記事提供:サイゾーウーマン

生まれたときの体の性と心の性が一致しない「性同一性障害」。

全国に約4万6,000人いるとされているが、性的マイノリティに位置づけられている当事者たちは、性別に対する違和感だけではなく、カミングアウトの不安など、さまざまな苦悩を抱えている。

実際のところ、それぞれのライフステージにおいて、どのような壁を感じ、葛藤してきたのだろう?

そこで、今年のGID学会(Gender Identity Disorder=性同一性障害の略)の研究大会に合わせて、NPO法人性同一性障害支援機構が開催した「GID全国交流会」に参加。

当日、筆者の取材に応じてくれた当事者たちの本音の一部を紹介したい。

■学校でも、いじめの対象になりやすい

北海道から九州まで、同じ悩みを抱える当事者をはじめ、友人や同僚など、全国から100名以上が参加し、賑わいをみせた。

LGBT(セクシュアル・マイノリティ)のための団体「レインボー金沢」のスタッフを務める梓さんは、MTF(体の性別は男性で心〔自認〕の性別は女性)として生きているが、職場では、ごく一部の人以外にはカミングアウトをしていない。

「長年、中性から女性寄りの外見で生活していますが、リスクやデメリットを考えると、なかなか職場ではカミングアウトに踏み切れない…というのが率直なところです。

同じ地域に暮らすLGBTの中には、うわさが広まったり、偏見や好奇の目を懸念したりしてカミングアウトできないという人が多くいます。

人口が多い東京と比べると、地方では、まだまだそうした風潮が強くあると思います。

友人は選べますけど、問題は学校と職場ですよね。周囲からハラスメントを受けて職場や学校に居づらくなって辞めてしまうとか、のけ者にされて引きこもりになり、最悪の場合は自殺する人もいるくらいなので、

カミングアウトに抵抗があることは、何ら不思議ではありません。

そうした中で、私の地元で実施している『レインボー金沢』の交流会などの場があれば、当事者がお互い安心して話ができる貴重な機会を得られると思います」(梓さん)

梓さん自身、過去に医療機関を受診した際、医師にホルモン治療をしていることを伝えたところ、カルテに「趣味でホルモンをやっている」と書かれたことがあるという。

患者を守るべき存在の医療従事者ですら、性同一性障害に対する理解が不足していることも少なくないようだ。

「学校でもいじめの対象になりやすく、攻撃の対象になるケースも多いです。

なかには、服を脱がされて写真を撮られるといった深刻な被害に遭う子どももいるようです。

自分の性自認や性的指向は、本人が選べるようなものではありません。

性的少数者を差別してはいけないと国や自治体がはっきり法制化し、相談や支援の仕組みを全国的に作って、誰もが生き生きと暮らしていけるように啓発していく必要があると思います。

そうした社会を目指して、性自認や性的指向により困難を抱えている当事者に対する法整備のために活動をしている『LGBT法連合会』にも加わって、多くの人と一緒に活動しています」(同)

■あらゆる性自認の人たちに対応する仕組みに、世の中が変わってほしい

また、梓さんは男性から女性への性別適合手術を受けていないため、戸籍上は男性のままだが、恋愛対象とする性別、いわゆる性的指向は女性。

つまり戸籍変更をして男性から女性になったとしても、現状はパートナーとして女性と結婚することはできない。

「戸籍変更をしなければ結婚できるのですが、戸籍変更を取るか結婚を取るか、どちらか選びなさいということになってしまいます。

それは究極の選択すぎます。異性愛で性別に違和感がない人にとっては当たり前にできることができないというのは、不平等だなと思います。

そうした『どっちかにしないといけない』風潮は、例えば書類の性別欄で『男』『女』どちらかに丸をしなければならない――というように、あらゆるところに根付いていると思います。

あらゆる性自認の人たちに柔軟に対応するよう、世の中の仕組みが変わっていってほしいと思います」(同)

性同一性障害であるかないかにかかわらず、世の中のあらゆる選択肢は、極めて限られたものしか用意されていないといえるかもしれない。

そして、多数派の常識が少数派の生きづらさの原因にもなり得ることを、心に留めておく必要があるだろう。

■LGBTにまつわる情報が乏しい地域で生きる

次に話を聞いたのは、佐賀県でLGBTの支援団体「AO*AQUA」を1年前に立ち上げた原亮さん(20歳)。

性別適合手術は受けていないが、FTM(体の性別は女性で心の性別は男性)としてカミングアウトしている。

団体を主宰するまでは、個人で交流会を開催したり、性同一性障害で悩む人たちの相談を受けたりしていたというが、情報の少ない地域ゆえに支援の機会を増やしたいと、団体を立ち上げることを決意したのだそう。

