ラグビー人気を牽引する五郎丸選手

3月5日、スーパーラグビー(SR)、レッズ(オーストラリア)の五郎丸歩(30=ヤマハ発動機)選手が、本拠地サンコープスタジアムで初先発をはたしました。残念ながらレッズは敗れましたが、五郎丸選手は4本のペナルティーゴールを蹴り、2本を成功させました。

ひとりのラグビー選手の活躍が、日本のメディアで取り上げられるようになりました。もちろんこれは、2015年ロンドンW杯で、ラグビー日本代表が3勝1敗という戦績をおさめたからです。優勝候補の筆頭であった南アフリカ代表チーム(スプリングボクス)を撃破し、「史上最大の番狂わせ」を演出し世界に衝撃を与えました。

長らく日本で低迷していたラグビー人気は、この勝利をきっかけに風向きを変えました。ラグビー選手のメディアへの露出機会は飛躍的に高まり、スポーツ番組だけでなく、バラエティ番組にもラグビー選手が顔を出すようになったのです。
 
この人気を牽引しているのが、五郎丸歩選手ですね。

今や時の人です。選手としての力量はもちろんのこと、威風堂々とした彼の人間性も人気の秘密といえるでしょう。また、古武士のように落ち着き払い、彼が口する言葉にも多くの人が魅了されています。

そこで、五郎丸選手関連の書籍をもとにして、彼に宿る「言葉の力」について考えていきます。

自分の思いに正直だから言葉に力が宿る

出典『五郎丸語録』(五郎丸歩 ぴあ)

「人生で何かを得ようとするなら、何かを犠牲にしなければならない」

出典『五郎丸語録』(五郎丸歩 ぴあ)

この言葉は、2005年W杯を前にしての言葉です。W杯後にも、家族との時間を犠牲にして練習に参加してきたという正直な気持ちを吐露していました。

犠牲という言葉は、決して響きのよいものではありません。人によっては、「日本代表選手が勝利のために何かを犠牲にするのは当然であり、そのことを口にするのは潔くない」と考えるでしょう。

ですので、世間の目を気にして体面を保つならば、「犠牲」という言葉は使わないほうが無難です。

しかし、五郎丸選手は慎重に言葉を選びながら、自分が体験し考え感じたことを素直に言葉にする強さがあります。例えば、次の言葉もそうです。

キャプテンはあまり向いていない。2番目3番目くらいが自分には合っています。

出典『五郎丸語録』(五郎丸歩 ぴあ)

2015年ロンドンW杯の前に行われた香港戦(5/23)で、五郎丸選手は初めて日本代表チームのキャプテンを務めました。この試合は雷雨のため前半13分で中止となっています。

日本人は謙遜を美徳とする文化。自分の価値を下げた表現で相手をたてようとします。この言葉も、五郎丸選手ならではの謙遜ととれます。

一方で「ただの弱気な発言」にも聞こえます。キャプテンに選ばれた人間としては迷いを感じさせる言葉であり、チームを率いるリーダーとしてふさわしい言葉とはいえません。

ロンドンW杯で副キャプテンであった経験についても、「リーダーとしては言葉でひっぱるタイプではない」という発言がありました。

自分の足りない点を認め、言葉にしています。

「弱さをさらけ出せる強さ」。

五郎丸選手は現実を切り取る自分独自のロジックをもち、その持論への揺るぎない信頼感のある性格タイプのように見えます。
 
仮に、「リーダーが弱さをさらけ出すことでもチームはまとまる」という持論をもっていたとします。実際、「リーダーシップ」より「フォロワーシップ」を重視した早稲田大学時代の中竹竜二監督の影響があります。

すると彼は人の目を気にせず自らのロジックを優先して、自分の弱さを口にできるのです。そうした強い人間性が彼の言葉に力を与えています。

そんな五郎丸選手の人間性を、ロンドンW杯でラグビー日本代表チームのメンタルコーチを務めた荒木香織氏が、自著『ラグビー日本代表を変えた「心の鍛え方」』 (講談社+α新書)のなかで表現しています。

メンタルコーチ荒木氏がみる五郎丸選手の人間性

出典『ラグビー日本代表を変えた「心の鍛え方」』 (荒木香 講談社+α新書)

五郎丸選手は、見た目はクールなイメージがあります。でも、じつはものすごく感情が豊かで向上心も強く、泥臭い努力を厭いません。だからなのか、たとえばチームメイトが試合中にミスをしたりすると、試合中にイラつくことがままありました。

出典『ラグビー日本代表を変えた「心の鍛え方」』 (荒木香 講談社+α新書)

五郎丸選手のクールさは一貫しています。試合中でもバラエティ番組でも、落ち着いていきます。ですので、そのクールさが意図的に作りあげたものでないことに確信が持てます。

彼には「言葉の一貫性」「感情の一貫性」があるのです。

「言葉の一貫性」とは発言にブレがないことであり、これは信頼感を高めます。朝礼暮改で、いつも言っていることがブレると、「どうせあの人はすぐ考えが変わるんだから、適当に聞いておこう」と、信用が損なわれていきます。

これと同様に、「感情の一貫性」も言葉の力をつくる大事な要因です。

「感情の一貫性」には2つの側面があります。

一つ目の側面は、感情の起伏が激しくないことです。
怒っていたと思ったら泣き出したり、泣いていたと思ったら笑い出したり、感情の変化が急激すぎると、周りの人はついていくことができません。信頼どころか、その人から遠ざかってしまうでしょう。感情が適度に安定し一貫していてこそ、人は互いに信頼関係を築くことができます。

