記事提供:messy

児童養護施設は悲しいところではない

「今日、この場に来ている皆さんは、『児童養護』をどう思っていますか?

今のと同じ質問を学校の先生がクラスでしたことがあります。

その中で、次々と言葉に出るのが『寂しそう』『悲しそう』『冷たいところ』などネガティブなものでした。

ぼくは心の中で『いやぁ違うんだよなぁ』なんて思いながら、自分自身が施設で暮らしていなかったらこんな風に思うのかなと思いました。

確かに、自分が施設に入るとき、『刑務所みたいなところに行くのか』と思っていたほど不安でした。

しかし、これは施設のことを知らない人たちの思う先入観です。ぼくはこれをなくし、もっといいところと思えるところにしたいです」(カナエルンジャーピンク ジェイ 専門1年生 スピーチより)

ピンクの服をきた恰幅の良い青年がスピーチをしています。茶目っ気があり、堂々とした様子です。客席は彼の言葉の一つ一つに聞き入ります。

「『世の中の児童養護施設は悲しいところではないよ』と知ってもらい、愛情をもらえなかった子どもを助け、本当の親のような愛情を注げる児童養護施設の職員になりたいと思っています。これがぼくの夢です。そしてこの夢は絶対に叶えます!」

朗らかな宣言に、客席から拍手が自然と湧き上がります。神奈川公会堂は、横浜らしくレンガが施され、音のよく響く会場でした。拍手をするたびに、天井から音が降ってくるようです。

2016年6月18日、「カナエール 夢 スピーチコンテスト 横浜」が行われました。「カナエール」は大学等への進学を希望する児童養護施設出身者向けの奨学金です。

児童養護施設を出た後の子どもたちの進学率は、2割。全国の高校生の7割が進学することを考えると、かなり少ない割合です。

施設入居者の多くは高校卒業の18歳とともに退所しなければなりません。

親の死別や虐待、経済的困難など様々な理由で子どもたちは児童養護施設に入ります。18歳までに迎えに来なかったということは、これらの問題が解決しなかったとことを意味します。

つまり、頼る大人がほとんどいない状態で、社会に出ていかなければならないのです。

入学金、授業料、敷金礼金、家賃、生活費…それらのすべてを一人で賄いながら、勉強とアルバイトとを両立させるには相当の努力が必要です。

途中でけがや病気をしてしまう可能性もあります(親がお金を集りにきたり、詐欺などのトラブルに巻き込まれることもあるようです)。

もし、途中で挫折してしまったら、手元には借金だけが残るかもしれません。そのため、施設の職員も高校卒業後の就職を強く進める傾向があります。

このように、児童養護施設退所後の子どもの進学環境は、必ずしも恵まれているとは言えません。

そんな中、「カナエール」は、進学を目指す子どもに、一時期30万円と月3万円の返還不要奨学金を卒業まで給付しています。

その、奨学金の給付条件は、「スピーチコンテストで夢を語ること」です。

私が開いたカフェに来てくれますよね?

カナエルンジャーピンクのジェイさん 撮影:加藤康祐。

“あぐぅ”さんは、カフェのオーナーを目指し、専門学校に進学しています。

食べることが大好きな彼女ですが、4歳までは一日一食食べられるかどうかという生活をしていました。

ときには、食べるものがなく、姉と一緒に裏山にたけのこを取りにいく日もありました。

姉が堂々とカナエールで夢を語る姿をみて、自身も参加を決めます。

あぐぅさんは、施設の調理師の先生と一緒にやった料理教室がきっかけで、自分の料理をみんなが食べてくれる喜びを知り、みんなが集まることのできるカフェのオーナーになる夢を話します。

「施設では私がケーキをつくると、みんながわいわい集まって、みんなで楽しく食べるんです。あの雰囲気が大好きでした。

小さくてもいい、子どもからおばあちゃんまでいろんな人たちが気軽に立ち寄ることのできるカフェ。

施設でそうだったように、美味しいにおいに誘われて、みんながわいわい集まって、お喋りをする。そんな空間。

そして、いつかお姉ちゃん、施設の先生、施設の子どもたち、里親さん、私をここまで応援してくださったすべての方々に、そして会場の皆様に、私の焼いたケーキと私が入れたコーヒーをぜひ、私が開いたカフェで心ゆくまでゆっくりとお楽しみください。