「九州全体をみても、まだまだLGBTに関する情報が少ないのですが、佐賀県は性別適合手術やホルモン注射を受けられる病院もないですし、特に遅れている地域だと思います。

福岡県は少し進んでいて、交流会も活発に行われていますが、若い子がそうした交流会に参加するために福岡に行くのは、金銭的にも厳しい。当事者の人に会いたいんだけど会えないから、情報を得る手段がネットになってしまいます。

しかし、ネットには嘘や危ない情報も含まれているので、やはり当事者の人から、より確かな情報を得られる場所を作りたいと思って団体を立ち上げました」(原さん)

現在、専門学校へ通う傍ら、原さん以外に2人のメンバーで、支援の規模を拡大するべく活動しているという。

そのように精力的に活動を行う背景には、原さん自身が相談できる人が周囲にいなかったことで、精神的に追い詰められた時期を過ごした経験があるようだ。

「高校生のときに親にカミングアウトしたのですが、とても否定的な反応をされたので、生きることに活力を見いだせない時期がありました。

周りに助けてくださる方もいなかったので、どんどんマイナス思考に陥って、学校にも行きたくなくなるんです。それから5年ほどたって、やっと理解してもらいましたが、親も情報がない中で、漠然とした不安を抱えていたんだろうなと思います。

この子はちゃんと生きていけるんだろうかとか、治療したら大丈夫なんだろうか、偏見や差別で苦しまないだろうかとか、そういう心配はあったと思います」(同)

■性同一性障害だからといって、生き方の選択肢はひとつではない

性同一性障害の子どもを持つ親も、当事者である子どもも、将来のことを考えるうえで、確かな情報は不可欠だ。

しかし、当事者団体が身近にない中で、そうした情報を得ることは困難である。

さらに、性別適合手術や治療という面においても、情報の少なさから判断を早まる人も多いという。

「東京であれば、カウンセリングをしっかりしてくれるクリニックもありますが、地方だとそうした施設が乏しく、例えばFTMだとわかったら治療するべきだという考えになりがちです。

そのため、治療年齢が若年化しているなという印象があります。

ホルモン注射にしても、副作用もまったくないわけではないですし、今すぐ治療をしなくても幸せに生きられる方法はないのか、本当に手術を望んでいるのか、考える機会も選択肢もないままに決断するのは危険だと思います」(同)

なお、日本において、性同一性障害をホルモン注射で治療することは保険適用外とされている。

健康保険の基礎である共助の観点から、しっかりとした検証を尽くしたうえで、国としても適切な治療や薬剤を吟味し、保険適用の検討を進めることが必要なのではないだろうか。

最後に、性同一性障害の人たちの生きづらさについて、原さんは次のような例を挙げて話してくれた。

「FTMの場合、毎日女装させられているような感覚になります。

例えば、罰ゲームか何かで、男性であれば女装、女性であれば男装を1時間しなさいっていわれたら楽しめるかもしれません。

しかし、その服装と振る舞いを何十年も続けなくてはいけないことを想像してみてください。

カミングアウトしていない人は、そうした違和感をずっと抱えて生きていかなくてはいけないんです。そうした苦しみを理解してもらえると、ありがたいなと思います」(同)

実際に梓さんや原さんのような当事者に会ってみたり、話を聞いたりすることで、その存在に気づき、世の中には多様な性のかたちがあることを改めて知ることができる。

自分がもし、他の人にとっては当たり前の選択ができない状況になったら、あるいは自分の意思ではどうしようもない性自認によって偏見やいじめの対象になったら、

そして心と体の性別が一致しないとわかったとき相談に乗ってもらえる人が近くにいなかったら…自尊心を保ちながら生きていくのは、極めて難しいことかもしれない。

そうした想像力を働かせることが、当事者たちを理解するきっかけになり、ひいては多様性を受け入れることができる、柔軟で生きやすい社会への一歩になるのではないだろうか。

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