衣食住に「住」の仕事をしていると、時々、とんでもないと思える人を目にすることがありました。

「バリバリ元気だった親会社の社長が…」

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この画像はイメージです。

私が働いていた会社の親会社のT社長は、身体は小さな人ですが、どこにいても分かる大きな声と、何処の現場でも自ら身体と動かして働く元気な人でした。

あれは夏の終わり頃だったと思います。

T社長自ら運転するロールスロイスが店の前に止まり、勢いよく車のドアが開いてT社長が出てくると…私がガラスドアを開けるより早く…ガラスドアを開けてひと言!

「今度のグアム旅行は、連れてたるかなら」と12月の社員旅行に、子会社でも関係の無い私を誘ってくれたのです。それも、旅費は全額負担のご招待旅行です。

T社長は、私が「はい、ありがとうございます」と返事をすると「楽しみに待っとけよ-」とニコニコと嬉しそうに笑って、また、大急ぎで車にもどって行きました。

そのT社長が、それから1ヶ月後に急に亡くなったのです。

その年は親会社の節目にあたる年だったので、イベントが目白押しでした。
一週間後には地元出身のプロゴルファーを呼んで、ゴルフコンペの開催も予定されていました。
私の勤める会社の社長も出席する予定でしたが…。もう、それどころの話しではありません。

それに、あんなに元気だったT社長が…、どうして?こんな急なことになってしまったのかと信じられない気持ちがいっぱいで、ゴルフコンペのことも旅行のことも完全に頭の中から消え飛んでいました。


「図々しいおじさん」

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T社長の訃報を受け取ったのが午前10時、それからすぐに現場に出ている社長に連絡をいれ、親会社の専務に通夜と葬儀のことで相談の連絡をいれとしているうちに時間があっという間に過ぎて午後の3時になっていました。

そこに司法書士の先生ではない…実務はバリバリ出来るが、資格を持っていない…司法書士事務所のおじさんがやってきました。

この方、ちょっと図々しくてあまり好きではありませんが…、ですが仕事、頭を切り換え、気を取り直し営業スマイルでこのおじさんを迎えました。

私が、このおじさんの何処が好きでないかというと、信じられないくらい食べ物に関して図々しいんです。

例えば、忘年会などでお鍋が出たときに、店の方はきちんと人数分のカニ、魚の切り身、ホタテ、つみれなどなど、きちんと大皿の上に並べて(誰が見ても分かるように)用意してくれているのに…、全部、一人で食べてしまい

食べるのが遅い人は、「えっ、私のホタテがない…」「私のカニが・・ない?」と、このおじさんに食べられちゃうんです。

また、おじさんと同席で開始時間に来るのがちょっと遅れると…、なにもない。このおじさん、遅れてくる人の分を取って置いてあげようという気もない

それどころか、うちの社長が気の毒がって遅れた人に違う料理を頼むと…、「私も貰っていいですか」と遅れた人の分の料理が出てきた途端…、箸を出す。

見かねた社長が「それは、〇〇くんの分だからだめですよ」とやんわり言っても密かに狙っていて…、いつのまにか箸をだして食べてしまっていたりと(まるで、家でご飯食べさせて貰ってないんですか?といいたくなるくらい)、図々しすぎて呆れる人なのですが、この日も信じられないことを言ってくれました

その言葉を聞いた瞬間、私の営業スマイルは完璧に崩れました。


「私は雇われの身ですから」

おじさん、ガラスドアを開けてはいってくるなり「今日は大変なことになりましたね」とひと言。T社長のことを言っているのだとすぐに分かりましたから…。

「はい、急なことで驚いています。あんなに元気だったのに…」と私が言うと。

「そうですよね。ところで、お通夜にはいかれるんですか?」とおじさんが聞いてきたので、「はい、行きます。出来ればお世話になった社長ですから、お葬式にも行きます。今は、お通夜の連絡を待っているところです」と答えると「そうですか」とあまりにあっさりした返事に「行かれないんですか?」と驚きながら私が聞き返すと・・。

私は雇われの身ですからねー、先生を差し置いて勝手なことは出来ませんよ。だから、私はお通夜もお葬式も行きません」とひと言。

その返事を聞いて小さな違和感を感じながら、頭の中は…。

『そうか、先生の立場があるから…、自分個人の意見ではいくらお世話になった社長でも決められないのか。でも、先生はそんなことで怒る人でもないし。私も行きます。行かせてくださいと言えば一緒に行きましょうといってくれると思うけどな・・』と思っていると…。

このおじさん、うちに来た訳はT社長の訃報を悲しんでいるわけでも、通夜と葬儀はどうするのか…、と聞きに来たわけでもなくて…。

このおじさんが一番聞きたかったこと。知りたかったこと。は…、

ところで、ゴルフコンペはあるんですかね?私、行く予定なっていて心配で、心配で。でも、どうなったかなんて聞けないので教えてもらおうと思ってきたんですよ。あるんですか?」という、一週間後に行われる招待=タダのゴルフが出来るかどうかだけだったんです。

