愛する家族が治療の施しようもなく日に日に弱っていく姿を見なければいけないとしたら、あなたは何を思うでしょうか。

交通事故で植物人間になってしまった夫に「回復の見込みはない」と宣告された妻が、幼い子供を抱えて24時間つきっきりで過ごさなければならない状況で「このまま何十年も死んだも同然でベッドの上で生きていくよりも、いっそのこと死んでしまえばよかったと本人も思っているんじゃないかしら」と思ってしまったという記事を目にしました。

そんな家族の気持ちを誰が責められる?

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昨日まで元気だった愛する家族が突然植物人間になってしまったら?そしてこの先何十年もこのままだとしたら?きっと「死」を願ってしまうことだってあるでしょう。愛する人だからこそそんな姿をただ見ているだけというのは辛く、自分が何もできないことにも葛藤し、時間だけが止まったように感じてしまう中で「いっそのこと死んでくれていたら…」と願ってしまった妻の気持ちは、決して誰にも批判できるものではないでしょう。

そして、植物人間にならずとも四肢が動かなくなり日に日にその状態がひどくなっていく症状を持っている人にも、その葛藤はあるでしょう。意識はあれど運動神経だけが破壊されていくのです。そして話すことも歩くこともままならなくなってしまう日がいずれやってくることを知ったとしたら…。

運動ニューロン疾患(MND)を患った母を持った家族

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このほど、イギリスで二人の娘を持つ母親が62歳で自らの命に終止符を打ちました。運動ニューロン疾患(MNS)を患っていたサンディさんは、近い将来自分の身体が全く動かせなくなること、話せなくなることを悟り自らの意思で「尊厳死」を選んだのです。

体中の筋肉だけが徐々に萎縮していくという病気で、日本でも特定疾患に指定されていますが治療法はないために、一度なってしまうと一生背負って行かなければならない病気です。意識がはっきりしているだけに、体が動かせなくなっていくという葛藤で起こる苦痛は半端なく、イギリスでこの病気を患う男性が去年尊厳死を選んだことでもニュースになりました。

20年前から片頭痛に悩まされていた

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23歳の時に子供たちの父親でもある夫を失くして以来、女手一つで娘二人を育てて来たサンディさん。今、その娘も子供を持つ母になっています。20年程前から片頭痛に悩まされるようになったサンディさん。痛みは時に嘔吐も引き起こしたそう。今から思うとそれがMNDの前兆だったのかも知れないと家族は考えています。

2014年には、足の痛みを訴えるようになったサンディさん。そして片頭痛の薬を上手く飲みめずに喉に詰まらすように。MNDの嚥下障害だったのでしょう。喉のがんを疑い検査をしてもネガティブでした。

そして家族が調べた結果MNDに行き当たりました。病院の検査でMNDだとはっきりと宣告されたのはほんの半年前のことでした。病が何であるかはっきりとわかったものの、治療法のない病を家族や本人がどのように受け止めていくかという大きな壁にぶつかったのです。

「私たちの祖母が86歳と93歳で元気にしているんです。それなのに母は62歳でこんな病気になってしまって…。歩くことと絵を描くことが好きだった活発な母をもう見ることができないという悲しみで胸が痛みます。」そう語る娘のカルメンさんとヴィクトリアさん。

その苦しみはサンディさん自身にもあったでしょう。徐々に、そして確実に弱っていく体の筋肉。どうあがいてもそのうち身動きできなくなる日が来るのです。意識は鮮明なだけに、これ以上残酷なことがあるでしょうか。そして、サンディさんは「尊厳死」を決断しました。

3人でスイスのクリニックへ向かった…

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イギリスでは尊厳死は合法化されていません。最近、カナダで合法化されたとのニュースを聞きましたが、「尊厳死ツアー」は厳しく取り締まるという意向を示しています。スイスには死を願う人たちがツアーとなって出向く兆候があることを受けての規制だということですが、サンディさんはそのスイスに娘2人と向かいました。

最後の日に、母を挟んで3人でベッドに横になったというカルメンさんとヴィクトリアさん。「まるで子供時代に戻ったようでした。私の16歳の誕生日パーティーでアムステルダムへ3人で行った時に、こんな風に3人で添い寝したんです。あの時は楽しかった。でも今は…」これから死のうとしている母を目の前で受け止めなくてはいけません。

やがて、静かに最期の時を迎えたサンディさん。愛する母親の死を直視したカルメンさんとヴィクトリアさんは「尊厳死」についてこう語ります。「イギリスでも尊厳死が合法化されることを希望します」と。「母が、動きにくい身体を引きずって海外まで行かなければならないのはきっと本人にとっても苦痛だったでしょう。遠い旅をしなくても済むように尊厳死が認められるべきです。」

自分の死は自分で選ぶべき?

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サンディさんは手が完全に動かなくなるまえに遺書を残していました。「MNDは私の体から動きを全て奪ってしまいました。知らない人の声で精一杯囁くようにしか話せなくなりました。これからどんどん、悪化していく自分を見る前に私は尊厳死を選びます。自分の命を自ら絶ってしまうことに同意できない人もいると思います。でも私はこの方法を選んだのです。」

尊厳死に関しては賛否両論があるのは皆さんもご存知でしょう。でも、誰の死も誰が決めるべきものでもなく、まして国の法律が決めることでもないのではと筆者は思います。不治の病で苦しんでいる家族が、もし、尊厳死を選ぶなら筆者はそれをリスペクトするでしょう。このニュースを知ったネットユーザーたちも、85%が「イギリスでも尊厳死を合法化するべきだ」と答えています。

ただ、やはり中には「生きられるだけでも有難いと思わない人も中にはいるんだね」という意見もありました。その意見に対しては「じゃ、あなたは愛する家族が苦しみながら生きているのを見るのは平気なの?自分がその病になってもそう思えるの⁉」という反論も。尊厳死に対しての賛否はやはりこれからも答えが一つになることはないでしょう。

でも、自らの意思をもって「死」を選んだサンディさんは幸せだったのではないでしょうか。そして家族の幸せを願うのが家族ではないのでしょうか。悲しみの中で、私たちが家族の死と向き合わなければいけなくなった時、あなたはこの「尊厳死」をどのように受け止めますか?私たちにとって「死」は生きていくうえで避けられないテーマといえるでしょう。サンディさんの娘さん二人も、母の死という悲しみを乗り越えられることを願いたいです。

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公式プラチナライター。イギリス在住22年目。いつも読んで下さる皆さんに感謝。Twitterアカウントは@mayonesque18です。よろしくお願いします。

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