若い頃に無茶をして妊娠・出産する女性はイギリスに多く、12歳で妊娠し出産して「英国で最も若い母」という名誉なのか不名誉なのか判断つきかねる呼び方でメディアで話題になったりと、何かと10代の妊娠は世間の批判を煽りがち。

子供を産むという行為は責任を持って行うもの。ただ、どんなに若くても妊娠し出産する覚悟があるならば、責任を持って子育てするか周りと相談して養子の手続きをするかどちらか。子供には気の毒でもそれが現状のオプションなのです。

どちらを選択するにしても、産んだ女性の意思に基づいて周りもそれなりにサポートすべき。ところが、「一時的に里子に出して、将来は自分で育てられるようになるから」と福祉スタッフに言われて子供を手放した17歳の女性が「約束したのに、娘を帰してもらえなかった」と悲痛な胸の内をこのほどメディアに訴えました。

12歳の時に施設に引き取られたカレン

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現在、27歳のカレンさんは12歳の時に複雑な家庭の事情である施設に引き取られました。決して理想的とは言えなかった自分の子供時代。荒れた生活により16歳に妊娠。娘ルーシーを出産してからはカレンさんは若いママとして懸命に子育てをしていました。

「あの子はとても聡明な子でした。」9ヶ月の時に既に歩き始めたルーシーちゃん。ところが子供の成長をこれから見守っていこうとしていた矢先、カレンさんは産後うつになってしまいました。児童福祉スタッフは、まだ若いカレンさんを親元や友人たちのもとから引き離しロンドンの子供と一緒に過ごせる施設へと連れて行きました。

子供と一緒に暮らせる施設とは

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イギリスには、産後うつになったり、精神疾患を抱えている女性が出産して症状が悪化した場合に母親だけでなく子供も一緒に暮らせるケア施設があります。精神的に不安定になっている母親は、子供との絆が壊れてしまいがち。引き離して更に親子間の溝を深めるよりも、一緒に施設に引き取ってケアスタッフの監視のもと、子育てができる仕組みになっています。

段階を踏んで様子をみていく

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施設に引き取られた親子は、きちんとプライバシー保護ができるように個室を与えられ、赤ちゃんと過ごすことができます。精神的に不安定な状態では授乳などの育児がままならない時には、スタッフがサポートし、カウンセリングを定期的に行い様子を見ていきます。そして家族も施設を訪問し、家族の様子を確認することができます。

カレンさんはロンドンでそんな施設に引き取られたのですが、スタッフが「彼女は子育てがまともにできる様子ではない」と判断したために、養子の手続きを薦められたのです。

戸惑うカレンさんにスタッフは「今、里子に出せば状態が良くなれば子供と暮らせるようになる」と言いそのまま裁判へ。17歳という若さで里子制度の知識もなかったカレンさんに裁判所は養子の手続きをしました。

この経過についてもカレンさんは「嵌められた」と語ります。「私は部屋のドアを開けっ放しにしていなかったのにスタッフはそう主張しました。私が怒ると精神的に不安定だから感情をコントロールできないといって施設から施設へと引き渡したのです。友人や家族もなかなか訪問の許可を下ろしてくれませんでした。」

「いずれ手元に帰って来るから」と言われ里子の手続きに

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2008年、地元の児童福祉スタッフは「今、子供を諦めれて里親に引き渡せば、後で子供が帰って来てより良い生活が送れるチャンスになる」とカレンさんを説得。「さもないと養子に出されて二度と子供と会えなくなる」と言われたために、子供と一生会えなくなることを恐れたカレンさんは渋々里親に娘ルーシーを渡す決断をしました。

カレンさんにとってはどちらになっても我が子と会えなくなるという辛い選択。でも、まだ若かったカレンさんは「もし今だけ我慢すれば、私自身もカウンセリングに通い、カレッジのコースも受けられる。そうすれば仕事だってできるようになるし、ルーシーが戻ってくれば二人で生活できるようになる」と考えました。

約束の6週間からまた6週間…

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ルーシーちゃんが里親に引き取られる期間は6週間。6週間さえ我慢すれば娘に会える。そう信じていたカレンさん。ところが期間が過ぎても、また6週間後と言われその6週間が過ぎても更に6週間…カレンさんがルーシーちゃんに会うことは叶いませんでした。

「彼らは、私が精神的に脆く、サポートしてくれる家族も周りにいないことも知っていたんです。だから約束したのに期間を延長してばかりで…。なんとカレンさんが会えない間に、ルーシーちゃんは養子縁組の個人事務所であるセレブカップルの養子となる手続きをさせられていたのです。