そのときは来てくれますよね?」

客席からは「行くよ」の思いを込めた拍手が鳴りやみませんでした。

イタリア料理人を目指す“T2”くんは、ある日、卒業記念に施設関係者が連れていってくれたイタリア料理屋さんで背伸びをしてみて、名前を知らないメニューを注文しました。

その緑色のソースがかかったパスタは、「口の中になんとも言えない美味しい味が広がり、鼻に抜ける香りが良い」のです。

この鼻に抜ける香りがバジルであったこと、このパスタがジェノベーゼであったこと後で知ります。

自分も料理をつくりたい!とインターネットでレシピを調べ、クリスマスには施設で50人分のローストビーフとタンシチューをふるまいました。

その際、ワインは飲むだけでなく、肉をやわらかくする作用があることを知り、素材の良さを生かすために料理人が様々な工夫をしていることに感銘を受け、より料理人になりたい思いを強めていきます。

“のこっち”くんの夢はゲームクリエイターになることです。

「モンスターハンター」のキャラクターの動きがいかに素晴らしいのか、実際に身振り手振りを交えながら、楽しそうに語ります。

その熱心さと、ゲーム動作の忠実な再現に、客席からは笑みがこぼれました。

過去を語る場ではなく、夢を語る場

スピーチコンテストの入場料5000円は、子どもたちの奨学金やプログラム費に充てられます。

奨学金と引き換えに、観客の前でつらい経験を語る会であったらどうしよう、と彼らのスピーチを聞くまで思っていました。

しかし、私が思い描いていた「かわいそうな子ども」の枠を軽々と飛び越え、彼らは多種多様な夢を語っていきます。

自身のつらい体験について、詳しく話す子もいましたし、話さない子もいました。夢を語る際に、必要があれば話す、必要でなければ話さない姿勢を感じ、「過去を語る場」ではなく、「夢を語る場」にした意図が伝わってきます。

運営団体NPO法人ブリッジフォースマイル代表の林恵子氏は、児童養護施設退所後の子どもたちが抱える問題は経済面だけでないと指摘します。

お金の不安や将来の不安は子どもたちの夢見る力をうばい「どうせ頑張っても無理だろう」と思ってしまうのです。

だからこそ、カナエールの先輩方が夢を語る姿を見せることで、身近なロールモデルにしてほしいそうです。

また、今までプライバシーの問題から児童養護施設の子どもたちは表舞台に立つことが少なく、周囲に自分の状況を話す子どもも限られています。

そのため、「本当にそんな子どもがいるのか」と社会の人たちは問題を見て見ぬふりすることができました。

しかし、カナエールでは、子どもたちが実際に目の前に立って、自分たちの状況を自分たちで説明するため、家族ではなく社会で育てる必要のある子どもたちがいることを目の前に突きつけられます。

「『児童養護』をどう思っていますか?」と真っ直ぐなまなざしで問われ、私はあたふたすることになりました。

本来ならば、夢を語らずとも、奨学金を受け、進学できる方がいいに決まっています。

とりあえず大学に入ってから夢を決めることが許されている子どもも沢山いるからです。

そう考えると、児童養護施設の子どもたちに「なんで進学するのか」と説明を迫るのは、不公平でしょう。

ですがカナエールは、夢があり、あと月3万円があったら目標を叶えられる子どもたちに手を差し伸べられる制度だと感じました。

自分の夢を、応援してくれた人がいる。人生は、自分でどうにかしないといけないことが多いものです。

それでも、投げ出したくなるような日々を、誰かが応援してくれた事実で、なんとかしのげることが時々あります。

スピーチをした後に響く、天井から降ってくるような惜しみない拍手を聞きながら、そんな場に居合わせているのかもしれないと思いました。

詳細告知

今週末は福岡でスピーチコンテストが開催されます。6人のカナエルンジャーをぜひ会場で応援してください。

<カナエール福岡>
◆日時:2016年7月3日(日)13:00 開演
◆会場:北九州 黒崎ひびしんホール 大ホール

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