健全な男性として、どうしようもない強い力が下腹部にみなぎってきた夜は、パソコンにお決まりのワードを入力し、それを鎮め放出する手助けとなる動画、女性が性の悦びに打ち震える様を捉えた映像を、僕は無料で閲覧しています。本当に素晴らしい夢のような時代です。

そんな時代に生きていて、やったぜ、ラッキー、しかし、そうだと断言することは出来ないんです。

インターネットがまだ一般家庭にまで普及していなかった当時、怪訝な表情のおばちゃん店員から目を逸らし、汗で湿った千円札を差し出して購入した「エロ本」、知り合いに会うリスクが高すぎる、地元で一軒しか無いレンタルビデオ店でくぐった「のれん」、その向こう側から選び抜き、年齢確認されたらどうやって切り抜けようとビビりながら、思案の挙句に普通のビデオで上下を挟んでレジ台へ持って行った「アダルトビデオ」、あの緊張感は興奮を更に高める、スパイスでした。

僕は、エロ本、アダルトビデオがもっと切実だった時代を懐かしく振り返ってしまうんです。あの日の興奮よ、再び。

見つめ合う刈り上げ

通っていた高校は校則が厳しく「髪型は原則自由とするが、長髪にする場合は側頭部と後頭部を2ミリか3ミリで刈り上げ、前髪は眉にかからない程度、もみあげを伸ばすことは禁じる」と生徒に与えられた髪型の自由は、刈り上げを2ミリにするか3ミリにするか、だけに限られていました。それ以外は坊主です。

毎回月の初めの月曜日に服装検査が実施されます。ほぼ男子生徒のマンモス校は、その日になると揃いも揃って、頭の下半分を地肌が透けるほどに青々と刈り込んでおり、なんとも壮観でした。

「下ハゲがいっぱいやねえ」

クラスメイトは感嘆の声を上げましたが、当然、彼の頭も同じく下ハゲでした。

「○○高カットね。2ミリ、3ミリ?どっちにする?」

日曜日。その高校の生徒で混み合う安い床屋に行けば、決まり文句でそう聞かれました。大体、みな少しでもロン毛にしようと3ミリと答えます。

毎月毎月、やりたくもない下ハゲカットにするのは、非常に面倒臭くて仕方なかったのですが、ただ一点そこには楽しみがあったのです。その安い床屋の近くには、本屋がありました。

その本屋は「エロ本」の立ち読みが可能でした。ビニールも紐も余計なものは何もついてないのです。ずらっと並んだエロ本が読み放題、その興奮は計り知れません。

日曜日の昼下がり。翌日の服装検査に備え、いつものように安い床屋で下ハゲカットを済ませた僕は、そのまま本屋に立ち寄り、足が勝手に道順を記憶している「エロ本」コーナーへ一目散に進みます。

(…あっ)

すると、棚の向うに知っている顔があります。その頭は下半分が青々と刈り込まれ地肌が露見しています。喋ったことはないけど、良く顔を合わせる隣りのクラスの男子生徒、でした。目が合うと、相手も気付いたようで、耳を真っ赤に染め、視線を逸らしました。

日曜日。髪を切って「エロ本」を立ち読みする。

彼は全く僕と同じルーティーンをこなしていました。僕は手前の棚で全然興味もない空手雑誌をめくって、ちらちら目だけで様子を探り、一刻も早く彼が帰ることを念じたのです。

友達の部屋

大学時代。一人暮らしの友達の部屋に泊めてもらい、朝を迎えると、友達は早朝からバイトがあるとかで原チャリで出掛けてしまい、僕は部屋に一人取り残されました。

借りた布団をどけ、辺りを探ると、期待通りのものはすぐにみつかりました。

アダルトビデオです。

友達は割と大量に保有していました。友達が帰宅するまでの時間つぶし、あくまで一応の確認のつもりで次々にデッキに突っ込み鑑賞を始めます。すると、一本のビデオで一気に気分が高まってしまいました。

(コレは、たまらねえな!)

その女優の容姿ばかりでなく、それが他人の所有物、そこが他人の部屋、ということも興奮を助長する要因だったのかも知れません。朝で下腹部に既に十分な膨張があったことも事実でしょう。駄目だ、駄目だ、と理性が抑えても、すぐそばにティッシュペーパーの箱が置いてあるのを認めると、もう我慢の限界でした。

(ごめん!無理!)

僕は欲望を放出させました。丸めたティッシュをトイレに流した時、まるで他人の女を寝取ってしまったような罪悪感に襲われます。黙っていることに耐えられず、帰ってきた友達に僕は己の罪を自白しました。

「お前、他人の家で、なんばしよっと!」

怒られましたが、少し笑いをこらえていた友達は、そんなに気に入ったんなら、と僕にそのビデオを譲ってくれたのでした。

返却期限

バイト終わりに、格闘技をやっているらしい後輩の強い要望で「腕相撲大会」が催されました。

今までの人生において、一度も腕相撲で勝利したことが無い僕(中学の時女子に負けた)は嫌でたまりませんでしたが、ちょっと可愛い女子スタッフも見ているし、その場のノリに従ったんです。

大会はすぐに終了します。事件は格闘技をやっている後輩との試合で起きました。

「ばきいっ!」

物凄い破裂音が響いて、なんの音なのかさっぱりわからなかったのですが、ぺたんと腕が力なくテーブルに倒れ、それから女子の悲鳴で、僕の腕が変な方向に曲がっていることに気付きました。上腕骨骨折、でした。

救急車に乗り、強制入院です。先生からの説明の後、二十代後半くらいで黒縁メガネをかけた全体的にムチムチした体型のナースに「これから入院になりますが、不安な点はありますか?」と訊かれました。

「アダルトビデオの返却です!」

僕は延滞料金が気掛かりだったのです。その時、お気に入りの女優のビデオを3本レンタルしていました。ナースは頬を赤らめ、言葉を失ったようでしたが、一呼吸おいて強い口調で言い放ちました。

「あなたも大人でしょう!誰かに頼んで返してもらいなさい」

全くの正論に僕は何も言い返せなかったのです。ただ頼めるのは親しかおらず、これ以上の恥辱は無いと思われ、僕は絶望の淵に沈んだのでした。

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男は久留米という砂漠の中の一粒の砂であり、クルマ、金、女に縁がないライター志望の孤独で吝嗇な三十路だった…http://ameblo.jp/kt660cc http://tabelog.com/rvwr/002224433/

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