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――エカキで作家・マンガ家、旅人でもある小暮満寿雄が世界のアートのコネタ・裏話をお届けする!

今年4~5月にかけて開催された「生誕300年記念 若冲展」。前代未聞の混雑で話題になったが、

特にシニア無料の日などは“320分待ち”という、ワーグナーの楽劇「神々の黄昏」(260分)を聴いても、まだおつりが来るほどの恐ろしい混みようだったとか。

美術館側の対応にも批判が出たが、未曾有の行列にそれは酷というものだろう。

出典 http://jakuchu2016.jp

NHKが何度も特集を放映したことも背景にあるが、若冲と言えば30年ほど前、まだ画学生だった私たちの間で流行った画家で、どちらかといえばサブカル的な扱いだったものだが、思えばずいぶんメジャーになったものである。

■「古くて新しい」若冲

『動植綵絵』の内「南天雄鶏図」。

ともあれ、特に筆者のように絵を描く人間にとって伊藤若冲(1716~1800)とは、余人をもって替えがたい存在だ。

それがここに来て、彼自身が遺した「千載具眼の徒を竢つ(せんざいぐげんのとをまつ)」、つまり「1000年先に私の絵は理解されるだろう」という言葉がやっと現実になりつつあるのかもしれない。

一般に若冲の絵は、「古くて新しい」と表現されるが、実は古今東西、名画と呼ばれるものはどれもそうである。岩波ホールの宣伝文句「生まれた時からの古典、永遠の新作」に例えればわかりやすいだろうか。

若冲の作品の新しさとは、サボテンを屏風にするような斬新さや奇抜さもあるが、それ以上に、“たった今描き上がったようなフレッシュ感で満ち溢れている”点にある。

それは絵の表面張力が高いとでもいうか、「南天の実」にせよ、「雪の粒」にしても、ひとつひとつの絵としての“盛り”が高いのである。

■「鳥獣花木図屏風」、モザイクの真意は?

「鳥獣花木図屏風」。

しかしそれでも、私自身がどうしても写真だけでは理解できなかった絵が、“江戸時代のデジタル画”や“モザイク画”にたとえられる「鳥獣花木図屏風」だ。

米国人収集家ジョー・プライスによる「プライスコレクション」の頂点として誉れ高い作品だが、どうして無数の桝目に動物や植物を散りばめたのか、その意図がよくわからない。

なぜ、こんな手間のかかることを思いついたのか、不思議で仕方なかったのである。

もちろん、絵なんて本物を見て「凄い!」と思えばそれで良いのだが、作者が若冲という画家である以上、そこには思いつきだけでない意図が秘められているはずなのである。

■若冲の“盛り上がり”の効果

ところが先日、ジムのヨガ教室を受講していたところ、格子状になっているヨガマット見てふと思いついた。

「鳥獣花木図屏風」の桝目には、それぞれもう1つマスがあるけれど…それには、こんな意味があるんじゃないのかな。

画:小暮満寿雄。

マンガに補足を加えて申し上げると、モザイクの中にもう1つ明るいハイライトが入ると、絵を見る角度によって色が違って見えるという思わぬ効果が得られることがあるのだ。

そしてもう一点は、絵の中にあるいくつものハイライトこそが、「鳥獣花木図屏風」に限らず、若冲独特のトーンを決定づけているのだ。それを(ザツな絵で申し訳ないが)簡単に描いたイラストで見てもらおう。

画:小暮満寿雄。

おわかりだろうか。

本物を目にした人なら、印刷で見た時とは決定的に違いがあることにお気づきだろう。いくら印刷でがんばっても、このような“盛り上がり”は雰囲気として感じられるのみだ。

それにしても、若冲という画家の全貌が、これだけの説明で語り尽くせるはずもない。

なにしろ近年になってようやく、彼が描いた花の中に、肉眼ではわからない点描が発見されたというのだから驚きだ。

まだまだ、たくさんの秘密が隠れているのだろう。

大勢のギャラリーは押し寄せるようになったものの、その“すべて”を理解できるようになるのは、もう少し先の世界なのかもしれない。

■小暮満寿雄(こぐれ・ますお)

1986年多摩美術大学院修了。教員生活を経たのち、1988年よりインド、トルコ、ヨーロッパ方面を周遊。現在は著作や絵画の制作を中心に活動を行い、年に1回ほどのペースで個展を開催している。

著書に『堪能ルーヴル―半日で観るヨーロッパ絵画のエッセンス』(まどか出版)、『みなしご王子 インドのアチャールくん』(情報センター出版局)がある。

・HP「小暮満寿雄 Art Gallery
公式ブログ

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