。妖怪をテーマに国宝の絵も、妖怪ウォッチも展示されているそうです。これらが一同に見られるなんて、二度とないと思います。私たちにとって日本画はなじみもあるし、初めてでも楽しみやすいですよ。

――大妖怪展!それは面白そうですね!中村さんに教えていただいた楽しみ方を意識しながら、美術に親しんでみようと思います。

中村:ぜひ、楽しんでください。

あとがき : 美術の楽しみ方を知れたインタビュー

金額の大きさだけを聞くと驚くものの、美術コレクターとは、いい作品を広めていく使命感をもって美術に向き合っている人なのだと強く感じた取材でした。

「なぜ62億もするのか」は一概には言えないということでしたが、バスキアの人生や他の作品を調べながら、自分で「なぜ62億円もするんだろう?」と考えることも、中村さんの教えてくださった、つながりをひも解くという楽しみ方なのかもしれません。

下調べして、考えて。これまで遠く感じていた美術に、ちょっと近づく夏を過ごしてみるのも面白そうです。興味を持った方は、中村さんのブログ「弐代目・青い日記帳」も定期的にチェックしてみてください。

この記事を書いたユーザー

Spotlight編集部 あん このユーザーの他の記事を見る

ギリギリ昭和でゆるゆるゆとり世代。「わからないことは人に聞けば大体教えてもらえる」がモットーの、人物取材系の企画が好きなフリーランスのライターです。記事・企画とは全く関係なくとも、取材した人のグッとくる一言を収集する趣味があります。

権利侵害申告はこちら

Spotlightのライターなら1記事最大3000円もらえる!日本最大級メディアでライターデビューのチャンス