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記事提供:まぐまぐニュース!

日本人7名を含む20人もの命が奪われたバングラディッシュの痛ましいテロ事件 について、メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では、事件に対する怒りとともに、この事件に対する各国の報道にも同じくらい強い憤りを覚えると述べています。

今回の事件は「ISは怖い」とか「テロは良くない」といった単純な話ではないとし、バングラディッシュという国の現実と、知られざる日本との関係を解説しています。

ダッカでのテロ事件、報道に異議あり!

日本人7名を含めた20名が残虐な方法で殺害されたことには、激しい憤りを感じますが、同時にこの7月1日に発生したダッカでのテロ事件に関する、アメリカをはじめとした世界の報道にも、違和感を通り越した憤りを感じざるを得ません。

まず、この事件は「ISの影響を受けたホーム・グロウン・テロ」だという解説が全世界でされています。

そうなると、まるでバングラディッシュが「シリア」や「トルコ」のように内戦絡みの対立を抱えた国家、あるいは「イラク」や「アフガン」のような権力の空白を抱えた国家のように見えてしまいます。

もう一つの誤解は、バングラが「イスラム国家」であって、原理主義者が跋扈している、従って西側との人的交流や投資にはなじまないカントリー・リスクを抱えているという誤解です。

この2つの認識は間違いだと思います。ですが、仮に現状のまま事態に流されていくと、この国は最悪の場合「内戦を抱え、原理主義者がウロウロする」状態になってしまうかもしれません。

その「瀬戸際」にあるということは、残念ながら事実です。

ですが、そうなってはダメなのです。

このバングラというのは、日本の40%ぐらいの面積に1億6千万という人口を抱え、しかもガンジス川とブラマプトラ川の河口デルタに発展したために、水害の脅威を抱えた厳しい環境に位置しています。

仮に、国家の統治が暗礁に乗り上げるようなことがあれば、人類全体で取り組まねばならないような人道危機が発生する危険があります。

反対に、現在まで進んできたような自由経済を取り入れた成長を続けていけば、最貧国からの脱出も視野に入って来ているわけです。

そして、今回の事件への対処というのは、そのバングラの将来を決めるターニングポイントになる可能性があります。

そこで日本やアメリカを含めた西側諸国が、バングラに対して誤った前提で対処をしてしまうと、バングラという国は転落へ向けて間違った方向へ行ってしまうことになります。

それは、無念の死を遂げた7名の人々が最も望まなかったことであるに違いありません。

バングラディッシュという国の真実

まず、バングラディッシュという国の独立の経緯ですが、このメルマガの「フラッシュバック」で追っていたように、バングラは元々パキスタンの「飛び地」であり、東パキスタンと呼ばれていました。

それが、1970年にサイクロンによる甚大な水害に見舞われた際の西パキスタン政府の冷酷な対応から、激しい独立運動が起き、最終的には「印パ戦争」という形でインドの支援を得て1972年に独立しています。

この際に独立運動を率いたのが、ムジブル・ラーマン氏の「アワミ連盟」でした。

ラーマン氏は大統領のち首相として、新国家の建設に努力しますが、貧困からの脱出は難しく政情は流動化、最終的には75年に軍部のクーデターで一家全員が暗殺されてしまいます。

その軍政の流れから出てきた右派政党BNPがやがて民政移管を果たしますが、BNPも結果を出すことができず、反対にアワミ連盟が国民の支持を拡大していきます。

最終的には、BNPのジア政権を、アワミ連盟のハシナ党首が選挙で破って現政権が成立しているのです。

ちなみに、現職のハシナ首相は、ラーマン氏の娘で、一家の中で唯一国外にいたために軍の虐殺から逃れた人物です。一方のジア氏も女性です。

そのハシナ政権ですが、先進国からの投資を積極的に受け入れるとともに、「デジタル・バングラ」という政策を掲げてハイテクを導入した経済成長を目指すなど、意欲的な国家建設を進めています。

ですが、問題はバングラが建国時から抱えていた政治的な対立です。

重要なのは、アワミ連盟もBNPも「世俗政党」であり、政教分離が大きな方針です。

それは、そもそもベンガル人というのはヒンドゥー教徒と、イスラム教徒が混在する中でベンガル語を紐帯とした民族意識を持っていたためで、

英国が植民地の「分断支配」を企図して両宗派を分断した後も、「ベンガルは一つ」という中で、西ベンガルにはイスラム教徒はゼロではないし、バングラになった東ベンガルにも10%程度のヒンドゥーがいるからです。