ルーシーちゃんの里親夫婦とセレブカップルの間に交わされてしまった契約。生みの母であるカレンさんは蚊帳の外でした。取り決めでは「生みの母は子供に会うことを許可し、里親もサポートしていく」となっていたそう。そして里親に「あなたが手紙を書けば裁判所の印象も良くなるから」と言われその通りにしたカレンさん。

でも、その手紙は結局ルーシーの下には届いてはいませんでした。カレンさんがルーシーちゃんの両親となるセレブに初めて出会った時もそのカップルは「これからは私たちがこの子を育てていく。裕福な子供になるから心配しなくてもいい」とカレンさんに伝えたそう。「お金だけが全てではないのに…」とカレンさんは思ったと言います。

セレブカップルは徐々にカレンさんをルーシーから引き離した

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最初のうちこそ、取り決め通りカレンさんは週に4日、数時間をルーシーちゃんと会うことが許されていました。ところが次第にセレブカップルはカレンさんからルーシーちゃんを引き離し始めたのです。

会う時間が終わってバイバイを言う時に「ママ!ママともっといたい!」ルーシーちゃんがそう叫んだこともあったそう。でも無理やりカレンさんの腕から引き離され、その時の自分の無力さに絶望しそうになったとカレンさんは言います。

そしてこれまでの手続きをした福祉スタッフに「あなたの勝ち目はない」と告げられたカレンさん。「あなたは母親として若すぎるし、生活環境も不安定。それにサポートしてくれる家族もいない。ルーシーを取り戻すには不十分だ」と言われたのです。

自分の理解を超えた裁判や手続きのために、産んだ我が子を手放さなければならないのか。カレンさんは1年に一度、2時間のみルーシーちゃんと会えることを許可されました。そして手紙は誕生日とクリスマスに2回のみ。しかも直接送付するのではなく私書箱留で投函するならという条件付きでした。

その手紙は福祉スタッフの監視のもと、万が一子供の感情を揺さぶるような内容であれば、ルーシーには見せないということを宣告されました。

「あなたが恋しい」とは決して言ってはいけない

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娘に会いたい気持ちを書くことは許されなかったカレンさん。「最初の手紙でも4度も書き直させられました。自分の気持ちを素直に綴ることは許されませんでした。」当然「娘」という言葉も「ママより」という言葉も禁止されていました。この状況でカレンさんの精神疾患は悪化し、自殺未遂を何度も図ったそう。

そうなれば、福祉スタッフはますますルーシーちゃんとカレンさんを引き離して行きました。やがてカレンさんは2人目となる子供ベラちゃんを出産。手紙でベラちゃんの存在を伝えることはできたものの、未だに会ったことはないそう。実の妹に会わせることが許されない状況なのです。

「娘に希望を与えてやることも許されませんでした」

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27歳になったカレンさんは「ただただルーシーに会いたいんです。そして福祉スタッフからきちんとした説明がほしい。私はあの子に希望を与えてやることすら許されませんでした。あの子が私を『捨てた』と思っているかと思うと心が痛みます。」と語りました。

でも10年経った現在、成長しているであろうルーシーを傷つけたくはないとも言うカレンさん。「あの子が、私に会いたいと思ってくれる時が来たら幸せです。」いずれルーシーちゃんには真実を知って欲しいというカレンさん。「あなたを決して捨てたりはしていない」という真実。

実は、イギリスにはカレンさんのような状況に陥った女性が少なくありません。何らかの事情があり我が子を手放してしまう女性たちの理由は、第3者には計り知れないものなのです。何が幸せか、どのように生きることが子供にとってベストなのか…裁判官であっても、福祉スタッフであってもその全てを知ることなどできないのではないでしょうか。

この件に関しては養子縁組をした事務所も、児童福祉施設側も「正しい判断でしたこと」とコメントしています。でも、子供を帰すと約束しておきながら結果的には実の母親から奪い取ったということは紛れもない事実。カレンさんは、このようなケースが他にも起こっていることを知り「誰もそんな目に遭うべきではない」と訴えています。

ルーシーちゃんはこれからも、裕福な家庭で育てられもしかしたら何不自由ない暮らしを手に入れることができるかも知れません。でも、自分を産んでくれた母の愛や痛みを知ることがなく育ってしまうのが残念でなりません。ルーシーちゃんを養子にしたセレブカップル側にも言い分はあることでしょう。

でも、いつか成長した時にルーシーちゃんがカレンさんのことを知りたいという日が来たら、どうかその意思を尊重してあげて欲しいと願わずにはいられません。

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公式プラチナライター。イギリス在住22年目。いつも読んで下さる皆さんに感謝。Twitterアカウントは@mayonesque18です。よろしくお願いします。

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