日本では認められていない安楽死。筆者の住むイギリスでも現在はまだ合法化されていないために、認められているスイスへ「安楽死ツアー」として行き人生を終える人もいます。オランダでは2002年に安楽死が合法化されました。

去年だけでも5,500人を超える人がこの国で安楽死という方法で命を絶っています。ただ、もちろん誰にでも安楽死を認めるというのではなく、医師やカウンセラーとの相談の後どうしても意志が固いようならば認められるそう。

子供の頃の性的虐待に悩まされ続けて来た20歳の女性

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このほど、オランダ人の20歳の女性が「性的虐待によるトラウマにより精神疾患を患った」として、その治療の見込みがないことから安楽死を認められていたことがイギリスのメディアで明らかになりました。

拒食症、慢性うつ病、幻覚、PTSD、自傷行為…

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この女性は5歳から15歳の間に継続して受けた性的虐待が原因で、20代のほとんどは寝たきり状態になっていたそうです。深刻な拒食症に陥り、気分のムラが激しく慢性うつを抱え、トラウマにがんじがらめになってPTSD(心的外傷後ストレス障害)、幻覚、更には自傷行為を何度も繰り返しOCD(強迫性障害)にも陥っていたと言います。

過去に何度かカウンセリングを受けた時には、少し効果があったそうですが暫くするとまた様々な精神障害に悩まされるように。10年という長い月日の性的虐待は、この女性から生きる希望をすっかり奪ってしまったのです。

「治療の見込みなし」と診断され…

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これ以上希望を失くして「生きる」ということに耐えられなくなっていた女性に対し、医師も「治療しても良くなる可能性は低い」と判断。そして女性の希望通り安楽死を認め、この女性は去年、投薬により既に息を引き取っています。

この安楽死の認可は賛否両論を呼んでいる

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「性的虐待により安楽死を認めてしまうということは、性的虐待後に何らかの精神障害を患ってしまった人全てに死を選ぶ以外に道はないという指示をすることになる。被害者の立場でありながら性的虐待に最後まで虐げられて命を絶つという行為を認めることは道徳的におかしい」と一部で反対論が出ています。

結果的には自分の人生を自分で絶ったに他ならない

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この安楽死を遂げた女性の場合は、性的虐待という過酷な苦難の果ての結論でした。それでも自分自身の精神状態に追い詰められて人生を終えざるを得なくなってしまった時に、安楽死を選ぶのは結局のところ自殺となんの代わりもないのではないかという意見もありました。

安楽死反対派の中には「逃亡と同義の自殺である」という人もいます。「法律に人が左右されることなく、死は強要されるものではない」「一度安楽死を合法化してしまえば、他者により死を強要される恐れがある」という理論から反対している人も多数存在します。

安楽死とは、自発的、非自発的に限らず、意図的に死へと導くことを指します。
例えば、自殺。生きることに疲れ、死を選ぶときに、飛び込みや首を吊るといった方法ではなく、薬によって安らかに人生を終えること。これが安楽死に該当します。
他にも、助かる見込みがないほどの大きな病気を患った時に、肉体的苦痛を避けるため、薬によって楽に死ぬこと。これも安楽死です。
そして、自発的でなくても安楽死と呼べる事象は発生します。生まれてきた子どもに重度の障害があったりする場合、親によって死という選択肢が選ばれる。本人の意思とは関係なく、死を強要させられるわけですが、この場合も安楽死と呼ばれます。

出典 http://www.shokunin-times.com

確かにこの女性の選んだ死は「尊厳死」ではありません。でも誰が彼女の選択を責めることができるでしょうか。PTSDを背負って生きる辛さはきっと本人でないとわからないこと。精神的にも病み、生きた屍のような状態で何の希望も見いだせずベッドの上で人生を過ごす女性に「もっと強く生きろ」とは誰も言えないのではないでしょうか。

尊厳死と安楽死の違い

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数か月前に、イギリス男性が不治の病から「尊厳死」を選択し、合法化されているスイスへ旅立ち、家族が見守る中で死を迎えました。安楽死と尊厳死は全く違うものだと考えられています。

尊厳死と呼ばれるものは、基本1パターンです。
怪我や病に冒され、助かる見込みがないときもあると思います。特に末期のがんが見つかった時には、完治することは望めないことも多いでしょう。それどころか、意識が戻らずに寝たきりの状態になってしまうことも考えられます。
そんな時に、自らの決断で、延命措置や治療を行わずに死を選択する。これが尊厳死です。
尊厳死は本人による自発的なものであり、薬による積極的な死ではなく、延命措置の放棄という、消極的な死なのです。

出典 http://www.shokunin-times.com

死を選ぶ権利は誰にあるのか

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安楽死反対派の中には「死は神によってのみ決められるべきである」という宗教的な考え方を持つ人もいます。神から授かった命は神によってその時を定められるべきだ、と。安楽死を選ぶということは結局は名前を変えただけの自殺であり、自ら命を絶つという行為は道徳に反する行為だという人もいます。

結局のところ、尊厳死であれ安楽死であれ「死」を選ぶ権利は誰にあるのかということではないでしょうか。命が肉体に宿っているという思考ならば、あくまでもその命の権利は肉体の持ち主にあると考え、この女性のように安楽死を選ぶことに対して何の反対も起きないでしょう。

自ら死を選んで、過去の苦しみから解放されるのであればその死を批判する権利は誰にもないのです。それが例え弱い人間の最終決断であったとしても、心も体も死んだまま生き続けるのは残酷以外に他ならないのではないでしょうか。

反対や批判する人がいても、せめて最期は女性の望む通りに「希望」を叶えてあげたいと筆者も思います。これまで希望を感じることなく生きていた女性が、最後の最後になって死ぬという希望を持ったことがなんとも皮肉ではありますが、それがトラウマから解き放たれ自由になる道を選択した女性の人生なのです。

また、安楽死を選ばざるを得ないような状況に陥れたのは、この女性が10年に渡り受けて来た性的虐待という許されざる犯罪行為なのです。社会にはびこる性的虐待がどれだけ被害者に大きなダメージを与えるか、改めて考えさせられます。

イギリスや日本では、いつ安楽死が合法化されるのかは誰にもわかりません。でもいつか合法化された時に、それを選ぶ人が後悔のない選択をして欲しいと願う筆者です。

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公式プラチナライター。イギリス在住22年目。いつも読んで下さる皆さんに感謝。Twitterアカウントは@mayonesque18です。よろしくお願いします。

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