以前、大手の宅配会社で配達員として働いていました。或る日、従業員全員を対象にアンケート調査が実施されたんです。

「このところ、誤配達、交通事故と取扱いミス、不祥事が頻発しています。みなさんに率直な意見を伺いたいと考えています。無記名で個人を特定することはありませんので、安心して記入して下さい」

私は燃えました。日頃の鬱憤を盛大に晴らしてやろう、燃えよペン、ペンは剣よりも強し、ヒエラルキー最下層にいる一配達員は、上層部に一泡吹かせてやる、との決意を固めたのです。

やはり、ボケたい!

お笑いを愛する者として、無記名アンケートは格好のお笑いセンスを披露する場所に他なりません。普段生活する中で、芸人でもない者が、自身のセンスを試す機会など限られています。ちなみに私のアンケート回答自信作は、定期券を購入する際に渡されたバス会社のアンケートで「あなたはどんな時にバスを利用しますか?」という問いに対して、通勤、通学など当て嵌まる項目に○をつけるタイプに於いて「その他」に○をつけ、横の括弧欄に記した回答です。

「ぶらり傷心一人旅」

週末に放送される、最近見かけなくなったうらぶれたタレントや役者、年増のアイドル等が温泉に浸かったり、ご当地の美味い物を食って、老舗の旅館に泊まって、だらだら感想を述べる形式のしょうもないテレビ番組のタイトルのようで、かなり綺麗に決まった、と自画自賛しております。


剥き出した牙

「誤配を防ぐにはどうしたら良いですか?」

回答:そもそも配達をしなければ良い。家で一日中ゴロゴロ寝ていれば良い。

「誤配撲滅キャンペーンについて意見をお聞かせください」

回答:誤配撲滅と謳っていながら、一向に誤配が減らないなら、いっそのこと逆転の発想で、「誤配奨励キャンペーン」をしたらどうか。誤配した者を褒め称え、臨時ボーナスを支給する、そうすれば逆に誤配が無くなるかもしれない。会社の方針に反発する姿勢を逆手にとったら良いだろう。

「交通事故を減らすにはどうしたら良いですか」

回答:車やバイクで配達するのを止めればよい。昔の飛脚の様に走って配達すれば良い

「飲酒運転を防ぐにはどうしたら良いですか」

回答:残業をするな、誤配するな、早く配達を終わらせろ、交通事故を起こすな、営業して来い、色々言われて、嫌になる。一杯ひっかけて配達したい気分だ(笑)。

背広組襲撃

アンケート提出から、数日たった朝でした。珍しく、会社の上層部の背広組連中がぞろぞろと、田舎の営業所にやって来ました。元ヤンの熱血漢で知られる課長が私に「お疲れさーん」と明るい挨拶を交わして、営業所の中に入っていきます。課長からは健気に働く若手と目されているようなのです。その日、私は早番勤務で、午前指定の配達に出掛ける為、そのまま営業所から出発したのでした。いつも通りのコースでいつものように配達していました。

一方、その頃、営業所は地獄でした。聞いた話、ですが。

絶叫

「この前のアンケートでふざけた事を書いた奴がいる」

課長の一言から始まったミーティングで、一枚の用紙を手に取ると、そのままアンケートの回答を読み上げます。勿論、私の回答です。

「これを書いた奴、今すぐ、辞めろ!今すぐ辞表を出せ!」

課長は真っ赤な顔で絶叫しました。胃袋を震わせる咆哮が営業所に轟きました。まあ、その場に本人、書いた奴はいなかったわけですが。怒りのミーティングは三十分くらい続いたそうです。

犯人捜し

「誰が書いたっちゃろう。こんなん怒られるって分かりきっとるやん…」

直属の上司たる営業所の所長は頭を抱えました。

「ちょっと、所長。無記名アンケートやけん、犯人捜しやらしたらいかんですよ!」

先輩社員が進言します。私はほっと胸を撫で下ろします。先輩は半ば呆れ顔で私の耳元で囁きました。

「…どうせ、お前やろ」

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男は久留米という砂漠の中の一粒の砂であり、クルマ、金、女に縁がないライター志望の孤独で吝嗇な三十路だった…http://ameblo.jp/kt660cc http://tabelog.com/rvwr/002224433/

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