記事提供:しらべぇ

NGO団体『ヒューマンライツ・ナウ(HRN)』が「アダルトビデオ(AV)撮影の強要と女性に対する人権侵害」として提出した報告書が、議論を呼んでいる。

現役のAV女優から多くの反論が上がったほか、元AV女優で作家、しらべぇコラムニストでもある川奈まり子氏は当初から反論とともにAV業界への提言も発信している。

「AV女優強制出演」問題に元・人気女優の川奈まり子が提言

5月4日には、「業界で働く人々はHRNヒューマンライツ・ナウのAV被害調査報告書をどう読んだか公開検証ミーティング」と銘打ったシンポジウムも開催された。

このイベント後に発信された川奈氏による85本に及ぶツイートをご本人からの申し出により再構成してご紹介する。

■「AV出演」は違法な「売春」ではない

PAPS(ポルノ被害と性暴力を考える会)は公式見解として「AV出演は売買春の一形態」と述べています。

売春防止法では、「第二条 この法律で「売春」とは、対償を受け、又は受ける約束で、不特定の相手方と性交することをいう」「第三条 何人も、売春をし、又はその相手方となってはならない」とされています。

AV出演は、性行為の相手からではなく、AVメーカーから金銭を貰うのであり、しかも男女両者に支払われるので、売春には該当しません。

AVメーカーも、性行為の当事者(出演者)から金銭を受け取るのではなく、映像を売って利益を得るので、売春防止法に該当する業者ではありません。

さらに、AV出演には性行為を伴わないケースも多く存在しますから売買春の解釈以前に事実誤認があります。

通行人役など群衆の役を演じるエキストラにも出演料は支払われ、彼らも皆「AV出演」者。また、「疑似」といってあたかも性交しているかのごとく演技する場合も多いのです。

感覚的・心情的な解釈は措いて、AV女優・男優はエキストラと同じく出演業に従事する者で間違いありません。職業欄=出演業で、堂々と確定申告できます。実際多くのAV専業出演者がそうしています(かつては私も)。

■「AV出演」=職安法の「公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務」?

またHRNは、AV出演について、職業安定法上で「公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務」と定められているかのように主張しています。

しかし、民法のどこかでAVが名指しされているわけではなく、

わずかに、職安法63条二項に「公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で、職業紹介、労働者の募集若しくは労働者の供給を行った者又はこれらに従事した者」が課罰対象になると書かれているだけです。

問題があるAVは存在し、出演強要被害を否定するものではありませんが、倫理審査を通過した合法的なAVが大半であり、良心的な業者が多いのも事実です。

なんといっても、HRNの主張の論拠となっているのは被害者を生んだとくに悪質な案件のみなので、それらを判じた裁判官が公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務と判決を下すのは当然のこと。

AV出演を一律に公衆道徳上有害と決めつけることはできないはずです。係争問題化した場合には「有害危険」と判じられるけれど、平時であれば、合法なAV出演については、やはり解釈次第だとしか言いようがないのです。

本来は解釈による、ましてや法律家に裁かれるような問題を起こしてもいないAVまでも一括りにして、「AV出演は公衆道徳上有害な業務」と喧伝する目的は何でしょうか。

AVをことさらに貶めるためのレトリックだと捉えるのは穿ちすぎかもしれませんが、恣意的な決めつけであることだけは指摘したいと思います。

■法に則らずに「AV=違法」は逆効果

伝統的な倫理観や文化的な価値観による見方は個人の自由。しかし「法律がないのに該当しない法律を類推するような方法は罪刑法定主義という憲法原則に反しています。まともな人間か否かの問題ではありません」という弁護士さんもいるわけです。

HRNの伊藤和子弁護士はAV出演は合法であるという個人的見解を述べていらっしゃいます。法律家でいらっしゃるがゆえでしょうか。違法な売買春だとするPAPSとHRNは別の団体であり、その点では意見は一致していないとのこと。

