賛否両論出て何かと話題になる公共の場での授乳問題。先日は、ニュージーランドでのこんな出来事をお伝えしました。

そんな背景に対し、米・イリノイ州の2児のママであるフォトグラファーのIvette Ivensさんが、自分の体験から「授乳はごく普通なこと」というメッセージと共に「誰もが場所を気にせずに自由に授乳ができる様になって欲しい」との思いを込めて撮影した「Breastfeeding Goddesses」という作品集があります。

授乳はごく自然なこと

『授乳をしている時期というのは、とにかくバタバタと忙しく、時間も自由にならないし手間もかかります。家の外での授乳は、居心地が悪いことも多いものです。けれど母親が授乳中に感じている感覚は、とてもピュアで、気高く、神々しいものなのです』

『その時の母親は、力強く、奇跡的な存在であり、美しい光の様なものなのです。私の写真では、そんな母親達の絵画のような美しさを写し取っているのです』

普段は母乳を与えていても、公共の場で母乳を与えることができず粉ミルクをあげるしかないと悩む母親達の声を聞いて、この写真を撮影しはじめたIvettさん。とても美しい写真の数々…この写真を見て授乳に対するイメージが変わったという声も多く聞かれるそうです。

しかし日本人の意識としては、写真は美しいけれど、それと公共の場での授乳の良し悪しが一致しないという人も多いのではないでしょうか?

法律で授乳の権利が認められている?

実は米国では、州法によって公共の場での授乳が認められている州がほとんどです。わざわざ法律で認めているとは、一体どういうことなのでしょう?

Ivetteさんの住むイリノイ州でも、法律によって公共の場で授乳をする権利が守られています。しかしそれを不快に感じる人が多いのも事実です。そこには、日本でのマナー問題よりも根深い問題があるのです。

授乳が「公然猥褻罪」に?

例えば2015年には、オクラハマ州でアパートの玄関で授乳をしていた女性が「今度やったら公然猥褻で警察に通報する」と家主から通達されるという出来事がありました。オクラホマ州では公共の場での授乳は法律で認められています。しかしアパートの多くの住民からの苦情が家主の元へ行き、この様な展開になってしまったのです。

実際、国によっては文化の違いもあり、公共の場での授乳が「公然猥褻」にあたり逮捕されてしまう可能性があるという場合もあります。また、米国でも「授乳の権利」を認めている州もあれば、「授乳は公然猥褻から除外する」と書いている州もあります。たとえ授乳であっても、公共の場で胸を出すという事に対してセクシャルな印象を持っている人が多いという事がわかります。

ニューヨーク州のある店舗では、店舗内で授乳をしている母親に、副店長が店から出る様にと告げるという出来事がありました。州法によって授乳をする権利が守られているはずだと反論したところ「州で認めていても、この店舗では店内で胸を隠さずに授乳をすることは禁止している」と答えた為に大炎上し、母親たちが店舗に集まり授乳するという「授乳デモ」が行われました。

結果、ニューヨーク州の司法長官と店舗との話し合いで、スタッフに対し授乳の権利を周知徹底する事と、店舗の入口に「授乳許可」を示すサインを掲げる事が義務付けられました。

法で守らなければ授乳もできないのか?

アメリカではかつて医師たちが粉ミルクを推奨し、粉ミルクの方が母乳よりも栄養価が高いと宣伝された時代がありました。1960年代になるとアメリカでウーマン・リブ(女性解放運動)が起こり、粉ミルクは母親が早期に社会復帰することを可能にし、また男性でも赤ちゃんにミルクを与えることができるため、男女平等の観点からも粉ミルクの普及が一層進みました。

こうした理由から、多くの家庭では粉ミルクで子育てを行い、母乳育児は貧しい人がするものであるというイメージが広まっていったのです。

出典 http://www.babytopia.jp

このため、現在の子育て世代の両親や祖父母の中には、今でも粉ミルクの方が母乳よりも優れていると考えている人が多いと言われています。近年になってWHO(世界保健機関)や医師たちが母乳育児のメリットを啓蒙するようになり、アメリカの母親たちの「母乳回帰」が進んでいますが、アメリカ社会には「母乳は野蛮」といった偏見が色濃く残っており、公共の場での授乳を巡るトラブルが絶えないというわけです。

