世の中には、身体の性と心の性が一致しないという苦しみを抱えて生きている人が数多くいます。豪・メルボルンに住むティナ・ヒーリーさん(Tina Healy)さんも、男性として生まれ育つ中で、そんな苦しみを抱えてきた一人でした。

けれど誰にも自分の性別の事を打ち明けられないまま過ぎてゆき、パートナーと出会い、4人の子どもに恵まれました。仲の良いパパとママ、可愛い子供達、外から見れば何も問題ない幸せなファミリー。けれど、ティナさんは常に心の中で葛藤し続けていたのです。

50歳を過ぎてのカミングアウト

4人の子供たちが成人した時、やっぱり「本当の自分」として生きてゆきたいと決意すると、トランスジェンダーである事をカミングアウトします。その時、ティナさんは50歳になっていました。子供たちは驚きながらも、ティナさんの事を受け入れてくれました。

そして妻であるテスさんは、実はティナさんの抱えている問題に気がついていました。けれど、それでも自分のパートナーはティナさんしかいないという思い、そしてきっと自分との関係の中で克服し、ティナさんの性別の問題は解決してゆく事が出来るはずと思っていたのだそうです。

認知症の母親にカミングアウトするべきか悩む日々

「自分は体と心の性が一致していないのではないか」子供の頃から、ずっと秘めていた思い。ティナさんが、本当は一番理解して欲しかった相手は母親でした。けれど大きな心配がありました。それは、ティナさんの母親が認知症だという事です。

カミングアウトしたら、認知症である母親にはストレスが大き過ぎてパニックになってしまうのではないか、それはティナさんだけでなく、家族にとっても大きな心配でした。

「でもこのままでいるわけにはいかないと、ついに母にカミングアウトしたんです。私はできるだけシンプルに伝える努力をしました」

その日、母親はティナさんの話にじっと耳を傾けていました。そして話終わると『まぁ、驚いたわ』と言った後、にっこりとして『私に新しく綺麗な娘ができたのね』と答えたのです。そして『ここにおいで』と言ってティナさんを抱きしめてくれました。

「私は母の肩に顔をうずめて泣きました。テスも隣で泣いていました。本当に、何もかも最高の出来事でした」

娘のジェシカさんがトランスジェンダーの絵本を

そして娘のジェシカ・ウォルトン(Jessica Walton)さんは、この出来事をきっかけに1冊の絵本を書きました。タイトルは『Introducing Teddy』

テディベアのティリーは、男の子だと思われているけれど本当は女の子。そんなティリー(男の子での名前はトーマス)と、人間の男の子・エロールとの心温まる友情物語です。

出典 https://www.kickstarter.com

『テディベアは、心の中ではじぶんが男の子じゃなくて女の子だとわかっています。ともだちは、こんなじぶんをわかってくれるかな? トーマスじゃなくて、ティリーってよんでくれるかな?』

絵本を出版しようとクラウドファンディングで資金を募ると、この優しい物語は多くの人の心を捉え、なんと驚いた事に1週間かからずに目標額である約96万円を上回る金額が集まりました。

ティナさんの告白に、最初は驚き、悲しい時間もあったというジェシカさん。けれど、この経験でよりティナさんとの絆が深まったと語っています。そしてこの経験により、家族全員が、大きく成長できた事を感じているのです。

今ではティナさんはおばぁちゃんとして、ジェシカさんの息子のエロールくんを可愛がってくれています。けれどエロールくんが読める様な絵本には、トランスジェンダーのキャラクターが出てくるものは見つかりません。ジェシカさんは、自分の息子であるエロールくんに読んで欲しいと思って、この作品を書いたのだそうです。

そして母親は何度も彼女を抱きしめ続ける

ティナさんは最初のカミングアウトして4年が過ぎた今でも、母親に100回を超えるカミングアウトをし続けています。なぜなら、認知症である母親は、ティナさんが何回カミングアウトしても、次に会うときには全部忘れてしまっているのです。そしてティナさんは、毎回初めて聞く母親の為に丁寧に話すのだそうです。そして母親も、毎回一語一句違わぬ優しい言葉をかけてくれ、ティナさんを抱きしめるのだとか。

今は、自分が本当の自分らしく暮らせてとても穏やかな毎日だというティナさん。元奥さんのテスさんとも、今でも親友として大切に付き合っています。そして子供たちも「父親としてではなくなったけれど、今でもかわらず大事な家族である」と語っています。そして何より、母親からの溢れんばかりの愛情を、日々実感して過ごしているのです。

「私はとてもラッキーだわ」とティナさんは言います。「だって100回以上も母親に『きれいな娘ができたわ』って優しい言葉をかけてもらっているんだもの。私は本当に幸せよ」

娘のジェシカさんの書いた絵本『Introducing Teddy』は、評判が評判を呼び、2016年5月31日にAmazonでハードカバーとして発売される事が決まりました。日本でもすでに予約が始まっています。

この絵本を子供の頃に読む事で、もし友達が同じ様な悩みを抱えていたとしても、もし自分の性に違和感を感じたとしても「あ、テディと同じなんだ」と自然に受け入れる事ができるかもしれません。小さな一歩かもしれませんが、この絵本によって、多くの人がトランスジェンダーをより自然に受け入れられる…そんな世界になるきっかけになります様に。

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