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記事提供:ダ・ヴィンチニュース

キラキラした夢や大きな理想を社長がメディアで語るウラで、社員はヒーコラ言いながら働いている、なんて会社は珍しくない。そりゃブラック企業が「うちはブラックでーす」と自覚をしていたら、まずオモテに出てこないだろうけど。

私自身、社長が書いた「一大出世モノ」や「社員もお客様も神様です!」的な話は、常にナナメから読むようにしている。

だから『日本でいちばん温かい会社』(大山泰弘/WAVE出版)も、そこらの社長本とそう変わらない、手前味噌な内容にあふれているだろうと思いきや!

舞台となった神奈川県川崎市のチョーク工場・日本理化学工業株式会社は、客観的に見てもとても「温かい」会社だった。

日本理化学工業は粉が飛ばない、炭酸カルシウムでできたダストレスチョークを製造する会社で、現在はホワイトボードなどに使えて、濡れた布で拭けば消せるマーカー「キットパス」が主力商品になっている。

この会社の何がどう温かいのか?それは2016年現在、社員80人のうち61人が知的障がい者であるということだ。

現在、民間企業の障がい者雇用率は、法にもとづく制度により2.0%(国や地方公共団体は2.3%)と決まっていて、従業員が50人以上いる企業は、100人に2人の割合で障がい者を雇用する義務がある。

それに満たないと、従業員が101人以上いる会社は1人の欠員につき、月5万円を納付しなくてはならない。

しかしそれでも、障がい者社員がいない会社はフツーにある。

そして以前『セックスと障害者(イースト新書)』(坂爪真吾/イースト・プレス)のインタビューでも紹介したとおり、障がい者の働く場が少ないことから、性風俗が精神障がいや、軽度の知的障がいを持つ女性の受け皿になっているという現実もある。

そんななか同社は、1960年から知的障がい者の雇用を続けている。

きっかけは東京都立青鳥養護学校(当時)の先生が訪ねてきて、生徒の就職をお願いしたことだった。その時、著者で現在は同社会長の大山泰弘さんは「精神のおかしな人を雇ってくれなんて、とんでもないですよ」と断った。しかし先生の、

「あの子たちはこの先、15歳で親元を離れ、地方の施設に入らなければなりません。そうなれば一生、働くということを知らずに、この世を終えてしまうのです」

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という言葉を聞いて、とりあえず2週間の就業体験を受け入れることにしたそうだ。

その時やってきた2人の女性にシール貼りの仕事を任せたところ、昼休みのベルが鳴っても手を止めようとしないほど、熱心に取り組んでくれた。

その頑張りを見ていた社員たちから「雇ってあげてください」と言われ、「社会のアウトサイダー」だった知的障がい者の彼女たちを、「同情心から」雇ったと振り返っている。

彼女たちは毎日満員電車に乗って通勤し、懸命に仕事に取り組み、どうしても言うことを聞かないときに「施設に帰すよ」というと泣いて嫌がった。

その様子を見ていた大山さんは、「どうして、施設にいれば楽に過ごすことができるはずなのに、つらい思いをしてまで工場で働こうとするのだろうか?」と、逆にモヤモヤを抱えてしまうように。

しかしある日出会った禅寺の住職に、

人間の幸せは、ものやお金ではありません。人間の究極の幸せは、次の4つです。

その1つは、人に愛されること。

2つは、人にほめられること。

3つは、人の役に立つこと。

そして最後に、人から必要とされること。

障がい者の方たちが、施設で保護されるより、企業で働きたいと願うのは、社会で必要とされて、本当の幸せを求める人間の証なのです」

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と言われ、胸のつかえがとれたと語っている。

障がい者は施設にいたら、職員たちに「ありがとう」と言うことはあっても、それを言われる機会はほとんどない。健常者には当たり前の、「ありがとう」と言われる喜びのために働いているのだと気づき、積極的に採用することになった。

しかし彼らは、健常者のサポートが必要になることもある。「なのに同一賃金では納得いかない」という声が社員からあがるようになり、悩んだ末に、障がい者が主体的に働ける会社作りを目指したそうだ。

彼らは饒舌に語ることはないが、たくさんの気づきを与えてくれる。まさに「無言の説法」をしてくれる貴重な存在だと、大山さんは見ている。

現在、製造ラインのほぼ100%を知的障がい者の社員が担っている。文字や数字が理解できなくても、色などで識別できるように工程を工夫することで、「作業目標」という概念を彼らが受け入れられるようになったからだ。

「彼らの理解力に合わせた仕事の方法を考えてあげれば、安心して持てる能力を発揮して、生産性も決して健常者に劣らない戦力になってくれるのです。大切なのは、働く人に合わせた生産方法を考えることなのです」

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そう語る大山さんは、とくに社員教育はしていない。ともに働き、健常者は障がい者の理解力に合わせて仕事を用意し、彼らの持つ「周りの人の役に立つことで幸せを感じる『共感脳』」を信じて、成長を待っていればうまくいくと考えているからだ。

実際それはうまくいき、大山さんは「日本資本主義の父」と呼ばれた渋沢栄一氏の精神を受け継ぐ経営者に贈られる「渋沢栄一賞」を、2009年に受賞するまでになった。

大山さんはじめ、健常者の社員が温かく障がいを持つ社員の成長を待っていたことで、彼らもその気持ちに応えようとしたのだろう。

本書では、日本理化学工業がどのように生まれ、どう成長していったかだけではなく、その時々における大山さんの気持ちの変化も読み取れる。

働く楽しさを思い出させてくれるだけではなく、「障がい者の存在は無視できないけれど、どう付き合っていけばいいかわからない」という人にとって、気づきを与えてくれるかもしれない。

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