記事提供:カラパイア

それは電線では断じてない。

あまり知られていないが、実は世界中の何百という都市のまわりには透明な釣り糸のようなものが張り巡らされている。

それは歩行者の頭上より遥か上、家屋の屋根あたりの高さに、電柱や街灯を使って張ってあるのだが、ほとんど目には見えず、生活にほぼ支障はないのだが、いったい誰が?何のために?

正統派ユダヤ教信者にとっては重要な結界

何キロにもわたってはりめぐらされたこの透明なワイヤー。実はこれ、正統派ユダヤ教信者にとって、信仰に身を捧げるための重要な結界となっているのだ。

ワイヤーで囲まれたエリアは「エルブ」と呼ばれている。ユダヤ教は安息日には外出してはいけないという掟があるが、エルブは敬虔なユダヤ教徒がこの掟に背かずに活動できる領域なのだ。

厳密に安息日のルールに従っていると生活が成り立たない。かといってルールを破れば、信仰の務めを怠ることになる。

また安息日は厳密には車の運転や家事などの労働も禁止となっているため、敬虔なユダヤ教徒は子どもの乳母車を押したり、車いすも移動もできず、シナゴーグ(ユダヤ教の会堂)にすら行けなくなってしまう。

エルブとよばれる結界内は安息日でも活動できる

そこで、ユダヤ人たちはこのワイヤーで家の近所に囲みスペースを作り、この内側は家の中であるということにした。

エルブ内であれば、家の中にいるのと同じことなので、安息日であっても出かけたり、活動してもいいということになる。

かつて、エルブはいくつかのユダヤ人家庭から成る、閉ざされた中庭やシナゴーグの中であることが多かった。

壁や垣根、地面をほかと隔てる道路が、実質的な結界と考えられていた。昔の多くの共同体や町全体は壁で囲まれていて、“家の中”を出なくて済むので、壁の内側であれば信者たちは安息日に活動することができた。

共同体が大きくなるにつれ、壁で囲うことが難しくなったため、柱を立ててそこにワイヤーをわたし、囲われた領域を作るようになった。

実際、一本のワイヤーは透明な壁と同じことなので、なにも固い壁を作る必要はない。2本の支柱にワイヤーをわたすだけで透明な壁ができ、壁全体が結界の連続した出入り口となる。

ニューヨーク、ブルックリンのエルブを表す地図。

ニューヨーク、マンハッタンのエルブを表す地図。

オランダ、アムステルダムのエルブを表す地図。

エルブは定期的に保守点検される

メルボルンからマンハッタン、トロントからテルアビブまで、エルブはいたるところにあり、ちゃんと定期的に保全点検もされている。

点検や修理を行う組織は、電話番号やウェブサイトを持っていて、誰でも正常に結界がはられているかを確認することができる。

エルブの維持費用は、その地域のシナゴーグが負担し、ニューヨークのような大都会では、かなりの金額になることもある。

エルブの設置を巡っては、さまざまな議論があるのも確かだ。ユダヤ人共同体は、エルブを設置する前に自治体や議会の許可をとりつけるが、許可されないこともある。

ユダヤ人コミュニティの中ですら、エルブはラビが安息日の活動を禁止するために考え出した、ただの抜け穴にすぎず、こんなお粗末な結界になんの意味があるのかと疑問を投げかける人がいるのも事実だ。

ニューヨーク、マンハッタンのエルブの一画。

ロサンゼルス、ヴェンチュラ大通りのエルブのワイヤー。

ロサンゼルス、電柱にはられたエルブのワイヤー。

ニューヨーク、リンカーンスクエア。青空を背にはっきり見えるエルブのワイヤー。

マサチューセッツ州モールデン。街灯の柱にエルブのワイヤーを取りつける男性。

マサチューセッツ州モールデンの町の上空に張られたプラスチックのワイヤー。

ニューヨークのエルブのワイヤー。

出典:Wikipedia
出典:Chabad.org
出典:BBC
出典:Jewcy.com

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