これは、クリスマスの奇跡に入るような…、そんな気がする某百貨店時代のお話しです。

『特別休暇は豪華ヨーロッパ旅行』

ちょっとした事件が元で、えらく私のことを気に入ってくれた教育担当の主任がある日「今年のクリスマスはヨーロッパだ!しかもパリ!羨ましいやろ~」と、嬉しそうにわざわざ私がいる売り場に言いに来ました。

「あっそぉ、そうですか」と私が素っ気なくこたえると…。

「おまえなぁ~、普通聞かんか?なんでそんな忙しい時期にヨーロッパにいくんですか?よく、お休みとれましたね!とか聞かんかー」と、鼻息荒く主任がいます。

「えぇーー、休みとれたから、とれたんでしょ」と面倒くさい人やわぁ~と思いながらこたえると。

「もうええ、教えたる」と主任。
「ええよー」と私。

「いや、聞け。聞いてくれ」と言う主任。
「ええ、聞いてほしぃん?」どっちやねんと思う私。

「そう、どうしても聞いてくれ」と真顔になる主任。

ほんまぁ、面倒くさいわぁ~この人、と思いながら「なんで?クリスマスみたいな超忙しい繁忙期にお休みもらえたんですか?」と聞くと…。

今度は「どれだけ休みをとるか聞いてくれ!」と主任。

まだ言いますか?と思いましたが、それを言うのも面倒なので「お休みは、何日とらはるんですか?」と聞くと。

「10日間とる。10日間、一番高いツアーに申し込んだ。ひとり98万円するツアーや。嫁とふたりで行くから合計ふたりで約200万円のヨーロッパ旅行や。おまけに行き先はパリやでパリ。どうや、豪華やろぉ~」とご満悦な顔でこたえる主任。

この頃(今でもこの制度があるのかは分かりませんが…)勤続10年を越えた社員には5日間の特別休暇がもらえました。それに、交代休暇と半年に一度取れる3日間の休暇をプラスして、主任は目一杯取れる10日間の休暇を取ったのです。




『豪華ヨーロッパ旅行は、頑張った奥さんへのクリスマスプレゼント』

その時、丁度売り場にはお客様もいなくて…。

クリスマスイブ出発の冬のヨーロッパ…、寒いけど。きっと、本場パリのクリスマスは厳粛できれいだろうな~と、二人で話をしていると…。

「実はなぁ、俺たち子どもが欲しくてこの6年間、医学の力を借りて出来ることはなんでもしてきたんや。けど、不妊治療は、やっぱり女の人が大変で、嫁さんがかわいそうでしかたなかった。それでも…、それだけ頑張っても全部失敗や。失敗するたんびに嫁さんが『ごめんなさい』と俺にいうけどな。俺は、『気にするな』としかいえん。気の利いた言葉もいえん、きつかったな…この6年。それで、今度が最後と決めて挑戦したけどな…。けどなー、やっぱりダメやった。あいつ・・・。この前帰ったら…、かわいそうに、ひとりで電気もつけん部屋で泣いてたんや。それ見たらなぁ-、もう、子どもはええ。二人だけの人生もええもんや。これからは二人で楽しもうと考え方かえた」

と、なんたる重い話といいますか、すごくプライベートなことといいますか…、微妙な問題を主任からいきなり言われてしまった私は返事に困りました。
が…。

「ということは、このヨーロッパ旅行は、頑張った奥さんへのご褒美にということですか、つまりはクリスマスプレゼント?ということ」と私が聞くと。

「そうや、6年間。嫁さんはよう頑張った。あれだけ辛い治療にも泣き言ひとつも言いわんと頑張った。そやからご褒美や。それに丁度勤続10年の特別休暇ももらえるし、思い切って行くならクリスマスのヨーロッパ!それも豪華にいってしまえの大奮発や!どや、ええやろ?」と嬉しそうに聞く主任に、奥さんへの思いやりのある優しさと愛情を感じて

「はい、羨ましいです。それに、もしかしたら…やけど、よくいうやないですか、諦めた途端に自然に妊娠するっていうこと。だからもしかして、もしかしたら諦めた赤ちゃんが、クリスマスプレゼントとして神様がくれはったりして~、があるかもしれんよ
と私が嬉しそうに言うと。

