子どもが親を殺す。親が子どもを殺す。近親者による事件が後を絶ちません。殺人に至らずとも、DVや虐待などが起きている家庭では、家族が日々命懸けの生活を余儀なくされていることすらあります。

こうした問題は、ほぼ家庭内に原因が存在しており、暴力を振るっている本人が精神を病んでしまっていることもあるのです。そういった場合には、医療機関への受診やカウンセリングなど、適切な処置が必要になってくるわけですが、家族ですら病院に連れて行くことが出来ないケースが少なくありません。警察は事件にならなければ「民事不介入」ということで動くことができませんし、児童相談所や保健所などの行政機関は、相談が殺到していることもあり、条件が整わないと動いてくれません。精神科病院などの医療機関へ相談しても入院を断られるケースや、入院しても早期退院を促されるケースもあり、根本的な解決に至らぬまま家庭に戻ってきてしまうことが多いのが実情です。

こうした現在の公的システムではカバーできない問題点に着目し、本人はもちろんのこと、家族をも“説得”して医療に繋げる「精神障害者移送サービス」を立ち上げ、活動している方がいらっしゃいました。

株式会社トキワ精神保健事務所 創始者・押川剛さん

出典Spotlight編集部

押川剛さんは、福岡県北九州市小倉出身の47歳。高校卒業後に上京、専修大学に進むも4年生の時に中退して警備会社を起業。その後「精神障害者移送サービス」を立ち上げ、テレビ出演や執筆、講演活動をされています。

ーー「精神障害者移送サービス」を立ち上げるきっかけはなんだったのでしょうか?

押川
警備会社で一緒に働いていた後輩が精神疾患になってしまって、突然ピョンピョン跳ねたり現場で失禁したり…統合失調症(当時は精神分裂病と呼ばれていた)だということだったんですけど。初めて統合失調症を発症する様を目の当たりにしました。結局彼はご両親が故郷に連れて帰り、精神科病院に入院をさせたのですが…入院の際には、相当暴れて家族を殴り倒したりしたそうです。「俺だったら彼と話をして、入院させることができたのに…」と強く思いました。身体・生命・財産を守るというのは警備業の三本柱です。「精神障害者移送サービス」も、この三つを守る仕事ではないか!と考え、この仕事を始めました。

さて、この精神障害者移送サービスですが現場で何が起きているのか、想像もつきません。そこでどんな事例を扱ってきたのかについて伺いました。

事例1. ゴミ屋敷と化した自室

出典提供 トキワ精神保健事務所

30代女性の部屋。統合失調症を患いながら、精神科未受診の状態が長く続いていた。毎晩アルコールを多量に摂取しており、依存傾向にもあった。両親に暴言を吐いたり、暴力を振るったりして、小間使いのようにこき使っていた。また、親の預貯金を自分の口座に振り替えるよう強要する一方、親に対しては節約を命じ、病院や美容院などの必要な外出さえ本人の許可をとらないとできない状態だった。

出典押川氏提供の資料より

事例2. 汗と汚れが染み付いたベッド

出典提供 トキワ精神保健事務所

30代男性の自室ベッド。強迫性障害により、10年以上にわたりひきこもり生活を続けていた。症状の悪化により入浴もできなくなり、一度トイレに入ると10時間以上もかかることもあった。そのため両親は、近隣のコンビニのトイレを使用していた。暴力や暴言はなかったが、「こうなったのは親のせいだ」と恨み辛みを吐露し、「自殺」をほのめかすため、親は本人の言いなりになっていた。ひきこもりの子供が、マンションを一戸篭城していたようなものである。

出典押川氏提供の資料より

いかがでしょう?皆さんが想像していた以上に壮絶な事例だったのではないでしょうか。

押川さんはこういったひきこもり事例を、もはや「立てこもり」だと言います。なぜなら自宅を占拠して、親やきょうだいに対して命のやり取りをちらつかせながら生活しているからです。命の危険を感じるからこそ、多くの家族が押川さんの元へ相談に来るわけですが、精神疾患かどうかの見極めには慎重を要します。家族の話を鵜呑みにしてすぐに病院へ連れて行くわけではなく、まずは対象者及びその家族の視察・調査」、続いて「説得」、そして「移送」という手順を踏みます。

これらの業務を通じて、どんなことを見てきたのか伺いました。

現場で見てきた家族達とは?

