記事提供:サイゾーウーマン

一般社団法人MoLive(モリーヴ)代表・永森咲希さん。

不妊治療に励む夫婦が増える一方で、そのやめどきを考えるのは難しいといわれている。

自身も6年間の不妊治療の後、子どものいない人生を歩み、不妊治療の終結を考えている人や、決断した人の支援をしている一般社団法人「MoLive(モリーヴ)」の代表、永森咲希さんに話を聞いた。

■同じ立場の人とコミュニケーションを取りながら、不妊との折り合いをつけていく

――不妊治療に取り組む夫婦が増えた原因として、女性の社会進出が進んだ以外に、どんな理由が考えられますか?

永森咲希さん(以下、永森)芸能人が40歳を過ぎて妊娠し、子どもを産むといったニュースは目立って取り上げられますよね。

ついこの前も、藤原紀香さんが44歳という年齢で妊活を頑張るとおっしゃいましたが、そういった情報が目立っていることで、若い人も「妊娠は、それくらいの年齢で考えればいいんだ」と思いがちです。

私もたくさんの方を支援してきましたが、お金が貯まってから、キャリアを積んでからと、妊娠を後回しにしてしまう女性が増えているのが現状です。

なぜ後回しにしてしまうのかというと、不妊についての知識が、女性自身にも不足しているからといえます。

小学校から性教育がありますが、卵子の寿命や、何歳くらいから妊娠する力が減少していくのか、といった事実は、あまり伝えられません。

正確な知識さえあれば、妊娠を含めて自分の人生を段階的にイメージすることができるのではないでしょうか。性教育の一環として女性の生殖能力の事実を教えることは、国としても大きな課題ではないかと考えています。

――ご自身の不妊治療中の経験を振り返ってみて、どんなことが必要だったと思われますか?

永森 不妊治療中は、ひとりで抱え込みやすいんです。自分の胸の内を話せる場所がなく、誰にも言えずに答えも出ないまま、ぐるぐると考え続けてしまう。

今、私がやっている活動も、その時の経験が元になっていて、同じ悩みや葛藤を抱えている者同士が実際に顔を合わせて話をするというのは、ネットで意見を読むのとは明らかに違います。

自分の頭の中も整理されますし、当事者にしかわからないことを聞いたり話したりしながら意見を交わせることは大きな救いになります。

同じ立場の人たちとコミュニケーションを取りながら不妊との折り合いをつけていく、そういう場が必要なのではないかと思っています。

――不妊治療中のご夫婦も支援をされている永森さんから見て、夫婦の関係において大切なこととはなんでしょうか?

永森 ご夫婦の関係が十人十色であれば、不妊治療中の2人の関係も十人十色なので、一概には言えません。ただ、夫婦の間で温度差を感じてしまうケースは多く見られます。

女性は痛い注射を打ったり、副作用の強い薬を飲んだりと肉体的なストレスが強いこともあり、夫につらい気持ちをぶつける方も多いです。

それに対して、夫も受け止めようとしながら、何をどう受け止めたらよいのかわからず、妻への反応が乏しくなってしまう。妻からすると頼りないと思ってしまいがちです。

男性も不妊の理解には時間がかかるし、どうしていいかわからないという状況が、さらなる温度差を生んでいるのかもしれません。

永森 ほかにもいろいろなケースがありますが、必要なことはコミュニケーションだと思います。話し合いの場をつくって、夫も自分の気持ちを伝えることができれば、2人の関係も変わっていきます。

意思の疎通を図るために、自分たちに合ったコミュニケーションの方法を模索していくことが、不妊治療中の夫婦にはとても大切だと思います。

たとえ子どもができなかったとしても、夫婦は続いていくものですから。私も不妊治療中たくさん主人と喧嘩もして、お互いが気持ちを言える場をつくるよう試行錯誤しました。

だからでしょうか、今は一緒に戦場に行った同志のような深い絆を感じます。私たちが普通に子どもを授かって親になっていたら、こういう絆はなかったと思いますね。

■治療をやめたら不妊が終わるわけではない

――不妊治療の終結について、考えるべき時期や、大切なことはなんでしょうか?

