運転中の目に飛び込んできたあり得ない光景

それは4年前のある夏の出来事だった。

米国から一時帰国をして、末期ガンを宣告された父の看病中であったある日の夕方、父を見舞った病院からの帰り道に通りかがった国道の中央分離帯の生い茂った草むらで何かが飛び跳ねたのを目にした。

時速50キロで走行中の私の目に一瞬で焼き付いたのは、襲ってくるカラスに立ち向かう1匹の白い子猫の姿だった。

心の中の格闘

夏の国道の中央分離帯には、たくさんの草がぼうぼうと伸びていた。そのど真ん中で、黒い物体と白い物体が同時に飛び跳ねたのだ。

一匹の子猫が襲ってくるカラスと必死で闘っていたのだ。

時速50キロで走行中だった私は、すぐに停まることができなかった。それはほんの数十秒だったと思う。その間、私は心の中で格闘していたのだ。

「助けたい!」という気持ちと「この私が、子猫を助けてその後どうする?」という気持ちが激しくぶつかり合ったのだ。その間にも、車はどんどんその場を離れて行く。

一時的に車を停めるような場所はどこにもない、そこは高速道路のインターチェンジ付近でたくさんの道路が交差していた。

放置すれば確実に死が訪れる

でも、このまま子猫をほっておけば、いずれ力尽きて、カラスに殺されるか、あるいは道路に飛び出して交通事故に遭ってしまうだろう。。

しかも、すでに辺りは薄暗くなりかけており、小雨が降りだしてきた。

そんな中で私が子猫の姿を確認できたのは、カラスと一緒に子猫がジャンプしたその一瞬に遭遇したからであり、それはそんなところに子猫の姿がいると確認できるまさに奇跡の一瞬だったのだ。

きっと私以外の誰もあんな所に子猫がいるなんて気が付かないだろう。。

そんな奇跡の一瞬に遭遇した私がこのまま見過ごしてしまったら、たぶん、一生後悔することになる。

助けたところでどうしようもないではないか?!

だけど、この私は今、猫を飼えるような状況ではなかった。いずれ家族の待つ米国に一旦は戻らなければいけない身の上だった。しかも、父が末期ガンと闘っている最中である。いつどうなるかわからない状況で、猫など日本で飼えるはずもなく。。

助けても、保護しても、どうすることもできない。。でも、このまま放置すれば、確実に子猫に死が訪れる。。そんな格闘をほんの数十秒の間に、何度も何度も繰り返していたのだ。「どうしたらいい?どうするべき?助けてどうする?その後はどうするの?」と。

その間も雨足は確実に強くなってきている。。

助ける運命に導かれて

後悔したくない!遭遇してしまったんだから、目撃してしまったんだから!これは私に助けろということなのだ。。

とりあえず、助けて、それから先のことは考えよう!

やっと車をUターンできる分岐点が来た。来た道を戻ることに決めた。子猫はまだ無事でその場にいるだろうか。。雨足はどんどん強くなってきていた。

もし、近づいて子猫が道路に飛び出したら。。

現場に戻りながらも、別の心配が出てきた。それは、救助する時に子猫が近づく私に驚いて、道路に飛び出さないかということ。

道路に飛び出してしまえば、おしまいだ。救助しようとして、子猫が車にひかれてしまっては、それこそ取り返しがつかないことになる。。

子猫は国道のど真ん中にある中央分離帯にいるのだ。

威嚇してきた子猫をわしづかみで

それは一瞬の出来事だった。

中央分離帯側の方向チェンジをするレーンに車が来ていないことを確認して、ランプを点滅させたまま車を停め、中央分離帯側の運転席のドアは開け放したまま外に出た。

子猫のすぐそばにカラスがまだいた。子猫は、そのカラスに対して上向きに寝転がってシャーと威嚇している最中だった。その隙に近づいた私に対しても、子猫はそのままの体制で威嚇してきた。それは幸いだった。子猫が道路に飛び出すことができない体制だったので。。

