東南アジアのインドシナ半島に位置するカンボジアは、世界遺産のアンコール・ワットのある国、そしてその昔、共産主義のポルポト派による大量虐殺が行われた国として知られています。カンボジアの歴史と文化は深く、民族や宗教、政治や紛争など簡単に説明できるものではないですが、その分、非常に興味深い国でもあります。

今回、カンボジアの首都、プノンペンのスラム街に焦点をあててご紹介しましょう。カンボジアでは、貧困層は人口約1,500万人のうちの828万人と言われ国民の半数を超えています。貧困層の90%は地方の農村ですが、都会の片隅のスラム街に暮らす人々の貧困率もかなり低く、国自体が未だ後発開発途上国として位置づけられています。

プノンペンの「白ビル」に住む人たち

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首都プノンペンは立派な観光地。でもそんな大都市にも「スラム街」と呼ばれる場所は数多く存在しています。10年ほど前でその数は700か所といわれていたので今ではもっと増えていることでしょう。

線路脇に廃材を集めてあばら屋を建てて暮らしている人もいれば、廃墟同然のビルに家族のように寄り集まって暮らしている人もいます。そのビルは「White Building(白ビル)」と呼ばれその昔はプノンペンの新しい文化の象徴のように白く美しい建物でした。

1963年に建設された独立の象徴であったアートな建物

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現在、この廃墟同然の白ビルは昔のアートの面影など完全に消え去ってしまっています。でも未だにここで暮らす人は2,500人~3,000人もいると言われています。

この白ビルには売春婦、ドラッグ常習者、子供を含む家族、アーティスト、商売をしている人たちなどまさにバラエティに富んだ種類の人々がひしめき合って暮らしているだけではなく、僧侶や修道女も住んでいるとか。こんな廃墟からは到底想像もできません。

この白ビルにはカフェや理髪店、学校もどきのようなものも存在します。貧困層の子供たちは普通に学校へ行くことができない子供も多く、スラム街では裸に裸足で走り回るという生活がほとんど。

ゴミの中からお金になるものを集めて売るというまさにその日暮らしの安銭しか手に入らない生活。病気になるとたちまち生活ができなくなるほどの貧困層では、1日1ドルか2ドル稼ぐのがやっとということも少なくないのです。

今や貧困層の市民が家族のように暮らす白ビル

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荒んだ白ビルには、換気もなく不衛生さが漂っています。でもここに暮らす人々は誰もが家族のように受け入れあっているという不思議な空間を作り出しているのです。ここを撮影した写真家のTariq Zaidiさんは「この白ビルには不思議なハーモニーとバランスが存在している」と言います。

何千人という人々が生活している白ビルは、娼婦などの夜の商売をする人やヘロイン常習者などの人達が集まる一角を離れると安全という感じさえ受けたとZaidiさん。「ロンドンのような大都市では、街で人が話しかけたりはしません。隣の人のことも知らないし、コミュニティにも興味がない人も多いです。」

ここ白ビルではこのような廃墟であるにも関わらず、コミュニティの繋がりがロンドンよりも強いという印象を受けたと話しています。ちゃんとした家に住んでいる人から見れば、ここで暮らす人たちの生活は「最低」に見えるかも知れません。

でも、みなプライドを持ってここで暮らし、人としての温かさを感じることができる場所を、彼ら自身で月日をかけて作り上げてきたのでしょう。

金曜の夜には白ビルの一角が華やかに

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夜の商売をする人たちがこの白ビルの一角に集まって来ると同時に、主婦である女性たちが娼婦に化粧を施しにやってくるのが金曜の夜。そして娼婦は夜の街へ消えていき、主婦たちはここでお茶を飲みながら一週間の出来事やうわさ話をするのだそう。

壊れかけのビルに住むアーティストたち

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白ビルが徐々に廃墟と化していく中で、ここに住み続けるアーティストもいるのだとか。彼らにとってはここが「家」であり、アートを生み出す場所なのでしょう。

近い将来ホテルに変わる可能性も

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プノンペンは最近あちこちで開発が進んでいます。この白ビルも「観光客への見た目が悪い」という理由でついに取り壊される予定が進んでいるそう。この跡地には高級ホテルを建設する話があるのだとか。数千人という住民が白ビルを出て行かなければならない日はそう遠くなさそうです。

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ここに600世帯が住んでいます。

一角ごとが個性に溢れている白ビルの中

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パッと見た限りではビルの外にはゴミが溢れ、薄暗い雰囲気の廃墟のようなビルは決して清潔とは思えない環境にあります。それでも人々はここを日々の暮らしの拠点とし、出ていくことを拒否しています。

一旦この白ビルに足を踏み入れて見ると、そこがいかに個性溢れる場所であるかということがわかるよう。Zaidiさんがここを撮影した時も「初めて見て光景にただただ目が釘付けになった」と話しています。

カンボジアの本当の暮らしを知りたければ、この白ビルを訪れてみるべきなのかも知れません。もちろんここは観光地ではないのでお薦めはしませんが、この白ビルには住民のコミュニティを大切にする精神や、家族のように受け入れあう姿勢など、貧困でも彼らの人としての価値を見出せる大切な暮らしがあるのです。

娼婦だって、僧侶だって、エンジニアだって関係なく、ただ好きだからこの場所で暮らす。そういう基本の自由がこの限られた空間に漂っているような気がします。個性があり、かつビル自体が家族のように団結している唯一無二ともいえる白ビルの存在。

スラム街は世界各地にありますが、これまで40回以上もここを訪れているZaidiさんのように、この白ビルには人々を惹きつける何かがあるのでしょう。

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公式プラチナライター。イギリス在住22年目。いつも読んで下さる皆さんに感謝。Twitterアカウントは@mayonesque18です。よろしくお願いします。

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