永森 終結を考えるべき時期…これは大変難しいテーマですが、とても大事なことです。肉体的には考えるべき時期はあるでしょう。年齢、卵胞の発育具合、ホルモン値等を総合的に診て判断する。

治療をしていると、自分の体の状況に詳しくなるので、例えば卵胞の成長が衰えてきたとか、受精しなくなってきたといったシグナルで、おのずと妊娠の限界を感じる瞬間が出てくる。残念ながら、わかってくると思うんですね。“予感”といいますか。

ただその時に“納得”できるかどうか、心も終わりにすることができるかどうか。それが重要なんですね。治療中は、実際私もそうでしたが「今回がダメでも、次は大丈夫に違いない」と、やみくもになってしまいがちなんですね

永森 “ハードランディング”“ソフトランディング”という言葉が、不妊治療の終結における大切なキーワードだと考えています。ハードランディングとは、地面に叩きつけられるような着地、つまり緊急着陸のことです。

高齢でなかなか妊娠できない方たちは「今度こそ絶対妊娠する!」と思って長年治療をやり続けていて、妊娠という目的地に向かって必死に飛んでいる状態です。次第に感じるはずなんですよね。燃料もなくなり、機体も弱ってきていることを…。

普通だったら、その状況を自分なりに判断して、目的地に行けないのであれば、このへんに着陸しようかな、と妥協しますよね。

でも不妊治療だけは、目的地を目指してしまうんです。治療をしている時は、まだ希望があって気力も保てますが、ある時突然「治療をやめましょう」となると、これはものすごい衝撃を伴います。

永森 そこで大切なのが、ソフトランディングという考え方で、“希望の目的地まで行けないかもしれないと「自覚する」”ということです。自覚すると、それまでより少し俯瞰的に状況を見ることができるようになると思うんですね。

別の終着地点を考えてみることで、終わりにできない治療に区切りをつける、ひとつのきっかけになるのではと。妊娠を信じて信じて、突然やめなくてはならない状況と比較すると、着陸後の機体へのダメージも違ってきますよね。

ここを終着地点にしたら、こういうことができるかもしれない、楽しみがあるかもしれない、と考えられる自分をつくっておくことで、着陸後のダメージが違ってくるのではないでしょうか。

不妊治療の終結を大事にすることは、次の人生、子どもがいない人生を歩んでいくための大切な種まきの時間を大事にすることとイコールだと思っています。

――実際に永森さんがそういったことをお話しされても、受け入れられない方も多いのではないでしょうか?

永森 「私には関係ないわ」「あなただって、当時はそんなこと考えられなかったでしょう」と言われることもあります。それももっともなお話なんです。どこをどう飛ぼうが、おひとりおひとり独自の問題ですし、ご自身の納得が一番なわけですから。

実際、私も治療をなかなかやめられず、あえてそういったことを考えないようにしていた時期もあったくらいですから、その気持ちは、とてもよくわかります。

自分が負のスパイラルに入っていて「コレじゃいけないな」という考えがちらちらと頭に浮かぶ状況も経験しているので、その複雑さも理解しているつもりです。

永森 私が経験したように、妊娠に向けて治療に励みたい気持ちと、治療をやめなければいけない時が近いうちにくるかもしれないという絶望的な気持ちとが拮抗した状態の方が、少なからずいらっしゃいます。

不妊治療を終えても、不妊が終わることはないと思っています。子どもがいないという事実を抱えながらも、自分の人生をしっかり豊かに歩いていくためには、どうしたらいいのか。

それには、不妊治療の終結を丁寧に扱うことが大切なのではないでしょうか。あきらめたからといって、すぐにやりたいことが見つかる人はいいですが、多くの方は喪失から自分を立て直す作業を始めるわけです。

でも、そんなに簡単に新たな目標なんてみつからないですよね。一歩を踏み出すにはエネルギーも必要。それを私自身体験してきましたので、難しいことではありますが、あえて終結の時が大事だと申し上げるようにしています。

■不妊治療を終結した後の生き方

――不妊治療を終結した後の夫婦に対して、ストレスになるものは何でしょうか?