「それは無い。無い。無い。結婚して2年は自然に任せたけどダメやった。それから医学の力を借りて6年やで、6年。長かったな~、それだけ頑張ったけどダメやった。一回も授からんかった。だから、もう諦めた。けど、ありがとう」という主任の顔はなにかふっきれたのか、とても良い笑顔でした。




『クリスマスイブ3日前、ヨーロッパ旅行は中止?って…』

さて、主任がヨーロッパ旅行に出発する3日前、私がいる売り場に暗い顔をした主任がやってきて…。

「おまえにも責任がある。ちょっと知恵かせ」と言ってバックヤードに連れて行かれました。

私にも責任がある??それはなに??なんですかぁー??と意味が分からずに「私に責任とは、なんですか?」と聞くと。

嫁が旅行には行かない。キャンセルしてくれと言いだした。今からキャンセルしたら旅費の8割近くはキャンセル料にとられる。それで、『ヨーロッパやぞ、クリスマスのパリやぞ!いまさらキャンセルなんか出来るか!』と今朝から喧嘩になった」と言いました。

「えっ?なんで行かんっていうの?奥さん。それに、その話のどこに私に責任があるというの?」と、話の内容がぜんぜん理解出来なくて(言いがかりか?と思いつつ)聞くと…。

「実はな、おまえの言うとおりになったんや」と主任。
「はっ?なにが?」と意味が分からずに聞き返した私。

「子どもや!子ども、赤ちゃんが出来たんや」と、なぜかあまり嬉しそうな顔でなく私に怒ったようにいう主任。

「ええぇーー、ほんまに、おめでとうございます!」と、あのとき何気なく言ったひと言が、まさか本当になるやなんて…。これにはさすがに私もビックリしましたが、8年間欲しがっていた子どもさんが、赤ちゃんが出来たことは、なんて素敵なことなんだろうと素直に喜びました。

「いや、おめでとうやけどな。まだ、妊娠初期やから飛行機に乗ってのヨーロッパは、もしかしたら流産の危険があるかもしれんから、嫁が行くのをやめると言い出して困ってるんや!」と、またまた怒ったようにいう主任。

「そんなんあたりまえやわー、奥さんのいうとおりやわー」と私が言うと。
「なんでや!」と今度は私に怒る主任。

「あのね、飛行機ってエベレストよりもっと高いとこ飛ぶの、そう考えたら妊婦にエベレストに登れとか言うバカがどこにいる?それに、ヨーロッパまで飛行機の中に14時間近くのってるんやで、なんかあったっても病院なんか行かれへんの。それに、赤ちゃん出来たって聞いて嬉しくないの?」と、この点が不思議で主任に聞くと。

「そらぁ、嬉しい。嬉しいけど、おまえ、今、キャンセルしたら返ってくるお金は30万円くらいしかないんやぞ…」と、今度は拗ねた顔をしている主任に…。

ちょっとあきれはしたけど、きっと主任は男やから、奥さんがいう妊娠初期は流産しやすいということが、いまひとつ理解出来ていないのだろうから仕方ないかとは思いつつも、でも、そういう問題では無い。ないから、ちょっときつい言い方で言ってしまいました。




『主任!あなたにとって、一番大事なものってなに?!』

「あのね、それともう一つ、お金で赤ちゃんは買えるのかな?買えんよね?そやから主任も、辛いけど6年間不妊治療したんやよね。確かにキャンセル料としてとられるお金は大金やから痛いけど、元気で働いたら、これからいくたらだって稼げる金額やし、それにヨーロッパは逃げへんから心配せんでもいつでもいける。けど、赤ちゃんはこの時、今、いましかないんよ。きつい言い方やけど、目先のお金に騙されて、大事な人を失うことになってもいいの?もし、無理矢理に嫌がる奥さんを旅行に連れて行っても楽しくないし、それに流産でもするようなことになれば、主任。欲しかった赤ちゃんも、それから大好きな奥さんも両方失うことになるよ。確かにキャンセル料は大金やけど、そのお金で奥さんと赤ちゃんを天秤にかけるだけの価値がキャンセル料にあるの?主任にとってどっちが大事なん?どっちを失いたくないの?」

