アメリカ・マサチューセッツ州ウースターにあるウースター工科大学。ここはSTEM (Science (科学)、Technology (技術)、Engineering (工学)、Mathematics (数学)) に特化した名門の研究大学。

今年も盛大にかつ厳粛に卒業式が執り行われました。多くの若い卒業生たちの中に、ひときわ目立つ白髪交じりの男性がいました。マイケル(Michael Vaudreuil)さん、54才です。

マイケルさんが、卒業証書を受け取るまでの道のりは、とても複雑で厳しいものでした。

授業が終わり静まり返った薄暗い構内で、マイケルさんの姿が毎日目撃されていました。モップを手に床を磨き、掃除機を押し、黒板をきれいに拭き、ゴミを運ぶ・・・マイケルさんは、ウースター工科大学の用務員さんなのです。

地元ウースターに生まれたマイケルさんは、町工場を経営する父親の元で育ち、短期大学で航空学を学びました。運悪く彼が卒業した頃は、アメリカの航空業界は1978年の航空規制緩和法制定以降不況に陥り、せっかく取得した航空学の学位が使える仕事を見つけることはできませんでした。そのため全く違う職種の仕事を探すことを余儀なくされてしまったのです。

手先が器用だったマイケルさんは、左官への道へと転向しました。良い仕事をする左官がいる、とすぐに仕事は増えました。バブル景気と重なってビジネスは成功し、彼は富を得ることができたのでした。しかし、2007年のサブプライム住宅ローン危機に端を発した米国バブル崩壊を切っ掛けとして、多分野にわたる資産価格が暴落。瞬く間にアメリカを不況が襲います。

マイケルさんの会社は倒産し、家も車も失うことになってしまいました。

希望を失い、三人の子供の父として夫として、自分が稼がなくてはいけないのに、それさえできず、生きる価値も意味もないと自暴自棄になってしまったマイケルさん。毎日、抜け殻のように過ごす時期が1年近く続きました。

そんな時見つけたのが大学の用務員の仕事

出典 https://www.youtube.com

2008年4月からウースター工科大学の用務員として働き始めました。毎日学生たちの熱気とアカデミックな空気に触れるうち、自分ももしかしたらできるのではないか、マイケルさんはそんな気持ちに駆られて来たそうです。

そして、大学の職員は授業料が免除されるというシステムを利用し、大学に入学することに決めました。最初は心理学のクラスを取り、徐々にメカニカルエンジニアの道へと進みました。

しかし、デジタルの世界に生まれ育った若者に比べ、マイケルさんはその時すでに40代半ば。仕事をしながら勉強するということは、本当に大変で、ストレスが溜り、そしていくつもの壁にぶつかります。何度も挫折しかけ、時には妻の肩を借りて泣くこともあったそうです。

妻のJoyceさん。「私が夫のチアリーダーになって応援し続けました。ときにはお尻を叩いたりもしたけど・・・」

そんなマイケルさんを若い同級生たちは「ずいぶん年を取った生徒」としてではなく、自分たちの仲間として快く受け入れてくれました。マイケルさんが発するエネルギーは、若者たちにもポジティブな影響を与え、お互い刺激しながら勉学に励みました。

夜中に用務員として仕事をし、早朝自宅に帰り4時間半足らずの睡眠。午前中にまた学校に戻り授業を受け、そして夜中に仕事・・・そんな日が足かけ8年続き、今回卒業する日を迎えることができたのです。

ガッツボーズ!

出典 https://www.youtube.com

900人の同級生と共に卒業の日を迎えたマイケルさん。証書を受け取り思わずガッツポーズ!

卒業式に参列した三人の子供たちと妻、そして彼の父親は誇らし気に壇上のマイケルさんを見上げていたそうです。

今のところまだ仕事のオファーは届いていませんが、オフィスの中で仕事をするのではなく、フィールドに出て現場で仕事をしたいと語るマイケルさん。

卒業をしても、しばらくは今まで通り用務員の仕事を続けていくそうです。

挫折しても必ず努力すれば這い上がることができる、夢を持てば叶う、いくつになっても諦めるな!そんないろいろなことをマイケルさんは身を持って大勢の人に教えてくれています。

出典 YouTube

用務員マイケルさんのウースター工科大学卒業を伝えるニュース動画

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公式プラチナライター。テキサス州在住。料理研究家でフリーランスのコラムニスト

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