イギリス在住の筆者は、度々イギリスの医療問題を記事にしてきました。自身の経験も兼ねてイギリスの医療の実態を伝えることは、今後、渡英予定のある方や永住するプランをお持ちの方には是非とも知って頂きたい重要なことだからです。

短期でロンドンに滞在される方は、海外保険で日本の医師がいるクリニックで診てもらうことも可能でしょう。でも「住む」となればかかりつけの医者を登録しなければいけません。

その方法は二つ。プライベートかNHSか。プライベートは日本の実費の2倍ほどの値段が診察や治療代にかかります。NHSは政府の予算で賄われている国民健康保険機関なので基本の診察料、手術代、入院費などは無料になります。このNHSのGP(一般クリニック)は、今こそ時間外でドクターが24時間滞在しているというGPもあるようですが、基本は週末は休み。

すると日本のように病院の緊急外来に行くという方法しかオプションはないのですが「緊急」といえど混んでいる時は3,4時間平気で待たされるために、まず「緊急コールセンターへ電話をして」というのがこの国に提案されていることなのですが…。

英国の緊急コールセンター「111」で相次ぐ不祥事

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筆者が住んでかれこれ20年ちょいの間、緊急コールセンター「111」ができたのはつい10年ほど前の話。役に立つのかと思いきや度重なる不祥事で今やイギリス市民の怒りを買っているのです。

というのも、ここの電話をしたことによって助かったかもしれない命が失われるというケースが続出。「緊急」でヘルプが欲しいと思いコールしている患者もしくはその家族にとっては、ヘルプセンターのスタッフの言葉が何より頼りなのです。

ところが、幼児の深刻な事態を見抜くことができずに死なせてしまったりするケースが多く「111に電話をしたら助からない」という迷信まで出る始末。

そもそも、この緊急コールセンターには医療のトレーニングを受けたスタッフがいるわけでもなく、PC画面のマニュアル通りに質問していくだけ。そして結果、「痛み止めを飲んで水分をたっぷり補給。様子を見てよくならないようならまた電話して」というお決まりの言葉で締めくくるだけ。

筆者の息子もよく嘔吐や発熱でハラハラさせられた時期があったため、GPが時間外でどうにも医者に診せることができず、夜中にたまらぬ思いで111に電話をしたことが何度もありました。

その度に同じことを質問され、同じアドバイスをされ、それも「ドクターと話がしたい」と食い下がれば「では連絡しておきます。今から6時間~8時間の間にコールバックがありますので。」と言われ、息子の容態を気にしながら、いつかかってくるのかわからない電話をひたすら待っていたという辛い経験も。

そんな111の実態が元スタッフの証言で明らかに

出典 http://www.dailymail.co.uk

度重なる111の不祥事。今回、元スタッフが驚くべき証言をしたことで改めてメディアでは「111の対応の杜撰さ」が浮き彫りに。

医療の専門知識が全くない「電話をただ受けてマニュアル通りに質問するだけ」のスタッフの一人サラ・ヘイズさんは、ドーセットのコールセンターである日の夜、たった一人で40万人もの責任を負わなければならなかったのです。

ある電話は高齢者の女性からで「主人が息をしていない」というものだったそう。泣いて訴えるその女性にどう対応していいかまるでわからなかったというヘイズさん。自分では専門知識がないために適当な判断はできかねる。そう思いマネジャーに電話をしたところ「大丈夫、君ならできる」と言われ絶望を感じたと言います。

一本の電話回線に60人から65人もの人がかけるために、それだけ待たねばならならず明らかに「緊急コールセンター」の役割を果たしていません。そしてスタッフ不足も重なって、24時間対応している医療知識のないスタッフは寝不足状態に。

過度の勤務時間の為に疲れて居眠りするスタッフ

出典 http://metro.co.uk

こうした状況が明らかになればなるほど、「111」への信頼度は傾くばかり。そもそも医療の専門スタッフが対応してないという時点で信頼も何もあったものではありません。ヘイズさんは言います。「通常は一人はセンターに医師がいるものなんです。でもデボン州やドーセット州は私たちスタッフだけ。」

何百件とかかってくる「緊急コール」にも関わらず、居眠りしているスタッフがいるようでは何の解決にもならないでしょう。

筆者ものらりくらりと「いかにもマニュアル的」質問をされた後、6時間後に医者からのコールバックの末に「では、今から緊急外来に行ってください」と言われた経験がありますが、6時間も待たされたということは既に緊急ではないではないか、万が一のことがあったらどうしてくれるのだと思い怒りを覚えました。

素人だからこそプロを頼りにしたいのに

出典 http://metro.co.uk

これでは母の直感で病院にすぐに駆け込んだ方がよっぽどいいのではないかと思うこともしばしば。特に子供の具合が悪い夜中には、医師からのコールバックを待っている時間が恐ろしく長く感じるのです。

子供も寝るに寝られないといった状況で、休ませてあげることができずに果てしない時間が経過した後に「病院へ連れていけ」と言われ、子供も寝不足やら具合が更に悪くなるやらで、この「111」の何とも煮え切らない中途半端な指示に怒りを感じている人は決して少なくはないのです。

「全く安全ではない、安心できない」サービスに息子の命を奪われた夫婦

出典 http://metro.co.uk

111に電話をし「痛み止めを飲ませて」とだけアドバイスされ、1歳の最愛の息子を失ってしまった母が、今の「111」の対応の杜撰さを訴えています。ではなぜ、ここまで不祥事が相次いでもみな111に電話をするのか。

それはイギリスの医療がすぐに専門医には診てもらえないというシステムから、とりあえずの対処法を知りたいがためにアドバイスを求めて111へと電話をかけてくるのです。結局、GPに行ったところで一般的な診察しかしてもらえず、手遅れになったというケースももちろん多く、イギリスの医療に対する不信感は市民の間に益々広がっているようです。

999に電話をすると救急車の要請になりますが、そこまで必要かという判断が素人ではつけにくい場合も多々あります。そんな時のための111であるはずなのに、今や「信頼できない」という人がほとんど。

医療問題は人の命に関わる重要な社会問題です。イギリスのNHSシステムが変えられないのであれば、111のスタッフは専門知識のある人たちにするとか、患者に合った的確なアドバイスをするようにしない限りはこのような不祥事がなくなることはないのではないでしょうか。

元スタッフのサラさんが言うように「安心できない、安全だとは言えない111のサービスは見直されるべきだ」ときっと誰もが思っていることでしょう。ここイギリスに住む筆者も子供を抱える親として、それが一番不安です。

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公式プラチナライター。イギリス在住22年目。いつも読んで下さる皆さんに感謝。Twitterアカウントは@mayonesque18です。よろしくお願いします。

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