威嚇してきた子猫をわしづかみにして、私は国道のど真ん中に停めていた車にすぐに飛び乗った。子猫は濡れて泥だらけになっていた。

その子猫の体を逃げないように、両股ではさみ、片手でさすりながら運転した。「もう大丈夫だからね!大丈夫だよ!助かったんだよ!」そう優しく声かけながら。。

だけど、心の中では。。「ああ、拾ってしまった!助けてしまった!どうしたらいいのこれからこの子を。。どうすればいいのだろう。。」と叫び続けていた。。

ペットショップで必要なものを買いそろえた

実家に子猫を連れて帰っても、何もない。まず、私が向かったのは、ペットショップ。子猫を車に置いたままだと、ペダルの隙間からエンジンの中に入り込む危険性があったので、泥だらけで濡れた子猫を抱いて店に入った。

生後何か月かもわからない。ミルクなのか、キャットフードなのかもわからない。ペットフードの店員さんに子猫を見せて事情を話し、相談し、とりあえず必要なものを買いそろえた。

救助した子猫

出典自分のデジカメより

実際の子猫(これはシャンプー後の綺麗になった姿)

子猫とのつかの間の暮らし

その後、この子の里親が見つかるまでの間、実家で子猫と私の新しい生活が始まった。

名前はあえてつけなかった

出典私のデジカメより

あまりにも不安定な立場におかれていた当時の私は、この子とずっと一緒に暮らすことは不可能だった。。

すっかり慣れていつも私の膝の上で寝るようになった

出典私のデジカメより

かわいすぎてこんな幸せな時が永遠に続けば。。と願わずにはいられなかった。。

すっかりリラックス

出典私のデジカメより

助けてよかったと本当に思った。こんな純真な子を、あのまま見殺しにしなくて、本当に良かった。。

自然笑顔になれる時間が増えた

出典私のPCより

こんなお茶目な姿も度々繰り広げられた。。かわいすぎる。。

永遠にこの時間が続けばいいと。。

出典私のデジカメより

こんな安らぎの時がこの子から与えられるなんて。。
助けたつもりが、いつの間にか自分が助けられているような気がしてきた。

幸せな時間

出典私のデジカメより

自分が置かれている現実をこの子は忘れさせてくれていた。

でも、別れの時は確実に近づいていた

出典私のデジカメより

父のことが落ち着いたら、私はいずれ一旦、家族の待つ米国に戻らなければならない身の上。その時、いつ日本にまた来れるかわからない身の上。。この子を連れて渡米して、また日本に連れて戻るということは、手続きに時間がかかる。。米国でも猫が2匹、私の帰りを待っていた。当時の私にはこれ以上、世話をする対象を増やすことは、どうしてもできなかったのだ。いずれ、この子は手放さなければならなかった。。

里親探し

出典私のデジカメより

ずっと一緒に暮らしたかったけど、当時は不可能なことは明らかで、現実的に里親探しを始めた。不安定な立場におかれた私よりも、この子をずっとかわいがってもらえる人がいたら、もらってもらおうと考えていた。それは、心を鬼にしなけばならなかったとてもつらい決断であった。

見つかった。。

出典私のデジカメより

里親は意外にすんなりと見つかった。それは最初にこの子を連れて入り話をきいてくれたペットショップの店員さんがきっかけとなった。その人が猫好きの同僚に声をかけてくれたのだ。そしたらすんなりと、「いいわよ。私が引き取れるよ。」と言ってくれた店員さんがいたのだ。

辛い別れ

出典私のデジカメより

とうとう、別れの時が来た。こんなに早く。。という気持ちもあった。情が移る前に。。というけど、この子を助けようと思った瞬間から、もう情は沸いているのだ。
この子と過ごせたのは、3週間くらいであった。子猫はアッと言う間に成長してしまう。だから、里親探しも急がなければならなかった。幸い、最初に相談したペットショップの店員さんがとても良い人を見つけてくれたのだ。

