現在、欧米だけではなく日本も医療機関を介さない精子提供ビジネスが行われているのをご存知でしょうか。日本でのインターネット上の精子提供ビジネスは40ほどあると言われています。

日本では第3者の精子提供に関しては、法律上の夫婦のみを対象とし、産科婦人科学会のガイドラインに従って精子凍結して不妊治療をするという方法が一部の医療機関で行われています。

不妊に悩む女性が増える現状を悪用するビジネス

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ところが、インターネット上では妊娠を希望する女性に匿名で精子を提供するビジネスが横行。これには医学上のリスクも高く、倫理的にも問題があると指摘されています。感染症などの予防が十分ではない上に、精子ドナーの素性や経歴がはっきりとしていないといった問題が浮き彫りになっているのです。

個人的にやり取りする場合は当然のこと、エージェントに登録しているドナーであっても虚偽のPRをしている可能性は十分あるのです。更には、病院に登録されているドナーでさえも「ご近所さんのあの男性のドナーだった」という可能性もあるというのだから油断はできません。

女性は、妊娠や出産となるとなるべく自宅近くか実家近くの病院を選ぶもの。特に不妊治療など体の負担を考えて、通院が楽な距離の病院を選ぶということはごく自然なこと。

となると、そのご近所の男性たちが匿名の精子ドナーという可能性も無きにしも非ずということを40年以上に渡り研究を続けている英ケンブリッジ大学のスーザン・ゴロンボク教授は英紙「The Telegraph」で指摘しています。

誰かが提供した精子によりある夫婦が子供を出産すれば、精子提供者の家の子供とは当然血縁関係があり、知らずに近所で出会っている可能性もあるということ。我が子とよく遊んでいる子供が半分血が繋がっているきょうだいである可能性だってあるのです。

更には精子提供者の子供が成長して連れて来た恋人が、何十年も前に自分が提供した精子で生まれた子供だった、という可能性もぬぐえなくなるのです。

筆者の住むイギリスでは、現在、一人のドナーから生まれる赤ちゃんは10人までと法律上定められているのですが、SNSを使った精子提供ビジネスがもはや一般化してしまっているためにその法律には厳しい規制が敷かれることはなく、気付けば何十人もの子供の父親になっていた、ということが判明するケースもあるのです。

医療機関を通しての精子提供を求める場合は、少なからず費用の問題がかかってきます。その点、SNSを通せば無料で精子を提供しているビジネスをしている人もいるために、どうしても子供が欲しいという人達にとって、リスクを承知しながらもいわば救いの神のような存在となっているのも正直なところでしょう。

でもそのリスクが思わぬ事態を招くことも…

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このほど、精子提供に関わるトラブルで思わぬ被害にあったカップルが発覚しました。アメリカ、カナダ、イギリスの3カ国で少なくとも36人の女性が偽りの精子提供者の精子により妊娠・出産していたことが問題となっています。

イギリス人のアンジーさん(45歳)とベスさん(56歳)のカップルも被害者の一組。米ジョージア州にあるXytex(ザイテックス)と、カナダのオンタリオにあるアウトリーチ・ヘルス・サービスの2機関が、経歴詐称した精子提供者の精子を取り扱っていたことが発覚したのです。

精子ドナーにより2007年に男児を出産したアンジーさん

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Xytec社の精子ドナーのプロフィールは、子供を熱望していたアンジーさんとベスさんにとっては「完璧」でした。「IQ160、神経科学の学位取得を目指している男性で音楽性にも優れている」というPRにより決心した二人。1,700ポンド(約26万円)を支払った後、幸いにもアンジーさんはすぐに妊娠、2007年に男児を出産しました。

ところがその7年後、アンジーさんのFacebookに、あるアメリカのカップルからメッセージが来ていたのを読み驚愕。このカップルとはXytecを通して知り合いになり、時折連絡を取り続けていました。

なんとそのメッセージには「精子提供者の経歴は嘘で、精神分裂症を患う元受刑者だったことがわかった」と書かれてあったのです。これまで幸せに家族3人で暮らして来たアンジーさんたちの生活が、音を立てて崩れた瞬間でした。

我が子の将来を思うと不安でやりきれない

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その男は、複数の精神疾患を抱えており2005年に強盗などの罪で服役。大学も20年程前に中退していたことも判明。服役後は更生し、学士号を取り大学を卒業したということなのですが、こうなってみれば果たしてどこまでが真実なのかはわかりません。

驚くべきことにXytec社は、その事実を知りながらも変わらずにその男の精子を販売し続けていたというのです。事実を隠蔽し利益のみをむさぼるのはまさしく犯罪。精子提供会社により真実が隠蔽されてしまえば、購入者は真実を知ることなどほぼ不可能なのです。

アンジーさんは「精神分裂は遺伝する可能性もあるから、息子が大人になったら心配です。」と語っています。この件がきっかけで、息子のことを不安に思った二人は色々調べてみたそうです。「40歳ぐらいにならないとはっきりわからないとも言われるので、あと32年を不安と共に過ごさなければいけません。」

アメリカやカナダにもこのとんでもない経歴詐称男の精子で妊娠した女性がいるので、現在カナダの3家族は提訴中とのこと。知らずに生まれて来た子供に何の罪もないとはいえ、そんな不安や心配を抱えながら子育てをしていくアンジーさんとベスさんの気持ちを思うとやりきれません。

でも「子供を深く愛している気持ちに変わりはない」とアンジーさんとベスさん。7年後に突然知った驚愕の事実に打ちのめされたとはいえ、気持ちをなるべくポジティブに持って子育てをしていきたいと話しています。

第3者の精子提供には、やはりこうしたリスクが隠れているもの。女性の「妊娠したい」という気持ちを利用したかのような悪辣なビジネスは許せません。今後、精子提供を望む女性は十分注意しなければいけないことだといえるでしょう。

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公式プラチナライター。イギリス在住22年目。いつも読んで下さる皆さんに感謝。Twitterアカウントは@mayonesque18です。よろしくお願いします。

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