記事提供:カラパイア

“洗脳”という用語はエドワード・ハンターというイギリス人ジャーナリストによって考案されたもので、朝鮮戦争中に中国人が捕虜にしたアメリカ兵を“再教育”する方法を指すものだった。

この用語はやがて信者を服従させるために心理的手法を用いてきたカルト教団と結びつけられるようになった。心理学者マーガレット・シンガーによれば、洗脳を使用することで知られるカルト教団の信者はアメリカだけでも250万人もいるそうだ。

カルト教団のみならず、人を服従させるためにこれらの手法を使って洗脳していく国家や団体、企業、個人も数多く存在する。ここでは10の洗脳方法をその事例と共に見ていくことにしよう。

10. 歌や詠唱による洗脳

マントラの詠唱は多くの宗教で重要な行為である。

特に仏教やヒンドゥー教ではほぼすべての寺院で読経などの何らかの詠唱が行われている。信徒による詠唱から生み出されるハーモニーは強い一体感と仲間意識を芽生えさせる。また心拍数を低下させたり、リラックス効果があったりもする。

しかしカルト教団などで使用される抑揚に乏しいフレーズを繰り返す行為は、思考を鈍らせ、トランス状態を生み出すよう仕組まれたものだ。そうした状態では暗示にかかりやすくなる上、トランス状態を維持できないと罰が与えられることもある。

心理学者リンダ・ダブロウ=マーシャルとスティーブ・アイケルは、長期にわたって繰り返し催眠状態を誘発する環境に暴露すると、意思決定力や新しい情報を評価する力が損なわれることを明らかにした。

カルト教団による継続的な説教や歌、詠唱は意識を改変させてしまうという。こうした手法は瞑想本来の目的でなく、批判的思考を失わせることを意図したものだ。

9. 外部からの孤立

1977年、教祖ジム・ジョーンズと人民寺院の1,000人の信者は人里離れた南アメリカのガイアナに移住した。エドワード・クロマティが指摘しているように、こうした孤立は外部の世界で共有される価値観を捨てさせる効果がある。

こうしてジョーンズは自らの思想を信徒に植え付ける自由を手に入れた。疑問を抱く者には、薬物で昏睡状態にしたり、首にニシキヘビを巻きつけるといった行為が行われ、子供たちは夜になると井戸の中に入れられた。

地理的な孤立は精神的な孤立も生み出す。アメリカに残した友人や家族の影響はもはや届かず、従わぬ者には容赦のない罰が与えられた。この状態において、信徒は内心何を思っていたとしても、ジョーンズに黙って従うよりほかなかった。

こうした人民寺院における完全にコントロールされた状態は、北朝鮮や1991年以前のアルバニアとも比較される。

8. 依存と恐怖

1974年に発生した、シンバイオニーズ解放軍のパトリシア・ハースト誘拐事件は依存と恐怖による洗脳の典型的な事例だ。ハーストは大富豪のお嬢さんから銀行強盗に一気に身をやつし、テログループの献身的なメンバーになってしまった。

誘拐された彼女は戸棚に閉じ込められ、いつでも殺すと脅されながら暴力や性的暴行を受けてきた。こうしてシンバイオニーズ解放軍は彼女を完全にコントロールしてしまう。

これは「ストックホルム症候群」という有名な症例の典型例でもあり、数ヶ月後にハーストは理想的なほどに献身的なメンバーとして、サンフランシスコで銀行強盗を行った。

ハーストの逮捕後、検察側は彼女が洗脳されていたことを認めず、7年の懲役刑が下された。しかしカーター大統領は彼女が誘拐の被害者であり、ひどい体験をしていたことから刑期を2年に減刑する。

彼女が人よりも影響を受けやすい人物であった可能性もあるが、この事件はストレス下において人格など案外簡単に変わってしまうことの証明である。

7. 運動教育法

教師は生徒からいかにして行儀の良さと服従を引き出すのか?その答えは、運動やスポーツを取り入れた指導法にある。夢中になって走ったり跳んだりして疲れた子供たちは、口答えをしたり、問題を起こしたりすることが少なくなるのだ。

これを知っているカルト集団は、信徒をコントロールするために終わることのない運動を課すことがある。例えば、カルトの疑いがあるイルチブレインヨガは表面的には普通のエクササイズジムだ。