二つ目の側面は、感情露出のポイントが一貫していることです。
これは、「どんな時に、どんな事で、どんな感情になるかが一貫している」ことです。別の表現をするならば「感情のツボが安定している」ことです。

いくらクールな人だって感情的になる時があります。五郎丸選手、しかりです。

南アフリカ戦での国家斉唱では感極まっていました。その勝利後のインタビューでは、いろいろな想いがこみ上げてきたのか、言葉につまっていました。

日本テレビ系「くりぃむしちゅーのTHE★レジェンド2015」(2015年10月9日放送)では、五郎丸選手が大爆笑するプライベート映像が流れました。早稲田大学時代からのつきあいとなる同じくラグビー日本代表畠山選手がビートたけしのモノマネをして、大笑いしているのです。畠山選手は、五郎丸選手にとって「笑いのツボ」なのでしょう。

また、メンタルコーチ荒木氏が指摘するように、試合中イラつくこともあったわけで、他人のミスが「怒りのツボ」だといえます。もちろん、現在ではメンタルトレーニングでその点も克服しているのかもしれません。

怒っている人に近づくのは誰もが嫌なものです。しかし、りに根拠があり、その理由、つまり「なぜ怒るのか」が、いつも変わらないのであれば、周囲の人は納得することができます。その人の怒りの言葉を信頼することができます。
反対に、「ある日は他人のミスに激怒するけど、次の日は笑っていて、その次の日はまた怒り出す」という風に、感情のツボがブレると他人は混乱してしまい、その人を信頼できなくなります。

五郎丸選手には、今述べた二つの側面での「感情の一貫性」が安定している人物に見えます。だからこそ、彼の言葉に力が宿るのです。

「言葉と感情の一貫性」を保つことが、言葉に力を与える「ツボ」といえます。


自分以外の何かを意識した言葉が人の胸をうつ

出典『五郎丸日記』(小松成美 実業之日本社)

この大会を通じて、多くの人に本来スポーツがもつ素晴らしさを知ってもらいたい。その素晴らしさが理解できる人が増えれば、それは文化となる。急に変化するとは思わない。しかし、少しずつでもいい。一歩一歩進んでいけば道は開ける。

出典『五郎丸日記』(小松成美 実業之日本社)

私たちがメディアを通して知る五郎丸選手の言葉に一貫性があることは、ある程度は意図されたものです。であったとしても、彼が繰り返し、「家族」「ラグビーをする子どもたち」「日本ラグビーの未来」「日本のスポーツ文化」など、自分以外の誰かや何か、より大きな目的を意識して言葉を発していることに、私たちは胸を打たれます。

『五郎丸語録』(五郎丸歩 ぴあ)には、124の言葉が収録されています。その中で、「日本」という言葉が23回登場します。約18.5%の出現率です。

もちろん、日本代表という立場であることを考慮すれば当然といえますし、編集の関係から偶然そうなったという可能性は否定できません。それでも彼が、より大きな「他者の利」を視野に入れて行動する人物であることは、その他の言葉からも読み取ることができるのです。

例えば、五郎丸選手の「利他の精神」を象徴する言葉は、日本代表チームに所属する外国人選手たちを気づかったものです。

筆者もラグビー経験者です。人の集まる場に行くと、「日本代表には、なぜ、あんなに外国人がいるんだ、あれじゃあ、日本代表じゃない」と皮肉を言われることがあります。

こうした意見に対して五郎丸選手は、日本のために戦う外国人選手たちへの理解を求める発言をしています。『五郎丸日記』にもそれに関連した記述があります。(p126〜p127)

彼の言葉に力が宿るのは、こうした「利他の精神」がベースにあるからです。

「自利利他」という言葉があります。

本来は仏教用語ながら、現代のビジネス書にも登場します。「自分と他者の利を考えて行動することの大切さ」を諭す言葉です。この反対が、自分だけよければいい、自分の利益だけを考えるという意味での「我利我利亡者」です。

自分のためになることは、他人のためになる。
他人のためになることは、自分のためにもなる。

そうした自利利他の精神を堅持し言葉を発するとき、私たちの言葉には自然と力が宿ります。

これも、「ジャパン・ウェイ(Japan Way)」のひとつとです。

そういえば、「自利利他」に通底するラグビーの精神を象徴するワードありました。

one for all, all for one
ひとりは、みんなのために。みんなは、ひとりのために。

五郎丸選手の言葉に私たちは、無意識の内にこのラグビー精神を感じとることで、彼の発する言葉に心を動かされるのでしょう。

2019年、ラグビーW杯は日本開催です。今後も、五郎丸選手の活躍とその言葉から目が離せません。

この記事を書いたユーザー

松山 淳 このユーザーの他の記事を見る

心理カウンセラー/研修講師/作家/産業能率大学(情報マネジメント学部)兼任講師。リーダーシップ、モチベーション、キャリアをキーワードにSNSを通して「働く人をサポートする言葉」を継続的に発信。学生時代はラグビー部に所属。著書:『「機動戦士ガンダム」が教えてくれた新世代リーダーシップ』(SBクリエイティブ)『バカと笑われるリーダーが最後に勝つ トリックスター・リーダーシップ』(ソフトバンク新書)『真のリーダーに導く7通の手紙』(青春出版社)『「上司」という仕事のつとめ方』(実務教育出版)ほか。http://www.earthship-c.com

得意ジャンル
  • スポーツ
  • ライフハック
  • コラム

権利侵害申告はこちら

Spotlightのライターなら1記事最大3000円もらえる!日本最大級メディアでライターデビューのチャンス