性風俗の仕事、あるいはそういった業界で働いている人にどのようなイメージを持っていますか?金銭的に困っている、借金や奨学金の返済に追われている、家庭の事情…そんなことをイメージするのではないでしょうか。

しかし、実際はそういった女性ばかりが働いているわけではありませんでした。

今回Spotlight編集部では、風俗など夜の世界で働く女性のセカンドキャリアを支援する一般社団法人Grow As Peopleの代表・角間惇一郎さんにインタビューし、お話を伺ってきました。

データが示しているのは世間のイメージとは違う

ーー夜の世界で働いている女性は、どんなことをきっかけに働くことが多いですか?

角間:様々ですね。これはデータを取ってみても明らかですが、どんな人が多いというのはありません。貧困や奨学金の返済で夜の世界に入るというイメージが強いかもしれません。

しかし、僕らはデータを取っているからこそ言えるんですが、入る動機として顕著なものはなくて、望めばとりあえずで在籍することはできるのが夜の世界なんですよね。特定の条件を抱えているから入る場所ではなくなってきているのが事実です。

一番の問題は、平均的な収入や出勤日数などのデータがないこと。

データがないから社会に対して発信する際に、ルポなどで書かれている風俗の悲惨なストーリーや、当事者の女性の個人的な話が感情的に議論されることに終始してしまいます。上手くやれている人と、そうでない人の溝を埋めるためにもデータを取ることは必要な作業なんです。

でも当事者の女性から直接データを取るとなると、饒舌な方しか来ない。偏りが出てしまうので、GrowAsPeopleでは夜のお店のスタッフさんから情報を得てデータにしています。全国のお店とネットワークを組んでいて、そこから収入や出勤情報を得ると共に困っている当事者の女性がいたら紹介してもらっているんです。

データにこだわる理由

ーー角間さんがデータを大切にしている理由を教えてください。

角間:世間の関心は夜の世界で働く個人のストーリーばかり。救うべき存在として見ている一方で、好奇の目でも見ているわけです。なんでそうさせてしまうのか?というとファクトがないからです。数字を伴ってないとファクトではないし、多分ルポとかでも悲惨なストーリーの女性を出して「夜の現状」と言ってしまう。

でも、それはあくまでもその女性個人のことであって、データに基づくものではないですよね。僕は根拠のないことは言いたくないです。

そんなことばかりしてたらサイレントマジョリティ(声をあげていない多数派)が見られなくなります。僕はそういうことを嫌っているから、サイレントマジョリティ的な層にリーチしています。

夜の世界で働く女性は大きく4つに分類される

ーーいろんな層の方がいる中、角間さんが注目している層の方はどんな方なんでしょう?

角間:働いている当事者の女性達は、本人の収入と夜の仕事に対するプライドを軸に大きく4つに分類されていて、それぞれ立場も必要としていることも違います。

多くの当事者の女性達は、この図の右下に分類されていてGrowAsPeopleのターゲットもここの層です。世間やメディアの人達は、左下の層の方々をよく取り上げていますね。左上の層の方々は、自分達の仕事に対してプライドを持っている層で、セックスワーカーと自称する方もいます。右上の層の方々は、プライドも収入も高い層で割合としてはごくわずかです。

この4つの分類の中で目立つのは、左側の方々。すると目立たない右側の方々の中でも、稼げていない右下の方々のニーズは、なかなか認知してもらえない。だから僕らがそのニーズに応えようと思っています。

「風俗を肯定も否定もしない」理由

ーー他の記事での角間さんの言葉の中で、「風俗を肯定も否定もしない」というのが印象的だったんですが、最初から思ってたことなんですか?それともこの仕事を始めてからですか?

角間:この仕事をやってからですね。元々この業界の中の人ではないので。世間的には、ヤバさのアリバイに夜の世界を使うんです。「貧困の何がヤバい?」と聞かれた時に、貧困そのものがヤバいとみんな思っているけど、何がヤバいのかを端的に伝えられる言葉を持っていない。その時に「夜の世界に行ってしまう」と例えると納得しますよね。

「行ってしまったら最後」というのが、世間的な認識。だからこそ、いかに辞めさせるかという視点になるはずです。

夜の世界に入る前というのは動機が多様過ぎるので、予防することは不可能です。一方で働き始めると、周りはどうにか辞めさせたいと考えるのに対し、本人はとにかくお金を稼ぎたいと考えるようになります。水商売と違ってお客さんに付かなければ、何時間出勤しようが収入はゼロなんです。だから一面からは語れないなと思っています。

ただ、辞める必要はなくても、“辞めざるを得ない”時が来るんです。

若い方が稼げる本当の理由

ーーそれはどういうことですか?

角間:時が経てば体力が落ちてきて、体が動かなくなってきます。「夜の世界は若い方が稼げるのでは?」とよく言われますが、若さが市場価値として評価されるというのは半分で、データから分かることは若い方が出勤日数が多いんです。

極端な話、若ければ生理中でも出勤するし、オープンからラストまで働くことだってあります。でも、歳を取ってくると体が辛くなってくるんです。野球で例えると、ピッチャーが中3日で投げられなくなるのと一緒。だから稼げなくなるんですよね。

どんな立場や環境であろうが、夜の世界で働いていない人も1か月は30日。大体40歳くらいでキャリアの限界が来るんです。

その時に風俗のキャリアはセカンドキャリアに生きないから、つまずいてしまう。

ーー中には昼間の仕事をしながら夜の世界で働いている人もいると思いますが、昼間の仕事の経験がないという人はどれくらいいるんですか?