永森 ひとつは、家族関係です。例えば自分は子どもができなかったけれど、きょうだいに子どもが生まれた場合、両親も孫をかわいがって、きょうだいとの関係性の方が密になり、自分の入る場所がない。

冠婚葬祭や盆暮れで親戚が集まる席にも行きづらく、きょうだいの仲が悪くなったというケースもあります。

当たり前のように何人も子どもが生まれる時代を生きてきた世代のご両親等は、子どもができない状況を容易に受け入れられないと思いますが、不妊治療中、あるいはあきらめる決断をした当事者にとって、家族の理解や支援はとても大切なものです。

もうひとつは職場の問題です。今は妊娠や出産、育児休暇制度がしっかりしていて、託児所を設けている会社もありますよね。社会は、女性に頑張って子ども産んでほしいという流れがあります。

そういったレールができている一方で、不妊治療中の人や、終結を決断するタイミングを模索している人が、働きづらさを感じておられる実情もあります。職場での妊娠出産の話や、出産・育児休暇制度を取る人との関わりも、そのひとつです。

それを言いだしたら、マイノリティに企業がどう対応するかという、さらに大きな話になってしまいますが、職場の問題も、大きな問題のひとつとして存在しているということは知っていてほしいと思います。

――不妊治療を終結した後、どういった気持ちを持って生きていくことが大切でしょうか?

永森 治療をやめたら、子どもをあきらめたら不妊が終わるわけではなく、生涯不妊と折り合いをつけていく必要があると思うんですね。

楽しく人生を謳歌していても、生活していれば、子どもがいないことを意識させられる場面が、あちこちにあるわけです。

死に近づいていくにつれて、自分のたすきをつないでくれる相手がいない、自分の生き様を見ていてくれる人がいない、自分のことを親身に考えてくれる人がいない、そういった寂しさや切なさは、募っていくように思うんですね。これも自然なことですが。

そういう時に耐え得る自分でいられるように、自分を大事にしながら、不妊と上手に向き合っていく。そうすることで耐性ができ、勇気や強さも備わり、自分だけの人生を豊かに思えるようになるのだと思います。

かさぶたが厚くなって剥がれたら、また新しい皮膚ができるように、自分に備わっている再生力を信じていただきたいですね。

永森 私の周囲には、子どもをあきらめた後、人生の再構築をされ、生き生き暮らしている方がたくさんいらっしゃいます。

男性不妊が原因でお子さんをあきらめたご夫婦は、互いにその葛藤を乗り越え、現在お2人だけの人生を歩んでいますが、共通の趣味の山登りにいそしまれています。

素晴らしい光景を写真に収めてはフォトブックを作成され、時々私にも送ってくださるのですが、それはそれは見事な景色で。素晴らしい自然の中にお2人身を置きながら共に生きていらっしゃる様子に、私の方が勇気をいただいています。

また、子どもをあきらめた後、ずっと踏ん切りがつかなかったご実家の家業を継ぐことを決断し、現在責任者として采配を振るっておられる女性もいます。

将来託す人は見つかっていないけれど、いま自分ができることを精いっぱいやれば、また見えてくるものもあるはずと、ご自身の運命を笑顔で受け止めていらっしゃいます。まさに、大きな山を乗り越えたような強さを感じますね。

愛情あふれる犬たちとの暮らしを大事にされながら、ご自身もドッグトレーナーの資格を取得され、犬たちを老人ホームに連れていったり、そのための訓練に励まれている方もいらっしゃいます。

彼女たちの笑顔、いい笑顔なんですよ。ご自身の運命と、とことん向き合われてきたからこそですね。

永森咲希(ながもり・さき)

1964年、東京生まれ。聖心女子大学外国語外国文学科卒業後、外資系企業に勤務。

6年間の不妊治療の末、子どもをあきらめた自身の経験をもとに、一般社団法人MoLiveの代表を務め、当事者および周囲の人々に対する支援活動、主に終結を迎える時期と、子どもをあきらめてからの葛藤を重視した活動に従事している。

MoLive

・平成28年度港区立男女平等参画センター リーブラ助成事業主催イベント「夫婦の困難 どう乗り越える?」
第2回 流産・死産を乗り越えて~支援者の立場から・当事者の立場から~開催
日時:10月30日(日)
会場:港区立男女平等参画センターリーブラ

権利侵害申告はこちら