2015年10月の末、スーラさん一家はイスラム国に占拠されたイラクの町から逃げる事を決心しました。夫は7年前に癌で亡くなっており、女手一つで5人の子供を連れての亡命。

それだけでも、どれだけ大変な事かと思いますが、スーラさんは愛猫のクンクシュ(KUNKUSH)も一緒に連れていく事を決めていました。

なぜなら、クンクシュはスーラさんにとっても、そして5人の子供達にとっても、大切な家族だったからです。クンクシュだけを置いて自分たちだけが亡命するなんて、考えられませんでした。

難民ボートに乗るためには、多額なお金が必要になります。そのため、ペットを連れて難民ボートに乗る人はほとんどいないといいます。

しかしスーラさんは、クンクシュのためにもそれを工面して支払い、一緒にボートに乗ったのです。

一週間かけ、ようやくスーラさん一家は中間地点であるレスボス島にたどり着きました。これで助かる!そう思った時でした。クンククシュがボートを飛び出し、逃げ出してしまったのです。

見知らぬ人に囲まれた狭いボートの中での1週間。穏やかな波の日ばかりではありません。いつもと極端に違う環境の中、おそらくクンクシュはパニック状態だったのでしょう。ボートから上陸する時は、こんな状態なのですから。

スーラさん一家は、必死でクンククシュを探しました。ボランティアの人にも協力してもらいましたが、3時間探してもクンククシュを見つける事はできませんでした。

しかし、欧州では、難民が増えすぎてを受け入れ切れない為に、国境の封鎖や強制送還が行われ始めていました。一刻を争う状況の中、スーラさんはクンクシュを探すのを諦め島を出なければなりませんでした。

子供達は、クンクシュを置いて行かなければならないと知り、泣き叫び反対しましたが、どうする事もできませんでした。そしてこう思いながらレスボス島を後にしました。

『もう2度とクンクシュには会えないだろう…』

2015年11月7日、難民支援のボランティアをしていたエイミー・シュローズ(Amy Shrodes)さんは、難民キャンプの近くにあるカフェで1匹の白い猫を見つけました。他の猫達からいじめられ、餌にもありつけず、弱った様子だったといいます。

その白い猫こそが、スーラさん一家の愛猫・クンクシュだったのです。

エイミーさんは、ボランティア仲間からクンクシュの話を聞いていたので、この白い猫を見てピンときました。「この猫は間違いなく、その家族の探している猫に違いないと思ったんです」

しかしその時にはすでに、スーラさん一家がレスボス島を発って1週間が過ぎていました。エイミーさんは、クンクシュの世話をしながら、飼い主を探そうと決心します。

しかし、その月だけでもレスボス島へたどり着いた難民の数は10万人を超えていました。もちろん、一人一人の消息などわかるわけもありません。そんな中、飼い主を探すなんて事は、ほぼ不可能であると誰もが考えました。

ほんのわずかでも希望があるなら・・・

しかしエイミーさんは、希望を捨てませんでした。ほんのわずかな可能性があるのなら、信じてみよう、飼い主とこの猫を再会させてあげよう!その希望こそが、難民の人達にとっても明るい希望となるはずだ、そう考えたのです。

そしてその日がくるまでは、この猫は自分で世話する事にしました。そして、この猫にディアス(Dias)と名前をつけます。

不可能な事にお金と時間をかけてもったいない!

エイミーさんのこの行動に、周りの人達は否定的でした。同じボランティア仲間からも「助けの必要な人間がたくさんいるのに、猫1匹の為に何をしているんだ」「通信手段も現地に友人もいない難民をどうやって探すつもりだ?時間の無駄だ」「不可能な事に費やす時間もお金ももったいない」などの多くの批判を受ける事になったのです。

しかしそんな中、同じボランティアのアシュレイ・アンダーソン(Ashley Anderson)
さんが協力を申し出てくれます。

難民の人達には明るい話題が必要だというエイミーさんの思いに共感したのです。そしてディアスの飼い主を探すポスターを作りました。

世界中の優しい気持ちが奇跡を起こす

そして世界中のメディアに、この話を広めてくれる様にと依頼の連絡をしました。するとその活動を耳にした親切な人が、Facebookにディアスの捜索ページを作ってくれたのです。

そして、捜索記事を翻訳して公開してくれる人も現れます。ディアスの飼い主探しの記事は、多くの優しい人々によって7つの国の言語に翻訳され、世界中に拡散されてゆきました。

すると、そのページを見た多くの人達から捜索費用などにと寄付が寄せられ、なんと総額1500ドルにも!