角間:昼間の仕事の定義をアルバイトとするか、正社員での就業とするかにもよりますが比率でいうと7割くらいですね。

ーー40歳を超えても続けている人はどんな人なんですか?

角間:リピーターを抱えている人や、体力的に消耗が少ないやり方で出勤している人達です。

ーー夜の世界で働いている人は、接客業としてのキャリアが生かせそうな気もするのですが。

角間:本人のコミュニケーション能力次第としか言えません。我々が対象としている当事者の女性の多くは、夜の世界でのキャリアを生かしたいと思っていないし、むしろ隠したいと考えています。とはいえ、昼間の仕事をするには過去を明かさざるを得ないことも、問題の一つです。

夜の世界を卒業するために必要な準備

ーー夜の世界を辞める準備にはなにが必要ですか?

角間:お金を稼ぐということよりも、経験を積みにいくことと考えます。単にお金を稼ぎたいだけであれば、出勤を増やせばいいということになってしまうからです。時間の活用が重要な考え方となります。

ーーそういう違った経験をすることによって、彼女達の自信にもつながりますよね。

角間:自信もつくし、コネクションもできます。孤立することは本当に良くないことなので。夜の世界にいると、人に言えないというバリアと元々抱えていた心のバリアで二重になってしまうんです。そのバリアはできるだけ無くしてあげなければいけないと考えています。

シングルマザーを支援する理由

ーーホームページを拝見するとシングルマザーへの支援もされているようですが。

角間:僕らが大事にしていることの一つに「世の中を裏から見る」というのがあります。「夜の世界の現状を教えます」ではなくて「現状を見ることによって浮かび上がる現代の問題」を考えたいんです。

世間的に「夜の世界に行けばどうにかなるんじゃない?」と思われがちです。しかし、この活動を6年やってみて、夜の世界で働くシングルマザーと子供のいない当事者の女性では収入に10万円の差があることが分かりました。その根拠は、実稼働数の違いなんです。

最近風俗はデフレ化していて稼げないと言われていますが、風俗が稼げないのではありません。現代の貧困を考える1つの指標は収入や資産ではなく、どれだけフリーで動ける時間があるかというのが重要です。シングルマザーは風俗嬢の中でも稼働時間がかなり少なく、しかも昼間しか働けない人も多い。夜の時間が使えないんです。

だから単純に収入が少ない。つまりシングルマザーだからと夜の世界に行ったところで、たくさん稼げるという保証はない。相対的に立場が弱いのは間違いないので、そういった意味ではシングルマザーの支援というのは力を入れています。

夜の世界の1番のメリットはお金ではない

ーー夜の世界を辞めた後の問題の解決策として、どんなことが考えられますか?

角間:夜の仕事をやっていて一番のメリットって分かります?

ーーお金ですか?

角間:違うんですよ。時間なんです。貨幣って、地域によって金額に対する感覚が違う部分がありますよね。風俗には稼働日数というのがあって、1カ月平均12日なんです。歳取ると減りますけど、残り18日の猶予がありますよね?いわゆる昼職と比較してどうですか?という話なんです。

貯金を貯めても夜の世界に出戻りするパターンが決まっていて、ある日突然辞めた人は出戻りします。卒業型と言うんですけど、貯金や学校の卒業、借金の完済をきっかけに辞める人は大体戻ってくるんです。

ーーデータでわかるんですね。

角間:辞めない人は他の立場が被っているので、被っている期間があると辞めないんです。徐々に昼の仕事へ移行できるから。この被っている期間が厄介ですが、風俗をやりながら働ける場所というのがないのが問題であり、我々がその場を提供している理由でもあります。履歴書にも書ける経歴になるし、孤独になることもありません。

政治に「夜の世界」への関心を持ってもらいたい

ーー今後解決していきたい課題はありますか?

角間:政治がこちらを向いてくれないことが課題だと思っています。メディアや読み物としての関心は高いですが、政治のカードとして風俗というのは取り上げられない。去年、渋谷区長がLGBTをマニフェストに入れましたが、長いLGBTの歴史の中でようやく起こりえた現象だと思うんです。

政治のカードとして風俗をどう活用していくか、見せていくのかも課題ですね。結局風俗を労働に認めろと議員が話したところで、その議員は確実に票を失ってしまうので。

ーー難しいところですよね。

角間:1つ可能性があるとしたら、夜の世界で働く女性全体の投票率が妙に高い状態を作り出すこと。それをお店と連携してやっていきたいですね。

夜の世界というのは非常に多様で、隣には性の匂いがするわけです。この夜の世界の問題を議論の中央に上げる時に、性的観念をはじめとする思想を持ち出すのは危険だと思っていて、そうではない軸が必要だと感じました。だから時間や労働問題の方へシフトさせるようにしているんです。

そういう時にわかりやすく発信するために「ブラック企業」のように置き換えられる言葉として、「40歳の壁」とよく言っているんです。風俗が問題なのではなく、風俗にいるとキャリアに限界があって、それは立場を超えて起こり得るということを話すことによって、例えば就職支援サービスなどに関心をもってもらえるようなことをしたいな、と考えています。

夜の世界も特殊なものではなく、一般の労働と置き換えなきゃいけない規模になりつつあるんです。

おわりに

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一般的な夜の世界のイメージとは、全く違う現実を角間さんのお話で知ることができました。

たしかに最近見る貧困にまつわる記事は一部の体験談に過ぎず、全体的なデータを目にすることはあまりなかったのではないでしょうか。

また、収入ではなく時間を指標に考えている部分も、これまでのイメージを覆すものでした。

今後、角間さんの活動を通して夜の世界で働く女性のセカンドキャリアが、これまでよりも充実したものになっていくことを願います。

<取材・文/横田由起>

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