出典Spotlight編集部

押川:まず家族は、子どもに統合失調症やうつ病などの精神疾患があるからというだけで、困っているわけではありません。家族が困っているのは、子どもの言動に「バイオレンス」が付随しているからです。親きょうだいへの暴力もそうですし、暴言、金銭の無心、精神的に束縛するなど…。「バイオレンス」を伴う相談は昔からありましたが、近年はその数が増加し危険度も増しています。近隣住民や交際相手など、第三者に向くこともあります。

対象者がなぜDVなどの暴力やストーカーをするのかというと、母親への対応をそのまま真似てるだけなんですよ。何をやってもお母さんが許してしまう環境で育つと、本人は女性との付き合いでも、社会においても同じことが通用すると思ってしまう。殴ろうが、どんな理不尽なことをしようが絶対に相手は許してくれると。だから、何かにつけてすぐに「母親に感謝してる」という男は絶対にアウトです。最近は女性側からの暴力やDVも増えていますが、私が見てきた限りでは、やはり背景に母親との歪んだ関係があることが多いです。

ーーそう言われてハッとする方も多いのではないでしょうか…。

押川:成人して自立すべき年齢なのに、未だに親に依存し、縛られているのです。たとえば有名な企業に就職した若い人に志望動機を尋ねると、「この会社に入れば、親孝行になると思って」と答える人がけっこういます。これは、絶対にダメですね。ようは、そいつ自身の志や覚悟が感じられない。ここからは私の持論ですが、人間が社会で生きていく上では、皆誰かの“パシリ”をやるしかないんです。“パシリ”というとマイナスイメージが強いですが、仕事だってそうでしょう。顧客だけでなく、会社のオーナーや上司、時には部下のために“パシる”。それが仕事の本質だと思います。

子どもを医師や弁護士など、なるべく高いキャリアの仕事に就かせようとして、幼少期からせっせと塾に通わせるお母さんが未だに多いじゃないですか。本人が自発的にやっているならともかく、親が強要している状況では子どもを「親の言うことを聞く“パシリ”」として育てているだけなんですよね。それでは、「社会で通用する“パシリ”」にはなれない。

「この子はいい学校に行かせて、いい会社に行かせれば…」と育てても、大きい会社であるほど課せられる仕事が高度になります。単にいい学校行って、資格を取ればいいという道しか通ってない人間では、いずれ無理が生じてきます。そういう人は、会社を辞める時の理由を「人間関係」のせいにしますが、根本的な原因は「親子関係」にあるのではないかと思います。

子どものレベルを見極めた教育を

出典Spotlight編集部

ーー著書を拝読して、子どもと親の関わり方・繋がりについてすごく考えさせられました。

押川:問題のある家族をたくさん見てきて、ある時から「この親子関係はパシリだな」と思うようになりました。心の病になり、問題行動を起こしているのは、たしかに子どものほうですが、過去の生育歴を紐解いてみると「大変だったなぁ…親からこの学校に行け行け!って言われて」と同情することが、本当に多いんです。子どもとしては親の言う通りにしたのに、全然思い通りにいかない…そこで心のバランスを崩し、怒りの矛先が親に向かうんですよ。その結果、今度は子どもが親をパシらせるわけです。

今はスマホがあるから、部屋にひきこもった状態でメールで事細かに指図をしたり、「あれを買ってこい、これを買ってこい」と命令したりする。親を追い出して自宅篭城しているようなケースもあります。このような家庭では、親が子どもを自分たちの“パシリ”としてしか育てていない。「いい学校・いい会社に入れ!」と強要することもそうですが、「あれをしろ、これをしろ」「あれをするな、これをするな」と抑圧して育てることもそうです。子ども相手に、夫婦の不満をぶつけることもそうですね。

このような育てられ方をすれば、子どもの自尊心は育まれません。自信がなかったり、逆にプライドだけは高かったり…。社会に出たときには、周囲からの要請も多岐にわたりますから、パシリとしての役割も果たせないわけです。結局、家に戻って親を支配するしかなくなる。親をパシリにするんです。そこで経済的な破綻が訪れると、今は簡単に親子間での殺し合いが始まります。

