「無痛分娩」とは?

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出産を経験したことがある方はご存知かと思いますが、「無痛分娩」は麻酔薬により陣痛の痛みを和らげ出産する方法です。欧米では無痛分娩で出産する割合は8割と言われています。筆者はイギリスで出産しましたが、事情があり最終的に無痛分娩で出産しました。

日本では、欧米と比べて無痛分娩の割合は低いといわれています。元々お欧米では無痛分娩に関しては150年もの歴史があり、その歴史が長い分やはり普及率も一般的。

ところが日本では「お産は痛みを伴ってこそ」という昔ながらの風習が今でも根強く残っているために、無痛分娩の割合は3%ほど。やはり無痛分娩に対する歴史が日本では浅いために、普及率が低いのかというと実はそうでもないのです。

日本では、1916年(大正5年)に歌人の与謝野晶子さんが5男を出産する際に無痛分娩で出産したという記録が残っているそう。とすると100年前に日本でも初の無痛分娩が行われていたということになります。

ただ、費用や麻酔科医の状況、分娩に対する考え方によりその後の普及が欧米のように一般的ではなかったため、今でも確立としては低い数字となっているのでしょう。

実際にはどう行われるの?

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無痛分娩は「硬膜外麻酔」と「点滴麻酔」という二つの方法がありますが、筆者の住むイギリスでは脊髄の近くに麻酔薬を注射して痛みを緩和させる「硬膜外麻酔」がほとんどです。筆者も硬膜外麻酔での無痛分娩で出産しました。

赤ちゃんに影響はないのか不安に思う方もいるのですが、母体の血液の中にわずかに麻酔薬が入る程度なので赤ちゃんには影響はないのです。ただ、注入される麻酔薬の量により出産直後の赤ちゃんが音や光への反応にやや鈍くなることがあるそうですが、これは徐々に治って来るそうです。

では、硬膜外麻酔をすることで母体への影響はどうかというと、確かに痛みが和らぎ出産することは可能ですが麻酔の副作用で、出産後吐き気に襲われ筆者は嘔吐しました。母体への疲労感が少ないというメリットが一般的に挙げられていますが、これはあくまでも分娩にかかる時間がどの程度だったかにもよると思います。

筆者の場合、分娩室に入り33時間かかりました。最初は自然分娩で水中出産を希望していたのですが、子宮口が開くのがあまりにも遅く息子の心拍数が下がってきたので、これ以上長く続けるのは無理だと促進剤と硬膜外麻酔を打たれての出産となったのです。

無痛分娩を選んでも、なかなか大変なお産だった上に陰部を切られたのでその部分が悪化。産後一ケ月はまともに座ることもできませんでした。「無痛分娩は楽」という定義はやはり人によるもので全体としてはあてはまらないものだと実感しています。

色々ネット上で取り上げられている無痛分娩の知識は、あくまでも参考程度にした方がいいと筆者は思います。自然分娩でも無痛分娩でも、帝王切開でも出産にはそれなりのリスクは伴うもの。一つの命が生み出される瞬間は決して容易なことではないのです。

無痛分娩で稀な事態が起きることも

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麻酔をして出産した後に、足に力が入らないなどの副作用はよく聞きます。痒みや血圧低下などの症状が出ることもあるそう。

「非常にまれな合併症」として、硬膜外カテーテルの先端が硬膜を通じてさらに奥にある、くも膜下腔に入ってしまうことが挙げられます。そこに麻酔薬が入ることで、麻酔が上半身まで広がり呼吸が苦しくなったり、足に力が入らなくなったり一時的に意識が遠のいたりする場合があります。

また、硬膜外カテーテルの先端が血管の中に入ってしまった場合には、舌や唇がしびれたり、ひきつけ(痙攣)をおこしたりすることがあります(局所麻酔薬中毒といいます)。さらに、カテーテルを抜いた後に一時的に硬膜に孔ができることで、しばらく強い頭痛が続くことがありますが、これらには適切な対処法があります。

