ホワイトデーも間もなく迫っているのに、異性交遊の浮いた話なぞ無縁に過ごす、三十路独身男性たる私には、取り立てて予定も何もなく、このままでは駄目だ、そう決意し、つい先日、婚活パーティーに出掛け、素敵な伴侶との邂逅を夢見たわけですけれども、結果は散々であり、その窮状を周囲に訴えると、先輩も友人も、まあ似たような苦難を味わっているようなのです。

「ああ、俺も婚活パーティー行ってカップルになったけどね、実は契約社員って打ち明けたら、その日から明らかに絵文字の量が減ったね。大体4~5個あったのが、それからは文末に一個だけになった」

「友達の紹介でアドレスだけ交換して、顔知らんままずっとメールしよった女の子がおったんよ。この前、初めて居酒屋で会ったらめっちゃ美人で、あの、山田優みたいな感じ?それまではガンガン、メール来よったけど、なんか実際会った日から、気に食わんかったんかな。顔やか?全くメールが無くなったばい」

辛いのは私だけでは無いのです。それでも前を向こう、明日を信じよう、私はこれまでの婚活パーティーの成功と挫折の経験を思い返し、その分析を試みることで、未来を切り開く所存です。

社会人

その婚活パーティーの項目はほぼ終了し、後は最終的なカップリングの結果を待つだけでした。目の前で三人の女子がきゃっきゃきゃっきゃ楽しそうなお喋りに興じています。どうやら三人は全く赤の他人であるものの、今回のパーティーを通じて意気投合、今度三人で飲みでも行こう、と盛り上がっているようです。

婚活パーティーには中間印象チェックシートなるものがあり、全員の女性と話した後に、その人が自分にどういう印象を抱いたかを確認出来る仕組みがあります。

A.タイプです。
B.連絡先を交換したい。
C.もう少しお話ししたい。
D.まだよくわかりません。

総勢40名ほどの女性から私は全てD評価を喰らっていました。ゼロ点です。のび太のテスト用紙かよ!そのシートを眺めながら、私は自分でも面白くなってしまい、目の前で騒ぐ三人組の女性に「ちょっとコレ見てくださいよ、すごいでしょ」とゼロ点の答案用紙を自慢げに提示しました。それがウケたようで、話が弾み、なら折角なので連絡先交換しましょう、四人で今度ゴハンでもと、短時間で三人組のリーダー格に躍り出たらしき姉御肌の女生の携帯番号をゲットすることに成功したのです。

何回かやり取りを交わし、実はあの子が気になる、と姉御肌に打ち明けると、あたしに任せなさい、そう彼女は請け負ってくれました。ぽんぽんと軽快にレスが早い彼女に私の気に緩みが生じてしまったのでしょうか。或る日、そのメッセージの応答の途中、ほんのギャグの積り、合いの手の積り、テンポの良いリズムの積り、そうして何気なく送信した四文字の言葉は彼女の逆鱗に触れてしまい、事態は急転するのです。

「なんで私がそんなこと言われなくちゃいけないんですか?あの子の番号教えたり、色々してやったのに。あなた、それでも本当に社会人ですか。あなただって働いているんでしょう。いや、それ以前に人間としておかしいです。不愉快です。もう連絡しないでください」

私は「うるせー」と送信していました。親しき仲にも礼儀あり、というより、左程親しくもない人には余計に礼儀は大切、私は一つ悟ったのです。

ワンナイト

「いま、ほーっんとシングルマザー多い。いつの間にか、あれっ、て名字変わっとるもんね。大体、旦那の暴力とか浮気とか、話聞いたらげんなりするよ」

大手の工場で管理職として働く友人から聞きました。私が婚活パーティーで一度、カップル成立した女性も小学生の息子がいるシングルマザーでした。年上のキャリアウーマン風でモデル体型、手足が長く、痩身の方で全くマザーには見えませんでした。初めて婚活パーティーに来たらしく、私が色々教えたり、地元が近かったのでその話題を振ったり、フリータイムで大丈夫ですかと声を掛けたのが好印象だったようです。子どもがいる事は後から聞きました。カップルになったものの内心、自分には身が重いな、女旱の退屈な日常、寂しい一人暮らしから脱却したいだけなのに、逃げたい、私は卑怯でした。

「ごめんなさい。びっくりしたでしょう。バツイチの子持ちなんて。地元が一緒なので、その内近場で飲みでもいきましょう」

「いやいや。全然そんな風に見えなかったです。全然気にしないでください。俺だって正直、結婚とか金ないし無理やし、あわよくばワンナイト、若しくはツーナイト楽しめればいいかな、そんなノリなんで大丈夫っす」

「…男の人って実は本心そういう人が多いのかも知れませんね。でも、女性を馬鹿にしないでください。こっちは真剣に結婚相手を探しているんです。高いお金を払って。あなたみたいな人は出会い系か風俗でも利用したらいかがですか。あなたみたいな人とは友達にさえなりたくありません。これから二度と、婚活、と名がつくものに参加しないでください。迷惑です」

男性陣の参加費は倍以上なんだけどな、心中では否定したい気持ちも山々でしたが逃げることは成功したのです。お前は馬鹿正直な奴だ、先輩は笑いました。純粋な正直さは怒りを買う、と学びました。

絶世の美女

その三人組は明らかに浮いていました。

同じ病院に勤務しているらしいのですが、三人ともまだ二十代前半で目を見張る美貌の持ち主でした。とりわけ黒髪の子はまるでファイナルファンタジーのゲームキャラクターみたいな整った顔立ちで、前に座る女性からも「ちょ、ちょっとあの子、可愛すぎるやろ」と羨望の眼差しを送られている程でした。

その婚活パーティーで何の因果か、私は件の美女とカップル成立してしまうのです。

「お人形さんみたいですね」「たまに言われます」特に印象に残らないような会話しかしておらず、そこは謙遜しねえんだ、ふうん、絶対に無理だから別にいいけれども、取り敢えず、他に話が合う子がいたわけでも無いし、一番美人を第一希望にして置こう、そんな軽い気持ちでした。

カップル成立が信じられない私はパーティー終了後「番号間違えてない?本当に俺なん?」と確認すると「いや、大丈夫です。はい」と恥ずかしそうに頬を赤らめ俯くのです。あの俺の番号、これ、なぞ彼女を指名したらしき男が近寄ってきます。消えろ、敗残兵、私は胸中で呟き、勝ち誇ります。

失投だ、神様が投げた失投だ、私は半信半疑ながらも転がり込んだ僥倖を絶対に手放してはならないと決意を固めました。無事に番号交換を済ませ、私は尋常の文章、差し障りの無い常套句、誰でも打ち返せるストライクな言葉を送信します。

「今日はありがとうございました。よかったら連絡ください」

それから既読無視のまま、もう一年が過ぎます。

あれは一体何だったのか意味が分からず、友人に助言を求めます。単なる友達の付き添いだった、彼氏持ち、どんまい、静かな声で友人は慰めてくれたのでした。

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男は久留米という砂漠の中の一粒の砂であり、クルマ、金、女に縁がないライター志望の孤独で吝嗇な三十路だった…http://ameblo.jp/kt660cc http://tabelog.com/rvwr/002224433/

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