記事提供:サイゾーウーマン

NPO法人 女性・人権支援センター ステップの栗原加代美理事長

俳優のジョニー・デップが妻である女優アンバー・ハードからDV被害を訴えられ、泥沼離婚劇を繰り広げているが、日本でも先月、俳優の真木蔵人が交際相手の女性に暴力を振るい、ケガを負わせたとして逮捕された。

また、4月には俳優の伊勢谷友介も、モデル・森星との交際発覚を機に過去の交際女性へのDV疑惑が週刊誌に掲載されるなど、ここのところ有名人のDV報道が続いている。

愛しているはずの人になぜ手をあげてしまうのか。

DV加害者への更生プログラムを実施しているNPO法人 女性・人権支援センター ステップの栗原加代美理事長に話を聞いた。

■DV加害者の心に潜む「認められたい」という欲

――愛する相手を傷つけたくないと思うのが普通だと思うのですが、DV加害者はなぜ暴力を振るってしまうのでしょうか?

栗原加代美理事長(以下、栗原)自分のことをわかってほしい、一言で言うと承認欲求です。

それが満たされないと、怒りから暴力を使って恐怖を与え、相手を思うがままに動かそうとするのです。力によって支配したいという感情がDV加害者の心理の中で起こっているのだと思われます。

――承認を欲してしまう人というと、今まで人に理解されたことがない人ですか?

栗原 ステップに相談に来る8割の方は、自分の父による母へのDVを見てきた、あるいは両親から虐待をされたなど、自分が認められた経験が少なく生きてきた人なんです。

ですから、妻に対して自分を認めてほしいという欲求が普通の人以上に強くなる傾向にあります。認められたい欲求が執着に変わっていき、それがなされないと怒りが強くなって、結果、暴力を振るってしまう。

――父による母への暴力を見ていたということは、お母さんのことをかわいそうだと思って育ってきたはずですよね?

栗原 そうです。

しかし、父は母が思うように動かないとき、暴力を振るうというのがどこかにインプットされている。

そうなると、妻が自分と違う意見を述べた際、自分もいけないとは思いつつ、暴力を選択してしまうんです。話し合いで解決するとか、交渉をするといった良いモデルを見てこなかったからです。

――DVを受けている女性の中には「暴力を振るった後は彼が優しくなる」という話をする人もいますが、それは暴力を振るったことを夫が後悔しているからですか?

栗原 いいえ。下手に出るというコントロールです。

彼が優しく「ごめんね」と謝って、何かモノを買ってあげることによって、女性は「どっちが本当の彼なの?」と思うわけですよね。

優しいときの彼が本当の彼なら、自分が怒らせているので、「彼の欲求を満たしてあげられない私が悪い」と、女性は罪悪感からさらに彼に従おうとするんです。

■悪い思い込みをすることが習慣化している

――DV加害者になりやすいのはどのような男性ですか?

栗原 いくつかあるのですが、1つ目は、自分が正しいと思ったら妻の意見を聞かずに押し通す「正しい病」の人です。それが支配につながります。

2つ目は他人のことや妻のことを一切考えない自己中心的な人。先日、小金井で女子大生刺傷事件が起きましたが、あの容疑者も相手がこんなことをされると嫌がるとか、相手の気持ちを全く考えない、自己中心的な人でしたよね。

そしてもう1つは、悪い思い込みをしがちな人。例えば、妻に電話をしたのに出なかったとします。

普通の人なら、忙しくて電話に出られなかったのだと思うところ、悪い思い込みをしがちな人は「無視された」と思うんです。そうするとどんどん怒りが湧いてきて、大量メールを送るなどの嫌がらせをしてしまう。

うちに相談に来たケースだと、夫が炊き込みご飯を作ろうと炊飯器に水を入れていたのを見た妻が「あなた、炊き込みご飯にその量だと、ちょっと水が多いんじゃない?」と、水の量を指摘しただけだったのに、

夫は「水加減もできないバカな男」と解釈したという例がありました。それで、激怒して妻を叩いたという。

また、もう1件のケースですと、夫婦でパスタを作ろうと、妻が具材をカットし、夫がパスタを茹でるためにお湯を沸かしていたそうです。

お湯が沸いたので夫がパスタを入れようとした際、妻が「パスタを入れる前に塩を入れてね」と言ったところ、夫は妻に支配されたと感じてしまい、パスタを全部床にぶちまけたんですよ。妻は塩を入れてとお願いしただけなのに。

――そこまで悪い思い込みがあると、何か精神的な病気ではないかと疑ってしまうのですが…。

栗原 病気ではありません。否定的な考え方をする習慣が子どもの頃からついているんです。そして、理想の妻像とか夫婦像が歪んでいるわけです。その価値観を健全に変えれば悪い思い込みをやめられます。

うちに相談に来る方は、大学教授やお医者さん、教師や警察官など、リーダーシップのとれる、職場では尊敬されている方が多いんです。社会では決して暴力は振るわず、紳士的で外面は良い。妻にだけ暴力を振るうんです。

芸能人のDV報道が続いているというのも、華やかな世界で周りが持ち上げてくれる職なので、妻も同じようにちやほやしてくれないと気が済まないのではないかと思います。妻を所有物と思っているんでしょうね。俺の言うことを聞いて当たり前と。