本来であれば解釈によるはずのところを全てを一律に公衆道徳上有害と決めつけたり、ましてや違法な売春行為と貶めることはAVに出演する女性の救済にはつながらず、

かえって出演事実の秘匿を誘発することで立場を弱くさせ、脅迫的な出演強要に結びつきかねず、逆効果だと思います。

■AV女優は「個人事業主」で「業務委託」

私自身がそうだったように、フリーではないAV女優の多くはプロダクションと業務委託契約を交わしている個人事業主です。

マネジメント業務をプロダクションに委託し、AVメーカーや出版社などへの営業や諸連絡を代行してもらう代わりに営業費用+αを出演料から天引きしてもらうわけです。

問題は、AV女優の大半が「私は●●事務所の所属女優」という自覚のみで「独立した個人事業主である」という自覚がないこと。自覚があればギャラの支払われ方や処遇に不満があったときに然るべき対処が取れます。

まず、契約自体は業務委託の形でも、実態が雇用契約であれば偽装契約とみなされて、雇用契約と同じ義務をプロダクションは負うことになります。

契約の形態がよくわからないというAV女優は、即刻、所属事務所に確認を取ること。雇用契約であれば労働者としての権利を主張できます。

AV女優に多い業務委託契約であれば、

①仕事の依頼、業務従事の指示に対する諾否の自由。
②業務の遂行方法は女優次第(プロダクションに指揮命令権はない)。
③契約している仕事(AV等出演や撮影会等)以外はしなくてよい。
④非合理的に時間を拘束される必要はない。

出典しらべぇ

また、業務委託契約であれば、報酬についても計算単価は委託する業務内容や成果物に対して設定することになり、AV女優自身からプロダクションに意見を述べ、交渉することができます。

時間給や日給等、時間を元に報酬を算出することは業務委託契約においては禁じられていることもお忘れなく。

■業務委託であるゆえの課題も

AVのプロダクションは契約の形と運用実態が乖離しないように気をつける必要があります。

業務委託契約をとっているAVプロダクションは所属女優の雇用主ではなく、指揮命令権を持っていません。AV女優は所属事務所に対し帰属意識を持つ必要はなく、委託条件によっては仕事を断るべきです。

プロダクションと業務委託契約を交わしているAV女優は、健康保険や厚生年金、雇用保険などの保険料を自分で支払う必要があり、そこは雇用されていないデメリットですが、その分、誰からも何も命令されない自己決定権を有することにもなります。

業務委託契約をプロダクションと結ぶAV女優が被るデメリットは他にもあります。労働基準法を始めとする労働関係法令が適用されないため、有給休暇はなく、解雇は予告されず、健康診断は自ら受けねばならず、最低賃金も保証されません。

つまり労働法で護られない。

業務委託を交わしているAV女優とフリーランスのそれとの違いは、実はあまり多くないということにお気づきですか?

マネジメントを委託している所属事務所以外の窓口から仕事を受けないなどの決まりに縛られている以外は、多くの場合、似たようなものです。

AV女優の労働者としての権利を労働法によって護ることが困難な理由は個人事業主あるいはフリーランスなので、被雇用者ではなく、労働基準法を始めとする労働関係法令が適用されないから。

この問題を考えるとき私が思い浮かべるのは、実態が雇用契約であるにもかかわらず業務委託契約としている偽装契約。AVプロダクションとAV女優の関係において少なくなさそうな気がします。

そう思う理由は、AV女優が所属事務所に帰属意識を強く持ち、主体性に欠けることが、まま見られるから。

プロダクションを介さず、AVメーカーがAV女優を募集することもあります。形式的にはメーカーの直雇いということになりますが、その場合も、AV女優は契約内容をしっかり把握しておく必要があります。

私の予想では業務委託になる場合が多いでしょう。売れなくなれば一方的に解約されます。

しかしながら解約されたAV女優は別のところと再び業務委託契約を交わすかフリーになればよいわけです。

これが雇用契約だと人気が落ちても使い捨てられない代わりに、指揮に従わなければならなくなり、出演内容が性的なものである場合、雇用主被雇用者ともに非常に危なっかしい立場になってしまいます。