主任の気持ちも分からないわけではないのです。この旅行は奥さんへのクリスマスプレゼントだということは分かっていましたから。

でも、やっぱり奥さんの気持ちを考えると、主任に対してちょっと腹が立ってきた私は、主任にきつく「あなたにとって、なにが一番大事なんですか?」と聞き返していました。

奥さんも今回の旅行は自分の為だと分かっているし、ご自身も楽しみにしていただろうと思います。行きたい気持ちは十分あると思います。

でも、だから、余計に自分の為に長期の休みと豪華な旅行を用意してくれた、優しい旦那さんとの子どもが欲しい。

その為にも、今は、旅行よりもお金よりも…、二人の間に出来た。
なによりも旦那さんの子どもを、赤ちゃんのことを一番大切にしたいは、旦那さんである主任を大事にしたいと同じことだと思ったからです。

それに、楽しみにしていた旅行に行かないという決断をするまでには、奥さんも悩んで悩んで、悩んだ結果の「行かない」なのでしょうから…。




暫くむっつりとした顔で前を向き黙っていた主任が…。

「そやな、そやな…、おまえのいうとおりや。俺の考え方が間違っていた。そや、嫁さんと子どもが一番大事や。わかった、今からすぐ旅行会社にキャンセルの電話をしてくる。けど、どうしょう…かぁ…、出がけに嫁さんと喧嘩して泣かしてしもたやないか…」と、ほんまになさけない顔で言うので…。

余計なことかと思いつつも…、

「いいですか主任、旅行社より先に、今すぐに奥さんに電話してください。そして、旅行はキャンセルする。大事なのは奥さんとお腹の子どもやから、今朝はゴメン。と謝ったらそれでいいと思います。それ以上は余計なこと言わんと、奥さんに謝ることと、主任にとって一番大事なのは奥さんとお腹の子どもだけ、それだけ伝えればよろしです」と、年上の主任にえらく生意気な物言いで言ってしまいましたが、主任は「そやな、そう、俺、念願のお父さんになれるんや!そうや、赤ちゃんや。よし、今すぐ電話してくる」と言って嬉しそうに奥さんに電話をするために飛んで行きました。

その後すぐに奥さんに電話して今朝のことを謝り、旅行をキャンセルすること、キャンセル料のお金より奥さんとお腹の中の赤ちゃんが一番大事やと伝えると、奥さんは電話口で「ありがとう」といって泣いていたそうです。


そして次の年、奥さんは元気な女の赤ちゃんを産みました主任は念願のお父さんになったのです。




確かにお金は大事です。

生きて行くうえで必要なものです。

殆どのものはお金で解決できるのだろうと思いますが、それでもお金より大事なものはやはりこの世にはあるのだと思います。

多分それは、神様しか創り出せないものなのだと思います。
(だから、『奇跡』というのかもしれません。)


8年間子どもが欲しくて、欲しくて仕方なかった主任と奥さんが、子どもを諦めた時期に特別休暇がもらえて、それならと思い切って、それまで辛い思いをした奥さんへのクリスマスプレゼントにと豪華ヨーロッパ旅行を申し込み。

出発はクリスマスイブと心待ちにしていたら、なんと主任と奥さんが飛行機に乗って空に飛び立つより前に、天から〝小さな天使〟が奥さんのお腹の中に舞い降りてきた

多分、私が今までに聞いたクリスマスプレゼントの中で、一番のプレゼントだと思う〝小さな天使〟(=赤ちゃん)は、主任と奥さんにとって神様からの最高のクリスマスプレゼントだったのではと思うのでした。

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知らないことが知りたくて、メンタル、カルマ、礼法に漢方スクール…etc.とお勉強。で、ですね、人を動かしているのは無意識、でも、この無意識を味方につけるとスゴいんだ~と気づいたら…、なぜか、「えっ?!そうくるかぁ~」と、色んな場面に遭遇しれしまう…という面白いことが起こりだすのでした。

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