出典 http://www.babytopia.jp

現在は、母乳育児が奨励される傾向にある米国ですが、その一環として「公共の場で授乳する権利」を守ろうという流れになっているのです。ミランダ・カーやジゼル・ブンチェン、アンジェリーナ・ジョリーなどのセレブ達が、SNSなどで自身の授乳写真を公開しているのを見て「わざわざ何故?」と感じる人もいたと思いますが、日本とは授乳育児の歴史が違うが故の強い思いを感じさせる行動だと言えます。

日本でも一時期、母乳よりも粉ミルクの方が良いと言われ、昭和50年頃には母乳育児率が30%以下(都心部では20%以下)まで下がった事もありましたが、基本的にはむしろ「母乳信仰」の様な一面が根強く、昔から授乳文化が定着しています。その為「公共の場でのマナーの問題」は論議されますが「授乳行為」そのものに対して嫌悪感を抱く人はほとんどいないでしょう。

また公共の場での授乳も昔から行われており、近年ではその為の授乳ケープや授乳服なども発売され、賛否はあるものの公共の場での授乳がしやすくなっています。

公共の場での授乳を批判した人には罰金がある国も

イギリスやフランス、台湾など多くの国では、法令により公共の場所での授乳の権利を認めています。また、スコットランドでは公共の場での授乳を批判した人には罰金を科せられるという法律まであります。

一方、日本ではどうでしょう?何もかも法律で決めてしまう事が必ずしも良いとは思いませんが、もし大きなルールとして「授乳の権利」が認められていたら、授乳育児をしている母親にとっては、大きな安心要素となるのではないでしょうか。

授乳は、ほんのわずかな間のお母さんと子供の大切な日常

この作品集を撮影したIvetteさんは『私は自分の子供達にも、マーケットやパーティー、仕事先、高級ブティックなど、いつでもどこでも”赤ちゃんにとって必要な時”に授乳してきました。母親達がもっと自由に授乳する事ができるようになるべきだと考えているんです』と話しています。

「子どもたちはいずれ必ず、乳離れするときがやってくるのです。授乳は、ほんのわずかな期間だけの、お母さんと子供の大切な日常なのです。どうぞ見かけても、大げさに意識しないであげてください」

2014年、システィナ礼拝堂で行われていた洗礼式の途中で、一人の赤ちゃんがぐずって泣き出してしまったことがありました。その時、教皇が語った言葉が話題となり世界中でニュースとなりました。

「もし彼ら(赤子)がお腹を空かせているのなら、母親よ、迷う事なくすぐにミルクを与えなさい。なぜなら子供達は、この場所で一番重要な人たちなのですから」

教会という神聖な場所で胸を出す事に対し、否定的な感情を持つ人が多くいるであろう中、この言葉がどれだけ多くの母親を勇気づけた事でしょう。

各国でヒートアップする授乳問題

しかし法律で認められていても、公共の場での授乳問題についての論争はヒートアプしている国が数多くあります。以下は、各国での論争にあったコメントです。

反対派

「人目につかない場所でするべき。私は一度も人前でなんか授乳しなかった。だって授乳室があるでしょう?人前でわざわざ胸を出さなくても子育てはできるのよ」


「なぜ人前で授乳するの?私達は野生動物じゃなくて街に住んでいる人間なのに。心の奥に見せたいっていう欲望があるんじゃないの?」

「私は特になんとも思わないけど、できるなら人目につかない場所でする方がいいかな。わざわざ人前で授乳してる人って、子供がいることを自慢したいのかと思っちゃう」

「母親にとって自然なことでも、いやらしい目で見る人もいるし、不快になる人も多いんだからやめたほうがいい」

賛成派

「赤ちゃんがいる人は外出するなっていうの?お腹すかせた赤ちゃんには、授乳室がないんだから我慢しろって言うの?」


「私の国では胸を出して授乳するのは当然。誰も気にしないわ。だって赤ちゃんがお腹すいているんだもの。すぐにミルクがあげられるって、母にも赤ちゃんにも素晴らしい経験よ」

「どこでも授乳室があるわけじゃないし、赤ちゃんは予想通りにはいかないの。お腹をすかせた赤ちゃんをそのまま泣かせておく方が、よほどひどいことだと思うけど?」

「変な目で見る人は、授乳だけじゃなくてなにを見てもいやらしい目でしか見られないのよ。そんな人のことをかまっていられない」

これを読んでいると、反対派と賛成派の主張はどの国も似ているという印象です。大きなガイドラインのない日本だからこそ、「マナー」という言葉の意味をもう一度考える必要がありそうです。

公共の場での授乳問題、あなたはどう考えますか?

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