■AV女優を労働法制で守ることは困難

ことほどさようにAV女優を労働者として労働基準法など、労働関係法令の適用のもとで保護することは難しいのです。

雇用関係を取らせると、AV女優自身の自由裁量権が毀損されて、出演内容を自ら選び出演を諾否することができづらくなります。労働関係法令下で護るなら、たぶん性的表現の規制が必要になってくるでしょう。

前述しましたが、職業安定法第63条の第二条「公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で、職業紹介、労働者の募集若しくは労働者の供給を行った者又はこれらに従事した者」にAVプロダクションが相当した判例が少なからずあります。

AV女優側からプロダクションを提訴した場合では、AV出演は公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務と判決されるのが常なのです。

だからプロダクションは雇用契約を避ける。すると労働法でAV女優が護られない――。AVを規制したい人々の立場で「ではどうするか?」と考えてみると、出演内容における性表現や行為を規制して公衆衛生又は道徳上無害にするしかないことになります。

どこまでなら無害なのかを考えるとき、参考になりそうなのは先日の検証会にお越しになられたPAPSの方の個人的見解、「挿入を伴わず現行のピンク映画程度であればよい」というご意見ですが…各方面から異論が噴出しそうな気がします。

公衆にとって有害か無害かは人によって解釈が異なり、社会背景によって変化もしますから。

■AV女優=被雇用者になると深刻な弊害も

AV出演を「職業安定法及び労働者派遣法の公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務である」とどこの狭量な裁判官でも思わない程度にソフトな内容に改め、

AV女優をプロダクションの被雇用者にして労働者として労働保護法で護った場合にも、深刻な問題は起こりうると思われます。

ひとつはAV女優のブラック・バイト化。また、雇用主による各種ハラスメントに遭いやすくなり、拘束時間は長くなり、福利厚生などが付く代わり手取りの報酬は下がり、ワープア化する可能性が考えられます。

もうひとつは刺激的なエロチシズム表現が合法AVではなし得なくなることで非合法なワイセツ動画の需要が増大し、需要が供給を生んで、プロダクションが犯罪組織化すること。

そこで働く女性は、現在の合法AVの女優よりさらに暴力や詐欺などの犯罪に晒されやすくなるのでは。

HRNサイド、たとえば伊藤和子弁護士は、AV業界側からの自浄努力が足りないと指摘されています。

もっともなご意見で、即座に従うべきだと私も思いますが、ここまで述べてきたようなジレンマがあるため、AV業界側ができることは限定的だということはご理解願いたく思います。

■メーカーとプロダクションの間には断絶が

また、ひとくちにAV業界と言っても、実際にはAV制作・製作業界とAVプロダクション業界とふたつの世界に分けたほうが適切なぐらい断絶していて、互いの業務に関与することは困難だという実状もあります。

たとえば、私や夫(AV監督の溜池ゴロー氏)は制作・製作サイドの人間なので、プロダクションには疎い。

メーカーや制作会社の側からしてみれば、プロダクションがAV女優に損害賠償請求をしようが出演料の不払いで逆に訴えられようが知る由もなく、ただ風の噂で聞こえてくる程度です。それほど断絶は深い。

反対に、プロダクションはAV製作・制作サイドに意見できない部分があります。「売れなくなればもう撮ってくれないなんて酷い。うちの女優を使い捨てにしないで」と抗議しても無理。

他のメーカーに営業をかける以外にない。作品の内容に意見することも困難でしょう。

各メーカーや各プロダクションは現時点では横のつながりもありません。

したがって「AV業界は自浄努力せよ」と迫られても業界が一丸となって動くことはできず、個々に「ちゃんとしよう」と思うのが関の山です(AV業界の皆さんはせめて「ちゃんとしよう」としてください!)。

HRNのAVに関する報告書が問題にしているのは、AV出演者が被る被害のみです。

私は出演強要被害に遭ったことがなく、また同じく被害に遭っていないAV女優を少なからず知っていますので、我々の経験から「出演強要や暴力被害に遭わない対策」を導き出せると考えました。

■AV出演者は主体的になるべき

ひとつには、AV女優自身が、私が述べてきたようにプロダクションとの業務委託契約の内容確認をしっかりと行い、プロダクションと対等な立場の個人事業主であると強く自覚して、主体的になることです。