――DVは身体的暴力だけでなく、生活費を渡さないといった経済的暴力や言葉の暴力も含まれますよね。

栗原 身体的暴力よりも、経済的暴力や言葉の暴力の方が多いですね。「誰に食べさせてもらっていると思っているんだ、お前が言うことを聞かないからお金を渡さない」とか、

「お前はブスで価値のない女だ、死んじまえ」とか。言葉の暴力をDVと捉えていない男性は多いと思います。

ほとんどが少しばかり身体的暴力も振るっているのですが、それは1年に1回程度。しかし、毎日言葉による暴力を振るっているので、妻の方はそれでも怖いし傷ついているんです。

■加害者はDVで離婚をしても「性格の不一致」と捉える

――DVが原因で離婚をしたのに、再婚相手にもDVをしてしまうケースも聞きます。学ばないのでしょうか?それとも常習性があるのでしょうか?

栗原 うちのようなところで歪んだ価値観の矯正をしたり、悪い思い込みを取り除いていったりしない限り、思考は変わらないんです。

彼らは自分がやっていることがDVだとは思っていません。妻への教育、しつけだと思っており、自分が被害者という意識です。悪いと思っていないので繰り返す。離婚の原因がDVだとは気付かず、性格の不一致だと思っています。

――ステップでは、DV加害者にどのような更生プログラムを行っているのですか?

栗原 うちでは、アメリカの精神科医、グラッサー博士が編み出した「選択理論」を取り入れています。全ての行動は自分の選択の結果であるということを教えるんです。妻があなたを怒らせることはできないと教えると、みなさん腑に落ちるんです。

この理論はアメリカでは刑務所で囚人が学んでいます。選択理論を学ばないと再犯率が56%もあるのですが、学ぶと2.9%まで減るんです。

多くの犯罪者は自分ではなく周りが悪いと考えますが、「あなたが悪いんだよ」と教えると、人を復讐することはなくなるわけです。

また、この理論は鬱の患者への治療法としても使われています。マイナスの思考がマイナスの感情を生むので、前向きな思考に変えると鬱が良くなるんです。

脳の働きを車の車輪に例えて考えると、思考と行為は前輪。これは変えられるものです。後輪は生理反応と感情。こちらは変えられませんが、思考・行為を変えると、感情と生理現象も後からついてくるんです。

DV加害者たちは「この妻はふさわしい妻ではない」というマイナスな思考をすることで、怒りの感情が湧いてきます。そして、暴力を振るい、妻は恐怖の生理反応として涙が出たり震えたりしてしまう。

しかし、「この妻はすばらしい」と思うと、穏やかな気持ちになり、妻が震えることもありません。

しかし、DV加害者は思考パターンが習慣化しているので、悪い思い込みを取り払うには時間がかかります。ですので、うちでは1年かけて教えていきます。

■DV癖は治らないと言われるが、学べば変われる

――ステップに来てきちんと更生プログラムを受けられる加害者はいいですが、多くの加害者はDVの意識がないため、ステップに足を運ぶことは難しそうですよね。相談者はどのようにして夫を連れてくるのですか?

栗原 「ここの更生プログラムを受けるまで帰りません」と、ステップの電話番号を書いた置き手紙をして、ある日突然、家を出ていくケースは多いですね。

そうすると、夫から「妻が出て行ってしまったのですが、そこはどのような所なのですか?」とうちに電話がかかってくるので、「良好な夫婦生活を送れるようお役に立つところです」と答えます。

本人にDVの意識がないので、DVという言葉は使いません。夫は離婚をしたくないものだから飛んできますね。

また、妻のお母さんが夫にステップを薦めるということも多いですね。DV加害者は権力のある人の意見にはすぐに従うんです。

アメリカでは警察にDVの通報があったら直ちに更生プログラムを実施するシステムなのですが、日本では法の中に入っていません。処罰で加害者を変えようとするだけです。

留置所に入ったところで何も変わりません。何もすることがないので鬱になってしまう人もいる。それで出てくるので、またDVをしてしまう。

――もし、DVに遭ってしまったらどうすればいいのでしょうか。

栗原 相談できる相手を持つことです。

そして、身体的暴力がある場合は逃げる場所を確保しておくこと。

また、“自分”を維持するために趣味を持つことも大事です。

月に1回、きれいに着物を着て歌舞伎を観に行くことでストレスを発散しているという相談者もいました。DV被害のことばかり考えていると心が病んでしまいますからね。

あるいは、仕事を持っている女性は意外と重い被害者になっていないですね。職場で発散できますし、いろんな人と話せて知恵やアドバイスももらえます。

専業主婦でDVを受けている場合が一番ひどい精神状態になりますね。誰も相談できる人がいなくて1人でずっと悩んでしまうので。

――読者の中にもDV被害に遭っている方がいるかもしれません。その方々に向けてメッセージをお願いします。

栗原 1人で悩まずに、更生プログラムにパートナーを送ってください。行政などに相談すると、「DV夫を変えることはできない」と言われますが、学べば変われます。

現に、ステップで更生プログラムを受けた8割の加害者が変わり、別居から同居に移って良好な夫婦生活を送っていますよ。

栗原加代美(くりはら・かよみ)

NPO法人 女性・人権支援センター ステップ理事長。2011年4月から被害者支援の一環として、神奈川県初のDV加害者更生プログラムを始める。(男女一緒に開催)

NPO法人 女性・人権支援センター ステップ

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