また旧ソ連時代にスタジアムで開催された健康体操のようなスポーツイベントは、抑圧的な集団を形成する方法として知られている。

単なるスポーツと運動教育法との違いは、運動後の高揚感と一体感が通常なら疑念を持つであろう思想の植え付けに利用されているかどうかにある。

運動による疲労は、妙な思想への猜疑心を飛ばしてしまう効果があるのだ。

6. 睡眠妨害と疲労

感覚への過負荷、方向感覚の喪失、睡眠妨害。これらが組み合わさると人は正常な判断ができなくなる。連鎖販売取引のアムウェイ社は長時間の会合で販売員を睡眠不足にしていると非難されている。

そこでは朝から晩まで続く販売指導が行われ、ごく短い休憩もバンドによる演奏が行われるため、大音響と照明でろくに休むこともできない。

睡眠妨害を利用したカルトの手法は、タンパク質や重要な栄養素が乏しい食事とも組み合わされる。結果として、信徒は常に疲労状態にあり、カルト思想に抵抗する気力がなくなってしまう。

オウム真理教の地下鉄サリン事件から20年後、ジャパンタイムズ紙は元信者にインタビューし、麻原彰晃の選挙活動を手伝いながら1日に1食しか与えられず、睡眠時間も1、2時間のみだったという証言を得ている。

5. 自己批判と指差し

朝鮮戦争で中国側に捕らえられたアメリカ兵は“批判と自己批判”セッションを受けさせられた。それは仲間を非難したり、自分のミスを語ったりさせながら、資本主義とアメリカに対する不信感を植え付けるためのものだ。

捕虜は最初子供じみたセッションだとバカにしているが、やがて批判をするうちに自分の愛国心や戦争の大義が本当に疑わしく思えてくる。

心理学者ロバート・チャルディーニはこうした不安感の増大を“コミットメントの法則”によって説明している。

これは人が気まぐれや不誠実であることを嫌うことから、自分の意見を公に口にしたことと一致させようとする傾向をいう。

部分的には成功していた朝鮮戦争におけるこの洗脳技法は、全体的にはそれほど効果的ではなかったようだ。

戦争終結時に帰国を拒んだ戦争捕虜はわずか23名のみで、中国側も終戦の1年前にはこのセッションをほとんど行わなくなっていた。

しかし、国内においては似たような技法がその後も利用されており、チベットのパンチェン・ラマは写真に写されているように1964年にこのセッションを受けている。

4. 愛の爆弾

カルト教団にとって、信者が教団の外の世界は危険で、誤りに満ちているという印象を抱いていれば何かと都合がいい。

そして内部に対してはそれと真逆の印象を与えるために、新しい信者には“愛の爆弾”で歓迎を演出する。

愛の爆弾は、新しく入信しそうな者や入信したばかりの信者に多大な注目と愛情表現を浴びせる行為のことだ。

最初にこの用語を使ったのはおそらく神の子供たちか統一教会だろうが、現在は数多くの団体で使用されている。

社会心理学において、人が他人の親切に対して報いようとする傾向については広く認められている。

したがってカルト教団が信者に示す嘘の愛や友情は、義務感、恩、罪悪感を植え付けることを意図したものだ。

マーガレット・シンガーはこれをカルト教団の主要な特徴だとしている。新しく勧誘される人が求めているものは、まさに仲間意識や承認であるため効果的だ。

エドガー・シャインによれば、カルト教団への入信は“解凍と再凍結”によって行われるという。解凍ステージでは、入信の見込みある者が自分の古い世界の見方を疑うと同時に、教団の思想への抵抗感は薄れ始める。

再凍結ステージでは、そうした新しい物の見方が強化される。愛の爆弾は解凍の重要な要素であるとシャインは指摘する。

新規入信者は教団の思想を受け入れることで、ハグやお世辞を浴びせられる一方、あまり疑念を挟みすぎると嫌われる。

3. スピリチュアル(神秘的)な操作

神秘的な操作とは、教祖が状況や情報を操作し、彼らが超自然的な知恵や魔法の力、あるいは神の意向に沿っているかのように印象付ける行為をいう。

つまり教祖は自らを神の代理人であるかのように演出し、その発言が常に正しく絶対であるかのように見せるのだ。

ブランチ・ダビディアンでデビッド・コレシュと対立していたジョージ・ロデンは、芝居がかったやり方で死体を掘り起こすと、これを生き返らせて力を証明すると宣言し、相手に対しても同じことをやってみろと挑発した。