本来、貴女は誰にも縛られていないし、仕事を拒否・選択する権利があります。

もうひとつ、プロデューサーや企画者、監督などのAV制作者が、違法性が疑われる強要行為を撮影現場で行うことは論外で、事前に出演内容を出演者に告知する義務もあるのだ、とAV女優自身も知っておく必要があります。

出演内容を確認し、出演合意書にサインして、出演するように。

AV制作のスタンダードな常識を、出演者自身が知らなかった場合、より高確率で悲劇が起こりやすいような気がします。

NG事項は確認したか、出演合意書にサインしたか、事前に出演内容を知らされているか。予告されなかった内容は撮影現場で拒否できます。そして誰も貴女に無理強いできない。

いわゆる顔バレ・親バレなどを恐れているAV出演者が未だに存在することも問題。

言い方は悪いですが、プロダクションやAV制作・製作に秘密を握られているも同様で、脅迫的な言辞によって何らかの強要が行われやすくなってしまいます。このIT時代に顔バレしないわけがないのに…。

秘密厳守ぐらいならともかく「顔バレ・親バレは絶対にしない」などといった甘言を弄するスカウト・マネージャー・プロダクションは信用してはいけません。

顔認識アプリがあるくらいです。いつか絶対にバレます。カミングアウトすれば脅されることも遠慮する必要もない。隠し事はないほうがラク。

■AV出演費はブラックボックス

強要被害の話からは脱線してしまいますが、プロダクションに所属するAV女優が、AVメーカーがプロダクションに支払う出演料を知ることができないのは大問題だと思います。

AVの出演料にはメーカーが支払う第一次の出演料と、プロダクションが所属女優に支払う第二次の出演料が存在します。フリーランスのAV女優であれば、第一次の出演料を直接メーカー或いは制作会社から受け取ることができます。

プロダクションと業務委託契約を交わしているAV女優は、メーカーからプロダクションに支払われた第一次の出演料の額面ですら、通常は知らされていないことが多い。これはおかしい。

第一次の出演料を知らされないまま、プロダクションから第二次の出演料を受け取るわけです。プロダクションは営業等の委託された業務の対価を第一次の出演料から引く。

差額が第二次の出演料なのですが、このとき、第一次の出演料を女優が知らないことを幸い、異常なピンハネをする場合がある。

最近聞いたとある単体女優さんのケースでは、メーカーは彼女の人気や能力を評価して1本あたり150万円の出演料を条件に所属プロダクションと月1本出演の専属契約を交わしたのですが、彼女は月々10万円しか貰えなかったという…。

幸いその後、良い事務所に移籍したそうですが。

■女優は契約を主体的に結ぼう

AV女優が個人事業主であるという点がAV業界内で過小評価あるいは無視されて、周囲の意思でどうとでもなるプロダクションの持ち駒として見られているのではないかと感じるときがあります。

メーカーとプロダクションが第一次の出演料を決める場所にAV女優自身が立ち会わないことも、そう思う理由のひとつ。

AVプロダクションの取り分は、通例、所属前に告知あるいはAV女優との交渉によって取り決められることになっています。

折半する場合が多いようです。折半であれば、メーカーが支払った出演料が100万円なら、AV女優は50万円を入手できることになります。

業務委託契約は、内容を改めて結び直すことが可能です。私はその経験があります。AV以外の出演や執筆の依頼が増えたので、AVやピンク映画を除く仕事はプロダクションを介さないことに契約内容を変えて、フリーランスで動ける範囲を広げました。

自分のペースで働けるようにするために。

AVメーカーはプロダクションとの長年の付き合いがあり、質の高い(出演作がよく売れる)女優を供給してもらっている立場の弱さから、プロダクションに対して遠慮があり、第一次の出演料を取り決める席にAV女優も寄越せとは言えません。

お陰で悪質なプロダクションは所属女優を搾取し放題です。

すべてのAV出演者は第一次の出演料を知る権利があります。他所のプロダクションに所属するAV女優や製作・制作サイドの人間と「出演料の話をするな」「親しくなるな」と命じる権利は、誰にもありません。