出典 http://www.wakayama-med.ac.jp

でも、稀に更なる重度の副作用を引き起こしてしまうこともあるのです。英ミドルセックス州在住のIrrum Jetha(イラム・ジェサ)さん(34歳)は、2014年8月に女児、アメリーちゃんを出産。

19歳の時に心臓や肺の動脈弁の手術をしたこともあり、当時の医師には「出産は心臓に負担がかからない無痛分娩にした方がいい」と勧められていました。そのこともあり、初めての子供を無痛分娩で出産することにしたイラムさん。

ところが硬膜外麻酔での出産後、足に力が入らなかったイラムさんは医師に伝えます。「よくあることだから」と、その時医師は気に止めることはありませんでした。ところが何時間経っても足に感覚がないのです。

夫のアダムさん(37歳)の心配もマックスに。結局医師たちも不安になり、ロンドンのある病院で出産したイラムさんはMRI検査を受けるために別の病院に搬送されることに。その結果、下半身が麻痺していることが判明したのです。

生まれたばかりの我が子との時間が奪われた

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イラムさんはまた別の病院に搬送され、8月にアメリ―ちゃんを出産したものの手術と治療で自宅に戻ることができたのは12月のクリスマス前でした。そこまで夫のアダムさんが一人で育児をし、イラムさんのいる病院に通うというハードな日々となったのです。

生まれてからすぐに我が子との絆を育むこともできず、初めてアメリーちゃんに会ったのは6日後のことだったそう。そして本来ならば母と子の幸せな時間を過ごせるはずなのに、入院していたイラムさんにはそれをすることは不可能だったのです。

車椅子生活を余儀なくされてしまった

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無事に娘を出産した喜びも束の間、まさかの麻酔の副作用で下半身麻痺になってしまったイラムさん。現在は毎日5時間のリハビリを続けているそう。リハビリ自体が高額な費用がかかります。でもイラムさんはもっと評価の高いドイツのリハビリ施設でのリハビリを検討していると言います。

「ひょっとしたら一生歩けないかも知れないけど、なんとかして回復させたい」イラムさんのその悲痛な願いに心打たれます。「家にいても、足が動かせないからまともに娘の世話を一人ですることができないんです。どれだけ情けないか。娘が生まれてから一度も二人っきりの時間を過ごしたことがないんです。」

出産後、人生が大きく変わった

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産後、ある程度したら仕事にも復帰する予定だったというイラムさん。ラボでの研究を仕事にしていたのですが、立ちっぱなしの仕事ゆえ職場復帰も今は叶わなくなってしまいました。「自分は役立たずになってしまった…。」イラムさんは、そんな思いで日々過ごしています。

無痛分娩を選んだために、予想もしていない重度の副作用が自分の身に起こるとは。イラムさんの悔しさと思うとやりきれません。「無痛分娩では痛みを感じないために我が子との絆が薄くなるのでは」と批判する人も中にはいます。

イラムさんは、どんなに絆を深めたくてもそれができない状態が出産直後に4か月間も続いてしまったのです。愛する我が子の育児を十分にできないという苛立ちや焦り、ストレスはきっと半端ないことでしょう。ご主人のアダムさんにとっても、幸せの絶頂期を過ごすはずだったにも関わらず、妻が下半身麻痺になってしまったことでどんなに辛いか。

でも、イラムさんには諦めないでほしい!

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今、GoFundMeというチャリティサイトで、ドイツへのリハビリを行うために基金を集めているイラムさん。

自分が無痛分娩を承諾してしまったためにこのような結果になってしまったことを激しく後悔もしているというイラムさんですが、心臓に負担がかかる出産のリスクを減らすために考慮したこと。当然の選択だったと思います。誰が彼女を責めることができるでしょうか。

どうか、辛いけれどもリハビリを頑張って欲しい。アメリーちゃんといつか二人っきりで過ごせる時間が来るように、「母」としての役割を果たしていると実感できるように、近い将来にドイツでのリハビリが成功することを祈る筆者です。

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公式プラチナライター。イギリス在住22年目。いつも読んで下さる皆さんに感謝。Twitterアカウントは@mayonesque18です。よろしくお願いします。

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