しかしコレシュはあっさりと警察に通報する。警察がコレシュに証拠を見せるよう要求したため、コレシュ一派はロデンが遺体を保管していた施設に侵入を試み、結果銃撃戦が起きる。

コレシュは当時バーノン・ハウエルを名乗っていたが、後にダビデ王からとったデビッドに改名した。

また苗字はペルシャの王であり、バビロン捕囚にあったユダヤ人ら諸民族を解放したキュロス王に由来する。

自らを救世主として演出する彼は、神の御業と称して神秘的な操作を行った。

2. 訴訟教唆の乱用

多くのカルト教団では弁護士を仲間に引き入れ、教団の批判者を誰彼構わず告訴する。もちろん教団は経済的に余裕があり負けてもそれほど痛手を負わないが、反対に元信者は教団に全てを奪われ破産していることが多い。

そのため反対に訴訟を起こすことはできない。

こうした教団の手法のために、ジャーナリズムも及び腰だ。

2003年、リック・ロスはカルト的な活動で批判されていた自己啓発団体NXIVMのマニュアルの抜粋を入手した。

これをネット上で公開したところ、逆に訴えられる羽目になった。また元NXIVMメンバーの多くも訴訟を起こされている。

ある免訴された訴訟で訴えられたのは、ただ退会しようとしただけで“抑圧的”と決めつけられた元メンバーで、2つの大手弁護士事務所と1つ弁護士グループによるいつ終わるともしれない訴訟に巻き込まれることになった。

ちなみにこの抑圧的という表現は、退会しそうな者や敵対する者に対してNXIVMが使用する常套句である。

サイエントロジーもまた敵対する相手に訴訟を仕掛けることで有名だ。

L・ロン・ハバードは1967年に「サイエントロジーの批判者で犯罪歴のない者はいない」と記し、そうした本質的に罪を負っている批判者を黙らせるには訴訟を利用するべきだとの見解を示している。

こうした訴訟の目的は勝つことではなく、相手に嫌がらせをし、士気を砕くことである。テレビネットワークのHBOは2015年の『ゴーイング・クリア』放送に当たって、訴訟への対策として160人もの弁護士を前もって用意したほどだ。

1. 思考停止させるための決まり文句

ロバート・リフトンが考察したまた別の重要な概念は、服従を強いるために使われる“それ以上考えさせない決まり文句”である。

この決まり文句によって、人間の複雑で多岐にわたる問題がごく短い、わけ知り顔のフレーズに圧縮されてしまう。

リフトンが挙げる古典的な例は、中国やソ連などの共産政権が使ったもので、「抽象的、高度に分類的、容赦なく断定的」であることを特徴としている。

ソ連はこの類のフレーズを好んで利用しており、ジョージ・オーウェルの『1984』はそれをモチーフとしている。

作品では、抑圧的な政府が“新語法”という言語を作り、国家が定めたこと以外の内容を考える能力を抑制しようとしている。

最近ではサイエントロジーがソ連のような一連のフレーズを考案したといえるかもしれない。

こうした決まり文句の最も有名な例は、おそらくナチスのアドルフ・アイヒマンの裁判で使用されたものだろう。

その裁判記録である『イェルサレムのアイヒマン』で、著者ハンナ・アーレントはアイヒマンが陳腐なフレーズと決まり文句で話したと記している。

アイヒマンは「仇敵と和平」を望んだと繰り返していたようだが、自身が犯した罪の大きさをまるで理解しない彼の決まり文句に意味などないとアーレントは切り捨てている。

そうした言葉で説得できるのは、国家社会主義の言語を話す人間だけだ。戦時中、「8,000万人からなるドイツ社会は、完全に同じ手段、同じ自己欺瞞、嘘、愚かさによって現実と事実から遮られていた」とアーレントは結論している。

人間の脳に関する研究は様々なされているものの、まだまだ未解明な部分が多い。

人の脳は欺かれやすく、いとも簡単に記憶が改ざんされてしまうという事実がわかっていても、自分の意志ではどうにもならないほど、脳は自身をだますのである。

出典:Top 10 Brainwashing Techniques

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