プロダクションが支払う出演料に納得がいかなかったら、我慢せず、移籍したほうがいい。

私自身は現役のAV女優時代、メーカーが払う出演料を知っていました。

デビュー間もない頃から溜池ゴロー監督と同棲して、所属事務所公認の仲だったため、隠してもどうせバレるから教えてくれた…わけではなく、他のAV女優でも訊けば教えてもらえました。良いプロダクションと巡り合えて幸運だったと思います。

■メーカーにあってプロダクションにない「自主規制」

AVメーカーには自主規制の装置として、現在の合法AVのほとんどを網羅する一般社団法人コンテンツ審査センターがあり、表現内容を規制しています。オモテのAVは、一見過激に見える内容でも、一定のルールを守って審査を通過してきた作品なわけです。

しかしAVプロダクションには、業務内容に一律のルールを定める自主規制団体は存在しません。

第一次の出演料の最大何割までを取り分とできるかを一律で定めて、所属するAV女優から出演同意を得る前にメーカーの支払う出演料を告知することを義務化すれば、ギャラに関するトラブルは減りますよね。

もっとも、出演料を巡る不幸については、AV出演者がフリーランスになってしまえばほぼ回避できるのですが。

ただ、効率よく多くの仕事を得たり、大手メーカーから多額の出演料を得られるよう交渉したりしようと思えば、やはり、プロダクションに所属したほうがいいということになります。

■AV女優への不当賃金や偽装雇用の解消を

AV出演強要だけではなく、賃金の不当な不払いや雇用と見せかけた偽装契約による被害もなくしたいし防ぎたい、と私は考えています。潜在的な被害者も救済する必要がありますが、私独りでできることは限られています。

できることと言えば情報の発信とAV出演者・出演希望者を啓発することぐらいです。

なぜか「私が業界はクリーンだと主張していることになっている」ことに、憤りを覚えます。

一度もそんなことを言った覚えはないのに。私自身は無事でしたし、実際にはAV出演者が出演強要被害に遭遇する確率は低いと述べたに過ぎません。しかし、当然、どれだけ少なくても被害は防がねばなりません。

■AV女優や業界を「貶める論調」が大問題

AV業界で女性が強要被害に遭うことを防ぐためにも、HRNのあの報告書にある、「AV出演およびAV業界を貶める論調」を訂正していただくことを希望します。

AV女優自身の萎縮や後ろめたさが大きくなれば、出演事実を秘匿し、結果的に所属プロダクションに依存して言うなりになる危険性が増します。

職業差別がAV出演の事実をAV女優が秘匿する原因になり、それが所属プロダクションや制作者に対する弱みや、場合によっては脅迫材料になるのです。

倫理や道徳を重んじる人々の正義が、皮肉にもかえって不幸を招いてしまう。警察や弁護士までもが、この清潔な正義の虜だった場合は悲惨です。

AV出演者、ことに業務委託契約によってプロダクションに所属しているAV女優は、出演事実を公表することは自分自身のためなのだと理解しましょう。事実を晒せば晒すほど、強請られる心配がなくなり、AV業界での立場が強くなります。

本来、公表することが無理なら、AVに出演してはいけないのです。

AV女優は、色々な契約書やNG事項確認書などを精読するよう心掛けて、同意しない出演は決してせず、合意していない撮影内容は断って、撮影中でも退出しましょう。

それらは当然の権利です。所属事務所と貴女は対等の立場で、制作・製作者にとっては貴女は金の生る木。尊重されて当たり前。

かの有名なバッキー事件は私が引退した2004年に起きましたが、当時、別世界の出来事のような気がしたものです。もちろん不可抗力もあると思います。

しかし、私がAV女優時代に色々な被害に遭わなかった理由はこのようなことを心得ていたからだとも思うのです。

世間でどんなに差別され馬鹿にされていても、誇り高く生きることはできます。

AVに出演する女性は、どうか違法だのグレーだの売春だのと差別する人々の正義に照らして自らを卑下しないでください。法的な解釈の余地があることを忘れず、出演事実を秘匿しないように努めましょう。