本心は

出典私のデジカメより

でも。。こんなに早く。。もっと一緒にいたいのに。。そんな身勝手な気持ちが交差していた。。というのが正直な当時の気持ちだった。もっと一緒にいたかった。。それが素直な気持ちであった。できれば、このままずっと一緒にいたかった。。それが私の本心。。でも。。手放すことに決めた。この子のためには、その方がいいと。。

別れの時

出典私のデジカメより

とうとう別れの時が来た。この子を救助してから3週間後のことだった。ペットショップの営業時間終了間際に、店のレジでこの子を引き取ってくれる店員さんに引き渡した。手を放すと、この子は私の体にしがみついてきた。それを無理やり引き離し、手渡して「よろしくお願いします!」と言うのがやっとだった。涙があふれそうだった。。

号泣

出典私のデジカメより

ネコのいなくなった車の中で、帰り道、号泣した。運転するのが危ないと感じたので、駐車できるところに一旦停めて、大きな声を出して泣いた。泣きまくった。手放さなければならない自分の置かれたふがいなさに腹が立った。。ごめんね。。と腹が立った。。

幸せな道

出典私のデジカメより

里親になってくれたのは、本当に猫好きの若いとても綺麗な女性だった。家にはこの子と同じくらいの子猫がいると言っていた。数日後に、どうしているか女性に話を聞いたところ、その子とすぐに仲良くなって、いつも一緒に遊んでいるという。それを聞いて、この人に引き取ってもらってよかったと本当に思えた。私が育てるより、ずっと落ち着いて安心して暮らせる道を選択することができたのだとやっと思えた。

命を大切に

出典私のデジカメより

元気で暮らしてますか?

走行中の車内から投げ捨てられた?

しかし、あんな国道のど真ん中に子猫が自ら行けるはずもない。近くに歩道は一切ない車しか通らないような場所であった。しかも、子猫がいた中央分離帯は、子猫がよじ登れるような高さではなかった。では、どうして、そんな場所に子猫がいたのか?

たぶん。。車から誰かに投げ捨てられたのだと思う。そうでないととても子猫がたどり着けるような場所ではなかったし、親猫がそこで子猫を産んで育てたというような場所でもなかったのだ。まだ他に猫がいるのではと思って、後日、同じ場所を見たけど、他に猫の姿は一切なかった。

あのままそこにいればカラスに殺される。そうでなくても飛び降りれば車に轢かれてしまう。そんな場所に誰かが子猫を走行中の車の窓から投げ捨てたとしか考えられなかった。

まったく。。この世の中には、本当にひどいことをする人がいるものだ。

強い生命力で生き延びた子

出典私のデジカメより

本当に運が味方してくれたのだ。

命の重さ

あの時、私がここを通っていなければ。。あの時、カラスがこの子を襲っていなければ、草むらでこの子を見つけることはできず通り過ぎていただろう。。

すべてが偶然の積み重ねだった。きっとこの子に生きようという強い生命力がそうさせたのだと思う。

いまだにこの子のことは思い出す。今、こうして実家に戻ってきて。。しきりに思い出す。あの時、本当に私はこの子を育てることができなかったのだろうかという後悔の念もないと言えばうそになる。けれど、とてもあの時、いいご縁があったので、あれはあれで間違ってはいなかったのだと自分に言い聞かせてる。

命の重さを感じる。その命を簡単に捨てる人たちがたくさんいる。どうしてそんなことが平気でできるのだろうか。。これは私には永遠に理解できないだろう。。自分は、そんな人間にならなくてよかった。。そう思うしかないのだろう。。

命を大切に!それが私たちが生まれて、本当に学ぶべきことなのだと思う。

あなたのことは忘れない

出典私のデジカメより

さようなら。。子猫ちゃん。。

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