ーー子どもを親の“パシリ”として育てないために、どのようなことに気をつけたら良いでしょうか。

押川:子どもの能力や向き不向きを見極めずに、親の希望で「大きい役割をするパシリ」を育てようとすること自体が間違っていると思います。仕事にいい・悪いはないはずなのに、みんなすごい学校に行かせて、すごい企業に行かせようとする。そのレベルから本人が脱落してひきこもると、親が「もう肉体労働でも何でもいいんで仕事してくれれば」って言うんです。でも、今までそれが出来るような育て方してないわけでしょ?肉体労働者になるんだったら、肉体労働者としてのパシリの育て方がありますから。

あまりにも体裁や世間体など、外見上の「いい所」でのパシリにさせたがる親が多すぎます。それはバブル時代から変わってませんね。本来は、その子のレベルを見て「大人になってどのレベルのパシリで行けそうか」という見極めが必要です。どのレベルなのか?というのは、本人の能力はもちろん、向き不向き、本人の背丈であったり、体の強さであったり…それを鑑みた上での教育ができてないんですよね。

ーー子どものレベルを見極めるということになると、普段からかなり子どもの様子を把握することが必要になってくると思いますが、何かコツなどはあるんですか?

押川:子どもと向き合うことで分かる変化や、成長の過程などはきちんと記録しておくことが大切です。というのは、もし子どもが精神疾患やひきこもりになり、行政や医療機関の助けを求めなければならなくなった場合、必ず生育記録が求められます。それだけに限らず、家族の情報も一元化して記録しておくことが万が一の際の助けになります。「マイノート人生設計」というソフトが使いやすくてオススメです。

さて、子育てをしている方の中には「自分の家庭は大丈夫だろうか?」と思う方もいらっしゃるでしょう。そこで押川さんの元を訪れる親の共通点を伺ってみました。

相談に来る親達の共通点とは?

出典Spotlight編集部

ーー押川さんのところに相談に来る親達に共通することはありますか?

押川:ウチは民間なんで相談を受けるにあたってお金を頂くわけですが、お金を持っていることがゆえに家庭内で問題が起きているという方が相談者に多いですね。こういう家庭では、実は親自身が社会的地位の高い仕事に就くために、相当無理をしたように見受けられることもあります。子どもも「本当に欲しかったから」というよりは、「子どもがいないと世間体が悪い」という感覚で生んでいる。

そうすると子育ても、世間体や見栄もそうですけど見た目を取り繕うことが最優先になってしまう。子どもが問題行動を起こしても、子どもと向き合うのではなく「子育ては妻にまかせていたのに…」「子どもが大事な時期に主人が仕事で忙しくて…」などと、責任を擦り付け合うことに終始してしまうのです。ですから私が介入するときには、まずは対象者ではなく、親を説得しなければならないこともあります。

「あなた自身のレベルを知ってください」
と。何度も言いますが、親自身だって所詮は社会の“パシリ”ですから。「子どもにえらそうに押しつける前に、まずは足下をよく見てください」ということです。これでキレる人はウチには依頼してきません。逆に「自分たちの至らなさを知ることができて良かった」と、感謝の言葉をもらったりします。どの家族にも共通して言えるのは「己を知らない」ということです。

最後に編集部からの質問に対して答えていただきました。

子育て世代が気になることも聞いてみました

出典Spotlight編集部

1. なぜ自ら大変な世界に足を踏み入れたのですか?

誰もやっていないところには競争がないのでやろうと思いました。常に己との闘いにはなりますが、非常に人間味があって面白い世界です。

2. これまでの1番の修羅場は?

私の経験の浅さや説得のレベルの低さが原因でしたが、初期の頃は寝室に行って寝ている対象者に話しかけたところ、軍事用のサバイバルナイフで足を刺されました。刃物を取り上げて血を流しながら話しましたが…そういうこともあるという前提の仕事です。他にも斧を振り回している状態のところへ突入したこともあります。

3. これだけ家族の闇を見てきて押川さんが精神的に参らないのは何故ですか?