■「売春だ」と蔑みながら救済はできない

「良いAV女優は死んだAV女優だけ」と思っているかのような、出演を思いとどまらせようとする一方でAV女優の悲惨な末路を喧伝する人々がいます。

彼らは私たちの口を塞ぎたがります。健康で、自己認識としては幸せな生活を送っているAV女優や元AV女優が存在することに我慢がならないから。

このような人々は、AV業界で被害に遭った女性を真に救いたいのでしょうか。有害だの売春だのと蔑みながら救済できるのでしょうか。彼らに救われたはずの元AV女優が過去を苦にして自殺しないか心配です。

自分の中で出演事実に納得できなくなった場合、精神的に追い詰められませんか?

世間からはある程度、蔑まれている偏見と差別の対象であることをわきまえながらも、自分自身では納得づくで、覚悟を決めてAVに出演していれば、AVで体験したことは引退後の人生を支える知恵に成り得ると思います。

AV出演者にとって、良いことばかり言うスカウトやプロダクションは信用なりませんが、同じぐらい「善いことばかり言いAV全般を蔑む」人々も信ずるに値しないかもしれません。

引退後、後悔の日々を送るような精神状態に追い込まれないように、AV出演者は注意する必要があります。

過去を封印すれば人として弱くなり、秘密は絶えず心を蝕むでしょう。事実を秘匿すれば立場を弱くし、秘密を共有する者たちの搾取の対象になりかねません。――AV出演に限った話ではありませんよね。

恥じ入れば隠したくなるのは人情です。すでにしてしまったことについて、ことさらに恥を抱かせる人々を遠ざけましょう。

すでにしてしまったことや現在の職業を軽蔑の対象にしている人々は、あなたを永遠に恥じ入らせ、萎縮させ、病ませかねない。――AV女優に限らず、気をつけないと。

■メーカー、プロダクション、AV女優への提言

合法的なAVメーカーや制作会社、監督は「売れる企画のためには手段を選ばない」というスタンスを取っている場合、早急に方向転換すべきです。HRNの国連報告書が現れるには現れるなりの理由があったわけですから。

AV出演者の人権に留意しつつ制作に臨まなければ(当然のことです)。

一般社団法人コンテンツ審査センターは、AVメーカーおよび制作者と、それ以外のワイセツ図画制作・販売業者の線引きを、できるだけ早く完成させて発表すべきだと考えます。

HRNが、両者を混同して全て「AV」と呼んでいるからです。合法AVの輪郭線を明確する必要があると思います。

プロダクションは、不法な出演料の搾取は即刻止めるべきです。

悪質なプロダクションはAV女優同士で出演料や契約内容について情報交換することを所属女優に禁止していますが、業務委託契約ではAV女優に対する指揮命令権はありません。実態が雇用契約なら偽装契約ということになります。

最後に、AVに出演する女性へ。引退後の人生のほうが長くなる可能性が高いということを忘れないように。

AVで主役になることよりも、自分の人生の主役で在りつづけることのほうがはるかに大切です。主体性と情報が生きる手助けになるはずです。無知は敵だと心得て、独りで抱え込まないで。

強要に限らず何らかの被害に遭うAV出演者が1人もいなくなる日が来ますように。

AV女優に「悲惨に死ね」と願う人々や、AV女優が自己決定権を持たない搾取の犠牲者だと見做す人々が減り、AV出演を継続する者や経験者の人権に関心を持つ人々が現れますように。

私は自分自身の幸運を噛みしめつつ、また、AV監督歴が長くメーカーの社外取締役やレーベル代表を務める夫の正しさに感謝もしながら、ある種の人々にとっては「不都合な真実の体現者」のように見えることを自覚しています。

悲惨に死んでいなくてごめんなさい。

しかし被害者をなくしたいという気持ちは、誰よりも強いのです。

AV女優を一犠牲者に貶めることなく、救いたい。私自身が自己の身の振り方を自ら決定しながら生きてきたからこその強い願いです。価値観が異なる人々とも、この願いそのものは共有できるのではないでしょうか。

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