ある時期、合コンに行った際に、女子に対してお決まりの質問をしていました。

「今までに男性から貰ったプレゼントで最も嬉しかったのはなんですか?」

どうせ高級ブランドのバッグや装飾品、真珠やダイヤモンド等の貴金属類なのだろうと、恋愛経験に乏しい僕は勝手な推測をしていました。まあ、そういう答えもあったことはあったのですが、僕の実感からすると、意外にそれは割と少数意見でありました。

「やっぱり、手紙かなあ」

ある女子の返答を聞いた瞬間、新大陸を発見したコロンブスが抱いたに違いない驚きと喜びの感情が、僕にも押し寄せました。

(それ、素晴らしい。金使わなくて済むじゃん。楽勝)

そういうことだったのか、どうにかなる、国語の成績は良かったもんな、これでモテモテだ…僕の未来が明るく開けた予感がしたんです。その時は。

大隈重信

遊牧民をテーマに据えた新しいファッションスタイル。

つぎはぎだらけのジーパン等、前衛的な服飾を展開するブランドショップが福岡に進出、雑誌に載っていた情報を基に、僕はその店を訪れました。

対応した女性店員は、小柄な茶髪のおかっぱ頭、木村カエラみたいにオシャレで可愛い人でした。女子にモテるアイテムが欲しいなぞ談笑しつつ、彼女の笑顔にすっかりテンションが上がった僕は、勧めに応じられたままハンチング帽を購入し、住所氏名を記載して会員カードを発行して貰います。

数日後、アパートの郵便受けに封書が届いていました。中を開け、折り畳まれた便箋を広げると、丸っこい文字がびっしり並んでいます。対応してくれた女性店員の手書き文字のようでした。生れてこの方、可愛い女性から手紙なんて貰った経験が無い僕はすっかり舞い上がってしまいます。たとえ、それが彼女にとっては単なる仕事の一環だったとしてもです。先日はありがとうございました、帽子被ってますか、今度はジーパン買って下さい、と内容は当然、リピーター獲得、販売促進を目的にしたものでした。

僕は返信します。手紙を書くのです。

使わずに、というか使う方法がさっぱり分からなかった佐賀の英雄「大隈重信」の絵ハガキを取り出します。先日訪れた大隈重信記念館に入館する際に、案内パンフレットとともに頂いたものです。僕はそこまで人気が無い施設を見学するのが好きなんです。

ハガキ裏面には大隈重信の銅像の写真が全開にプリントされているので、郵便番号と宛名を記す表面の下部、わずかなスペースに細かい文字をびっしり横書きで埋めます。こちらこそ御手紙有難うございます、ところで何故このハガキが「大隈重信」かというと先日記念館を訪れて、彼は元内閣総理大臣で天保9年に佐賀で生まれ云々…とパンフレットにあった解説を挿入し、最後に、ところで木村カエラみたいで美人ですよね、で結び、ポストに投函しました。

「で、どうなった?」

ここまでの経緯を聞いていた友人は、笑いを堪えつつ、目を輝かせて、結果の次第をせかします。

「いや、別に。なにも」

そう、この話には特別に面白いオチは無いのです。手紙にはそれから何のリアクションも無く、ショップを再び訪れた僕は、その木村カエラ似の女性店員と顔を合わせたのですが、特に向うは僕に関心がある素振りを見せず、軽く会釈しただけで、別の女性客へ近付き、接客に勤しんでいました。

電話

坂本龍馬の軌跡を辿る旅。

旅行会社に行き、電車切符と宿泊ホテル、スタンプラリーが同封されたお得なセット券を友人の分と二枚購入しました。当時は大河ドラマの影響もあって、友人との間で幕末ブームが到来していました。

カウンターで説明してくれた女性は、まん丸い白いお多福顔に細いつり目、全体にふっくらした体型で、お世辞にも美人とは言いかねますが、なんでも大学を卒業したばかりらしく、その初々しい接客に好感を抱きました。

「龍馬の旅、おすすめですよお。わたしも同期の女の子たちと行ってきたんです。アルバム見ます?」

旅先の景色よりも、可愛い子が写っているかな、そうした気持ちで写真を眺めると、どの子も似たような雰囲気で、結構パンチが効いてるな、と思ったんですが、勿論実際に口にするわけにもいかず、楽しそうですね、とだけ言ってアルバムを返しました。

旅行から帰り、ポストを覗くと、手紙が一通入っています。おかえりなさいませ、旅行はいかがでしたか、接客した女性の綺麗な楷書でした。ホスピタリティマインドに感激した私は、旅先で貰った龍馬の絵ハガキを机に出し、彼女にお礼を書くことにします。

「手紙有難うございます。帰ってきたら、お出迎えの言葉があったので感激しました。ボランティアガイドの親父に、記念撮影用の模造日本刀の持ち方が違う、と公衆の面前で注意され、恥ずかしくてそいつを斬り殺したいと思ったり、龍馬の複製ピストルの銃口を自分のこめかみに当てて写真を撮っていると、おばちゃん集団から、自殺しよるばい、と大声で笑われたり、ホテルの部屋の温度調整で友人と大いに揉めたり、非常に楽しい旅行でした…」

手紙を出した翌日の夜、携帯が鳴りました。旅行会社の女性でした。

「わざわざ、お手紙いただいてありがとうございます。はい、はい。返信してきた人は初めてです。読んでて笑いが出てきました。楽しい旅行だったみたいでなによりです。ぐ、ぐふふ」

少々薄気味悪い、押し殺した笑い声を時折漏らしながら、彼女は感謝の言葉を述べました。わざわざ、電話とか余計な仕事増やしてしまって申し訳ない、僕は彼女に謝ります。

「いえ。上司に電話するよう言われたので」

新社会人らしく、本当の事を包み隠さず正直に話してくれた彼女に、僕は少しだけ悲しくなったのです。

この記事を書いたユーザー

久留米の爪切り このユーザーの他の記事を見る

男は久留米という砂漠の中の一粒の砂であり、クルマ、金、女に縁がないライター志望の孤独で吝嗇な三十路だった…http://ameblo.jp/kt660cc http://tabelog.com/rvwr/002224433/

権利侵害申告はこちら

Spotlightのライターなら1記事最大3000円もらえる!日本最大級メディアでライターデビューのチャンス