自分は大したことない人間だと思っているからです。常に「言いたいことを言う!」というスタンスで仕事をしていますが、中には「そんなことを言ったら明日から仕事できなくなりますよ」と、心配してくれる方もいます。でも私は「そうなったら、また肉体労働から始めればいいや」という感覚でいます。精神的に参りやすい人って、自分を過大評価していることが多いのではないでしょうか。

4. 最近のニュースで特に気になるものは何ですか?


私の著書でも述べていますが殺人事件の件数は減っていても、被疑者と被害者の関係が親族間である割合は右肩上がりで伸びている今もこの何日間で子どもが親を殺し、親が子どもを殺す事件が起きていますけど、そういったニュースをマスコミが深堀りしない理由が気になります。

5. 携帯電話やSNSの普及でどんな変化を感じていますか?

問題が複雑になりましたね。立てこもりやすくなったと思います。直接会ってのコミュニケーションをしなくて済むようになったので、益々どんな人間なのかというのが分かりづらくなってきていると感じます。また、SNSによる情報の拡散が速い分、人間の言動にも速さが求められていますが、それに付いていける人がいる一方で付いてこれない人が多い。そこから生じる競争や格差は、今後ますます激化していくと思います。

6. 子どもが家族を手にかける事件が増えていて、親になることすら怖いと思う人もいますが、それについてどう思いますか?

「自分が何か成し遂げたい」と思うのであれば、かなり高度なパシリになることを覚悟する必要があります。そういう志を持ちながら、子どもを生み育てられるでしょうか。インテリ層というか、高いレベルのパシリになる程、子育てにかける時間は自ずとないわけで。今、少子高齢化が進んでいて「どんどん子どもを作れ」という流れになっていますけど、日本の社会状況は厳しくなる一方で、我々一人一人にも高度な要求がされる中、子どもをきちんと育てあげるということには、大変な困難が伴うと思います。

はっきり言って日本の将来や社会情勢など、あまり深く考えていない人でなければ、子どもをたくさん生もうとは思わないでしょう。社会に対する分析ができていて、「親になることが怖い」と思っている方々は、無理をして生むことはないんじゃないかと思います。この国はこれから「家族」というものが存在感を失っていくでしょう。子育て自体もママ友やパパ友同士でチームを組んで相互扶助の体制を作らない限り、本当に難しいだろうなと思いますね。少子化政策に乗っかって、漠然と子どもを生むのではなく、よく考えなければいけないと思います。生むなら覚悟を持って生みましょう。

7. 最近では共働きで子どもと過ごす時間が少ないことについて悩むお母さんも多いです。何かアドバイスがありますか?またお父さんの育児参加についてもアドバイスを下さい。

「本当に子どもが困った時にちゃんと動けるのか?」ということですね。幼少期は、困ってる問題もそんなに大きくないのですけど…子どもが本当に困っている時に、親が大事な仕事を放り投げてでも駆けつけるということが必要だと思います。理想として頭では分かっていても、現実にはそれを保育所やベビーシッター、学校など他人任せにしていることが多いですね。

今は、共働き家庭が多いですしシングルファーザー(マザー)も増えています。子どもと過ごす時間が少ないのは、仕方のないことでしょう。子どもを信じてやるということと、一番のポイントはご飯だけは親が作ってあげるということです。味の善し悪しや、手が込んでいるいないに関わらず、おにぎりや目玉焼きでもいいですし、冷凍食品をチンしてお皿に乗せてあげるだけでもいいんですよ。

「イクメン」などと言って、お父さんの育児参加が流行っているようですが、中途半端はダメです!「育児を手伝った」と自慢げに語るお父さんに限って、子どもが成長して問題が起きたときには知らんぷりしているんですよ。小さい時は可愛いし、親の言うことを聞くから参加するんだけど、徐々に離脱していく…ここが問題なんです。育児に参加するなら永久に参加して下さい。途中離脱はダメです。

とてもセンシティブな内容のインタビューでしたが、自身の経験を元に赤裸々に語って下さいました。中には想像以上に衝撃的な内容もありましたが、全て現実に起きていることなのです。今後の押川さんの社会貢献活動に注目していきたいと思います。

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