さて、実際のバングラの政局は大中小の政党が乱立する複雑なものですが、それを単純化してお話するならば、問題は二大政党が「世俗政党」である一方で、ジャマティというイスラム主義政党が存在しています。

このジャマティは潜在的な支持率で10%前後はいる中で、現時点では下野してBNPと一緒になって与党のアワミ連盟に対抗する格好となっています。

これに対して、アワミ連盟は弾圧を強化しています。

例えば、バングラが西パキスタンと「決裂」して独立を決意する過程で、パキスタンはバングラに対して「ベンガル語を捨ててウルドゥ語を強制」するなどという決定的なことをやって憎悪の応酬となり、結果的に悲惨な事件も起きています。

基本は、パキスタン側は暴力的に警官隊と軍隊で独立派を鎮圧しようとしたわけです。

問題は、ジャマティにはその際に「イスラム国家を防衛する」ために「パキスタン側につく」という選択をした人物が残っていることです。

これは、どうしようもない事実なのかもしれませんが、ハシナ現政権は、この「70年から72年の独立戦争」当時の殺傷行為関与に対して、ジャマティの幹部に死刑判決を出したのです。

これは2013年のことであり、以降、現政権とジャマティの関係は一気に悪化していっています。

そんな中で、2つの問題があります。

日本人が被害にあったのは「偶然そこに居たから」ではない

1つは、ハシナ政権は「ジャマティと有権者の間を引き裂く」ために、「ジャマティは過激派」だという政治的なメッセージを断続的に出しているということです。そして、この間に暴力事件が増えていっています。

バングラでの「ブロガー殺害事件」というと、一つの事件のように聞こえますが、

2015年から16年にかけて断続的に少なくとも5件は起きており、その多くは「無神論やLGBT支持者で、原理主義批判をした人物」が狙われ、多くの場合は刃物を使った暴力で殺害されています。

この間の問題として、詳細を調べて行かなくてはならないのですが、ハシナ政権の対策が非常に一本調子であったということ、

特にジャマティに「犯罪者」というレッテルを貼って、これと提携しているBNPの支持を減らそうと言う計算とでも言いますか、必要以上に問題を大きくしているという印象があります。

2つ目の問題は、2015年に日本人が銃で殺されているという事件です。

この事件については、現地に詳しい田中秀喜氏という方のブログによれば、真相は不明である一方で、ハシナ政権はジャマティに責任を押し付けていたという「ふし」があるようです。

この時点で、1つ目の問題、つまりハシナ政権がジャマティに代表されるイスラム勢力と、徹底対決の覚悟をしてしまったということ、そして2つ目に、その対立の中で日本というカードが使われているということ、

この2つが結びついてしまっているということがあります。

ここで、原点に戻った議論をするのであれば、日本はバングラについては、それこそ70年のサイクロン被害の際には、官民を挙げて大変な援助をしています。

そして独立運動を支持し、独立後もずっとお互いに「最も親しい関係」を続けてきたわけです。

どうして日本がそこまでバングラに「入れ込んだ」のかというと、水害との戦いを運命づけられているなどの共通点もありますが、何よりも世俗主義的な「国のかたち」の相性が良かったからということがあると思います。

以降、多くのバングラ人が来日し、日本に好感を持って帰っていますし、日本人も多くの人が支援に行っているのです。

ですが、そのバングラが、一歩間違えば「暴力を伴う深刻な対立」が恒常化した国になってしまう危険性があるわけです。

そして、その中に、「偶然そこにいたから」ではなく、日本人の存在が双方のカードとして切られつつあるような嫌な感じがします。

2点申し上げたいと思います。

1つは、日本の外交当局は、この事件によって「バングラの国内対立のエネルギーが拡大する方向」には何としてもストップを掛けなくてはならないということです。

また、これ以上「日本が関係した事件」をバングラの国内の政争に「カード」として使われてはたまらないということがあります。

2つ目は、既にバングラではキャンセルできない大規模な支援案件がたくさん決まっています。

これを今回の事件を理由に延期もしくは中止はできない中、何とかして関係者の安全を確保しながらプロジェクトを成功させて、バングラの国情安定に寄与するということ、それは大変に重要なことだということです。

最悪なのは、1をやらないで、つまりバングラ国内での対立エネルギー拡大を放置するようなメッセージを、ハシナ政権に対して出しながら、2の支援プロジェクトは続行するということです。

これは、両国にとっては、誤った選択になる、そんな危険性を感じています。

問題はそこにあり、極めて特殊なバングラディッシュの独自の問題なのです。漠然と「ISISは怖い」とか「テロは良くない」というような話をしている場合ではないと思います。

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