中国政府が10月末に「一人っ子政策の廃止」という衝撃的な事案を発表したことは、恐らくみなさんも既にご存知でしょう。これまで中国では長年に渡り、政府の厳しい家族計画の為に各家庭では子供を一人しか作ることができず、二人目を産んだ両親は罰金を払うというシステムになっていました。

戸籍登録により中国国民としての権利が与えられる

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これは日本でも同じことですが、戸籍法に基づいて中国も人権が与えられます。ところが二人目の子供にはそれがありません。書類上どこにも登録されないということはつまり中国国民としての権利を与えられていない全くの「無」の存在として生きていかなければならないのです。

そしてそのような存在の人は中国には約1300万人いると言われています。リー・シュエさん(22歳)もその一人。ある家庭の次女として生まれたリーさんは、母親が中絶をする予定だったところを偶然にも救われたのです。

22年前の母の怪我により奇跡的に命を救われたリーさん

出典 http://www.huffingtonpost.com

リーさんの母親は22年前、リーさんを妊娠していた時にじゃがいもの皮むきをしていたナイフを滑らせ脚を切る怪我をしてしまったそう。その怪我が悪化し、感染症を起こしたために中絶すると母体の命もないと言われたことからリーさんを産む決心をしました。

1993年に生まれたリーさんの罰金を政府に払うことに

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障がいを持っていた母は工場で働いていましたが、リーさんを出産と同時に解雇。生活が苦しくなるものの、リーさんの存在に対して政府に罰金を支払わなければいけなくなったのです。

戸籍を持っていない中国国民たちは、その存在を認めてもらえず闇の世界で生きてきました。法的に学校に行くことも許されず仕事をすることもできません。病気になっても医者にかかることもできず、ホテルにも泊まれず電車にも乗れません。更には結婚さえもできないという「人として」の権利をことごとく奪われた生活を強いられてきたのです。

深い闇の底で暮らす無戸籍の中国国民たち

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二番目に生まれてきたことにより、存在を認めてもらえないまま中国で生き続けるというのはかなり酷なことだとリーさんは話します。国外追放にはならないものの、自分の存在を誰も知らずに死んでいくということは想像を絶する恐怖でしょう。

普通の仕事に就けないために危険な闇仕事をすればするほど、命の危険もあります。でも戸籍がない以上、存在がないも同じ。闇の集団に「使い捨て」にもされかねないのです。

政府は約1300万人の無戸籍者に戸籍の発行予定を発表

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今回の政府の一人っ子政策廃止に加えて、中国政府はこれまで生まれた約1300万人の無戸籍者の戸籍登録を予定していることを発表。これが実現すれば中国の画期的なブレイクスルーになることは間違いありません。

1300万人といえばニューヨーク、シカゴ、フィラデルフィアの合計人口に匹敵する人数といえばどのぐらいかみなさんも想像がつくでしょう。人口が多い中国ではあるものの、無戸籍者の数も相当存在しているということなのです。

本当に実行するかどうかは不安とリーさん

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リーさんが生きてきた22年の間にも、中国政府は「無戸籍者の戸籍登録」について触れてきました。でも実際にそれが実現することはなかったのです。リーさんは言います。「口先だけの言葉にしてほしくはありません。」

リーさんのような無戸籍者にとっては大きな変化となる事案。なにしろ自分の存在が認められることになるのですから。これまで何もしてくれなかった政府に対しての不安があるというリーさん。果たして政府は今回実行するのでしょうか。

次女として生まれたリーさんは、学校に行く機会を与えられなかったために姉から読み書きを教わりました。家が貧しいために姉自身も中学以上の学歴は持っていません。でも彼女たちはこれまで独学で、法律や家族計画の規制に関する本を必死に読んできました。

リーさんの母は言います。「中国の警察、弁護士、裁判官は一つの家族です。」と。権利を牛耳る上層部がチームになっているために、裁判所で訴えを却下されると絶望的な気持ちになるそうです。

今後、もしリーさんに戸籍が与えられれば、リーさんの人生は大きく変わることでしょう。一方で、現時点では戸籍を持たない多くの人を「中国人」として迎え入れるだけの準備が政府にできているかというとそうではないのが現状だと専門家は語ります。

今回の一人っ子政策廃止とこれまでの無戸籍国民は別問題と言われているだけに、リーさんがまだ手放しで喜べないという気持ちもじゅうぶん理解できます。いったん口にしたことを翻すのではなく実行してこそ国民を考えた政府だと思うのですが、中国がそうなるのは早くても2020年以降という声も。

リーさんが自分の存在を世間に知ってもらえる日がいつか来るのでしょうか。そうなることを願ってリーさんは、今日も地元の警察と裁判所に懇願を続けているのです。

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公式プラチナライター。イギリス在住22年目。いつも読んで下さる皆さんに感謝。Twitterアカウントは@mayonesque18です。よろしくお願いします。

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