人の運命は、いつ、どこで何が起こるか想像もつかないとはこういうことではないでしょうか。二人目の子供を出産した直後に倒れた母親。原因は、くも膜下出血でした。二人の子供を残してあっけなく旅だってしまった我が娘。母親からすれば、「どうしてウチがこんな目に」という思いだけが渦巻いていたことでしょう。

33歳の若さでこの世を去ったローナさん

Licensed by gettyimages ®

健康で、これまで大きな病気一つしたことがなかったローナさん。無事に二人目の女の子を出産したものの後日、帰らぬ人となってしまいました。生前、ローナさんは臓器提供を希望するドナー登録をしていました。そのため、彼女のあらゆる臓器は移植手術を待っている患者の下へと運ばれ、彼らの移植手術は無事成功を収めたそうです。

イギリス、エディンバラ在住のローナさんの母、ジェーン・モハットさんにある一人の女性から連絡があったのは8週間まえのこと。彼女はローナさんの肺の移植手術に成功した一人でした。「感謝しきれないほどの気持ちがあるが、とにかく会ってお礼の言葉を伝えたい」とその女性はエディンバラまで娘とやって来ました。

「あなたの娘さんが私に人生を与えてくれた」

Licensed by gettyimages ®

ノッティンガム在住のリサさん(47歳)は35歳の時に「サルコイドーシス」という極めて稀な病であることを宣告されました。

サルコイドーシス(sarcoidosis)というのは、ラテン語で「肉のようなものができる病気」という意味です。目に見える大きさのものから顕微鏡でやっと見えるようなものまで、大小様々な類上皮細胞肉芽腫(るいじょうひさいぼうにくげしゅ)という「肉のかたまりのような」組織ができる病気です。

日本において、1年間に新たに発症するサルコイドーシス患者数は人口10万人あたり2~3人です。喘息の人口10万人あたり約3000人に比べるとずいぶんまれです。

サルコイドーシスは、肺、心臓、肝臓、腎臓、唾液腺、涙腺、皮膚、筋肉、骨、リンパ腺、眼、神経、など全身のあらゆる臓器に起こりうる病気です。しかし、全ての患者さんが全身の臓器に病変を持っているわけではありません。病気のおこる頻度の高い臓器は、肺および胸部のリンパ腺(80%)、眼(50%)、皮膚(20%)などです。どこに病気がでるかは患者さんによって異なり、ある人は肺だけ、ある人は眼と皮膚、ある人は肺とリンパ腺、ある人は神経だけ、・・・などといったぐあいです。

出典 http://www.ne.jp

最初は「喘息」と誤診されたリサさん。ところが病状の改善が見られないために再検査してわかったそう。このままではリサさんの肺は肺気腫を起こし、完全に機能を断ってしまうと宣告されました。

助かる方法は肺移植しかないということで、2013年以降ドナー待ちの登録をしていたリサさん。12歳と22歳の娘を持ち、5歳の孫もいるというリサさん自身もこれまで健康で問題なく生活して来たといいます。

ところが、サルコイドーシスを患って以来呼吸困難に陥りやすく、自力で立ち上がることさえままならなかったそう。ほとんど寝たきりという状態で12歳の次女の世話さえも満足にできなかったリサさん。今回ローナさんの肺を移植してもらうことで、また元気な生活をすることができるようになったのです。

「ローナさんは私の中で生きています」

Licensed by gettyimages ®

ジェーンさんとリサさんが初めて会った時、お互いに「初めて」という感じがしなかったというから不思議です。ローナさんの肺がリサさんの命を救ったという事実に感動を隠せないジェーンさん。リサさんの勧められるままに胸に手を添えたジェーンさんに自然と涙がこぼれました。

大切な娘が残したもの

Licensed by gettyimages ®

自身の命を救うことはできなかったけれど、臓器を与えることで何人もの命が救われました。リサさんもローナさんのように子供の母親という立場。子供たちのために元気になってまた自分の人生を家族と共に過ごすことができるという幸せを、ローナさんによって与えられたのです。

最愛の娘を失った悲しみは計り知れないけれど、ジェーンさんはローナさんが臓器提供者であったことを誇りに思っています。そしてローナさんの妹や弟もそんな姉を誇りに思っていることでしょう。

4歳と生まれたばかりの娘を残し、旅立ってしまったローナさん。二人の娘はこれから「ママのいない人生」を生きて行かなければいけません。でも、いつか自分のママが人としてとても大切なことをしたのだということを知る時が来るでしょう。その時、きっと二人の子供たちは母親を誇りに思うはず。

現在、イギリスでは2千万人のドナーが登録されているということですが、移植を待っている患者が1日3人のペースで亡くなっているという事実もあります。筆者もドナー登録をしている一人ですが、いつか自分の身体が誰かの命を救うことができればと思って登録しました。

自分の愛する家族だけでなく、誰かのためにできることはきっと小さなことからでもあるはずなのです。そしてその誰かが、あなたのおかげで人生をやり直すことができるとしたら、あなたはその人の人生を救っただけでなく、自分の心にも目には見えない宝物を積み上げていくことができるのはないでしょうか。

そしてその宝物は、子供たちや周りにシェアされることによってまた思いやりや優しさが連鎖されていくという嬉しさに繋がっていくのです。優しさを示すことは直接的でなくてもいいのです。ローナさんの思いやりは、間接的に、でも間違いなくリサさんや臓器移植を待っていた他の患者さんたちに届けられたのです。

母親のジェーンさんはリサさんとこれからも定期的に連絡を取りたいと話しているそう。そしてリサさんにとっても自分の命を救ってくれたかけがえのない人との繋がりができたことを嬉しく思っている様子。

今後、残されたローナさんの子供たちがママを誇りに思い元気で幸せに成長してくれることを願う筆者。と同時に、この記事があなたの優しさを誰かに伝えるきっかけになればいいなと思っています。

この記事を書いたユーザー

Mayo このユーザーの他の記事を見る

公式プラチナライター。イギリス在住22年目。いつも読んで下さる皆さんに感謝。Twitterアカウントは@mayonesque18です。よろしくお願いします。

得意ジャンル
  • 話題
  • 動物
  • 社会問題
  • 海外旅行
  • 育児
  • テレビ
  • 美容、健康
  • カルチャー
  • ファッション
  • コラム
  • 感動
  • おもしろ

権利侵害申告はこちら