「お前、もう年長さんなんだから、いい加減自分の布団で寝ろよ」



長男と一緒に寝るときは、いつも布団でじゃれ合いながらこんなことを言っていた。

幼稚園児にはまだ早い要求かなとも思いつつ、狭い布団に毎回入り込んで来られるのは、実際うっとおしい。

だから、冒頭の発言は半分冗談で、半分本気。


そんな長男が、4月から小学校に通い始めた。

とは言っても、年齢にしてみればまだ6歳。

部屋に置いたランドセルや勉強机を見ると、「おー、コイツもついに小学生か」なんて思うけど、今はまだ形をつくっただけ。

「早く中身も小学生らしくなってくれよ」

そう思っていた、ある日の夜。


いつもの休日と同じように、子供3人と布団に入った。

6歳の長男だってそうなのだから、もちろん4歳の長女も2歳の次女も、まだ1人で寝ることなんてできない。

パパの両サイドを奪い合って3人でケンカをし、最終的にはいつも両脇に長男と長女、股の間に次女が寝るという陣形に落ち着く。ものすごい不快感である。

その日は仕事が残っていたので、自分まで寝落ちしないように、その体勢のまま暗闇の中でポケットからスマホを取り出した。

その時、長男がふいにささやいた。


「おれ、自分の部屋で1人で寝る」

「え?」


予期せぬ言葉に、胸がキュンと締め付けられたような気持ちになった。

同じ部屋で別々の布団に寝たことすらほとんどないのに、いきなり自分の部屋で寝る?

いきなりどうした?


「パパが1人で寝ろって言ったから?あっちの部屋は暗いからコワイよ」

「ううん、大丈夫。1人で寝る」


引き止めても一向に引き下がらなかった長男は、結局布団を自分の部屋に移動し、一度もこちらに戻ってくることもなく夜を明かした。


子供の成長は、思ったより突然やってきた。

味わったことのない寂しさも、突然やってきた。


子供らしい素直さを持ち合わせている長男は、褒めたら俄然やる気になる。

いつもそんな長男を見ていて、頑張った時は全力で褒めてあげようと決めていた。

決めていたというより、こちらも嬉しくなって自然と褒めていた、という方が正しいか。


「お前、もう1人で寝られるようになったのか。さすが小学生、すごいじゃん!」


そう褒めたら、嬉しくなってコイツはまたきっと1人で寝るんだろう。

そんなことを思うと、今回ばかりはどうしても長男を褒める気になれなかった。

嬉しさと寂しさと少しの罪悪感が入り交じったような、複雑な気持ち。そして同時に、焦りにも似た感覚を覚えた。


もう二度と、取り戻せない時間がある。

これからの未来を想像して、子供たちとのかけがえのない“今”を大切にしようと心に決めた。

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