ディアスは去勢手術を施し、マイクロチップを装着し、動物用のパスポートも用意してもらい、難民受け入れの多いドイツ・ベルリンの里親さんの元で家族を探すことになりました。

そしてディアスことクンクシュがスーラさん一家とはぐれてから3ケ月半後の2016年2月14日、不可能だと思われていた奇跡が起きたのです。

親切な人がアラビア語に翻訳してくれた捜索記事を、偶然イラクに住んでいるスーラさんの知人が発見、スーラさんに連絡したのです。

絶対に不可能だと言われていた再会が現実に

すぐにスーラさんはFacebookを通じて「うちの猫かもしれない」と連絡。Skype上で顔を合わせて、クンクシュだと確認しました。

そして、飼い主が見つかったという報告が、喜びが抑えきれないスーラさんの表情が印象的なスクリーンショットと共にFacebookに公開されました。

クンクシュは、PCから聞こえてくる懐かしい声に、何度もPCの中を覗きにきたといいます。

そして2月18日、クンクシュはスーラさん一家の住むノルウェーに向けて出発。翌19日に再会を果たします。

出典 http://www.theguardian.com

4ケ月近くになる久しぶりの再会に、喜びいっぱいの笑顔を見せるスーラさん。

出典 http://www.theguardian.com

子供達も本当に嬉しそうに、今か今かとクンクシュの到着を待ちわびています。

出典 http://www.theguardian.com

大好きなクンクシュにまた会える!この笑顔を見ているだけで、なんだか幸せな気持ちになっちゃいますね。

4ケ月ぶりの再会!そして・・・

そしてこの幸せそうな穏やかな笑顔は、クンクシュを入れたキャリバックを見た瞬間に大きく崩れました。

目の前に、クンクシュがいる!もう2度と会う事がないだろうと思っていたクンクシュ。あの日、探してあげる事ができなかったクンクシュ。

様々な思いがこみ上げてきて、止める事ができません。腕の中に今、あの大切なクンクシュの温もりをしっかりと感じる事ができる、その溢れる思いに私たちも心揺さぶられます。

「難民達のなかには、家族や仲間とバラバラになってしまった人や、故郷を離れるしかなかった、もう戻る事のできない人が多くいます。

そんな人達にとって、この再会から勇気や希望を得る事ができたら…と思ったのです」とエイミーさん。

ペットはかけがえのない家族、そう考える人は世界中にたくさんいます。ペットと暮らしていない人の中には、その考えは理解できないという方も少なくないでしょう。

けれど、このスーラさん一家の表情を見ると、その小さな命の存在がどれほど大きなものなのかがしみじみと伝わってきます。

スーラさん一家の他にも、大事なペットと共に難民ボートに乗ってきた人達は存在します。

出典 https://twitter.com

子猫と一緒に避難してきたシリア難民の男性(2015年9月)危険なボートに一緒に乗ってくるという決断をする事、そこから彼らにとってペット達がどれだけ大事な存在なのかを実感させられます。

日本でも、多くの災害でペットと離れ離れになってしまった人、故郷を離れペットを残してくるしかなかった人など、スーラさん一家と同じ辛い気持ちを味わっっている人がたくさんいます。

数多くの問題はありますが、離れてしまったペット達が家族と再会できる事を祈ると共に、動物と暮らす筆者としては、彼らと家族が離れ離れにならずにすむ様な対策が少しづつでも前進してゆく事を願ってやみません。

スーラさん一家とクンュクシュの再会の動画はこちら

出典 YouTube

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