「そんなの!知りませんよ!」と、私は思わず営業スマイルが崩れて大きな声で叫んでいました。


でも、このおじさんめげずに何度も聞くんです。
私のところの社長も行くはずだったから、今回のゴルフコンペが行われるか、中止かを知っているはずだと…。

私は、やると思っているんですよ。でも、確かめないといけないと思ってここによったんです」と言うおじさんに、『人が亡くなっても、あなたにとって大事なのはゴルフなんですね』という言葉が頭の中をクルクル回ります。

そして、とどめにこのおじさん、「私、毎回、このゴルフコンペを楽しみにしているんですよ。だから、やるのかやらないのかが心配で、心配でね」と真顔でそう言うおじさんの顔を、何か不思議な生き物を見るように私は見ていました。

このおじさんにとって、T社長のお通夜、葬儀は「私は勤め人だから、勝手なことは出来ない」=だから、行きません

でも、タダのゴルフはやりたいから(あくまでも本人の強い願望ですが…)

誰かに「あると思いますよ」の肯定的意見が欲しいのか、或いは、あわよくば「やるんじゃないですか?聞いてあげましょうか」と、自分が直接聞くのは気が引けるので、誰かが助け船を出してくれないか?と思っているのか…。

だけど、ごく普通のな人なら、お世話になった人が亡くなったと聞けば「どうして…」と悲しみ、最後の別れのお通夜とお葬式には絶対に出席しようと思う。

仮に、生前に決まっていたことでも、それが喪中に相応しくないと考えられるものなら中止になると考えるだろうし、まず、それより、お通夜の出席をするための準備(仕事の段取りなど)に気がいってしまい、そんなことは忘れていると思うのですが・・。

私の考えが、思いが間違っているのか??と、頭の中を一瞬にして色んな考えが走りました。

そして、なんて図々しい。いえいえ、なんて自分勝手で狡い人間なのだ、この人はと…、目の前のおじさんを見ている私は…、怒りすぎて声も出ませんでした。

人間、怒りすぎると無口になる」と教えてくれた先輩がいましたが、このとき先輩の言ったことは正しいと私は思いました。


「出入り禁止」

その後、この話は社長にしか言わなかったのですが(なぜかその時間帯、他の人は外出していて事務所には私ひとりだけでしたから…)どうやらこのおじさん、他でもゴルフコンペが行われるのか、中止になるのか知らないか?と聞いていたようです。

それが分かったのが…、

T社長の葬儀から半年後、その話が若社長の耳にはり、若社長が激怒。

一時は司法書士事務所自体の出入り禁止までになりそうになったのを、専務が仲を取り持ち、あのおじさんは出切り禁止

代わりに先生の息子さんが担当することになったのです。

あのおじさんは、T社長の会社へ出入り禁止ですから、今後、あのおじさんが大好きなタダのゴルフ、ご招待ゴルフは二度と声がかからないことになってしまったということです。

結果、このおじさんは、人としても、仕事をする者としても信頼を失ってしまったということだと思います。

ご招待ゴルフ(自分の好きなこと)を楽しみに待つのは悪いことでは無いと思います。そこに信頼関係があるから、向こうも日頃の感謝を込めてご招待してくれるのですから…。

ですが今回の場合、招待を受けるこのおじさんの心の対応に問題があったのだと思います。人の死と、ご招待のゴルフコンペを天秤にかけてしまった、おじさんの心。

(本来、天秤にかけるものでは無いと思うこの二つを、このおじさんは平気で天秤にかけてしまった。)

そして、人の命よりも、遺族の気持ちよりも、出来事(ゴルフコンペ)の方が大事だとこのおじさんは判断した。

それは、多分、自分も人からそう判断される危険性を選んでしまったということだと思います。

なぜなら、そんなおじさんを信じようなどとは思わないからです。気持ちが一歩引いてしまう…。少なくとも、私はそう思いました。




このおじさんのように自分のことばかり(欲望ばかり)を一番に考えては(自分を一番に考えるのは悪いことではないとおもいます。が、TPOをわきまえない=欲望に走りすぎるは…)、人を思いやることを忘れ、自分ばかりのことを言ったり、やったりしていると誰かの目に、耳に入って、やがては回り回って自分に返ってくる。
因果応報は本当にあるのだと思った出来事でした。

そしてもうひとつ思ったのは、タダが大好きだったあのおじさん。
もしかしたらあのとき、お通夜やお葬式に出席しての=香典=お金を出すのがイヤだったのかもしれないという、お金が人を変えてしまう出来事でもあったのかもしれないと思うのでした。

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知らないことが知りたくて、メンタル、カルマ、礼法に漢方スクール…etc.とお勉強。で、ですね、人を動かしているのは無意識、でも、この無意識を味方につけるとスゴいんだ~と気づいたら…、なぜか、「えっ?!そうくるかぁ~」と、色んな場面に遭遇しれしまう…という面白いことが起こりだすのでした。

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