クリスマスが刻一刻と迫って参りました。至る所で色鮮やかなイルミネーションが煌めいて、ケーキの予約を催促する幟がはためき、クリスマスを主題に据えたジェーポップが延々とリピートされ、道行く人々は、追ってくる月日から逃げるかのように忙しなく慌ただしく、各々が放射状に展開してはあちこちで喧騒を撒き散らしています。

さて、私はここ十年程、クリスマスっぽいことなんてなーんにもやっておりません。夜中にコンビニでそれっぽい飾り付けが施された菓子パンを買ったくらいでしょうか。まあ、友人も恋人もいない独り身なので当然と言えば当然かも知れません。何も予定がない寂しいイブを避けるために、敢えて勤務シフトをずらし、只管に黙然と仕事に打ち込むタフ・ガイを演じてきたのです。嗚呼、なんたることでしょうか。

そんな私にだって、楽しいクリスマスはありました。あったんです。間違いなく。あれは中学生時代の事でした。勿論、其処にも小さな哀しみが内包されてはいるのですが…。

恒例行事「食べ放題」

―クリスマス・イブは気の置けない仲間で集まって「焼肉食べ放題」の店に行く―

それは、中学時代、イケてない男子グループ(具体的な定義は、その集団には誰も彼女がいない)に所属していた私にとって「鉄の掟」と呼んでも差し支えない荘厳なルールであり、年に一度の大イベント、晴れ舞台でありました。親と一緒にクリスマスなんてマジだりー、うぜえ等と嘯く反抗期の少年達が内心では寂しく、単純に群がりたかっただけかも知れません。

今はもう潰れてしまったその店は「焼肉」だけではなく、サラダにピザ、パスタ、惣菜類にフルーツ、デザートまで食べ放題で、現在では珍しくありませんが、当時は大興奮の桃源郷、パラダイスで御座いました。何しろ、中学生だったんです。ごはんは無限に食える気がしていた年代でした。

「よし、俺は今からメロンしか食べない!」

友人が宣言し、トレーに載ったメロンを食べ尽くします。すぐに補充されトレーにまたメロンが盛られ、棚に置かれます。すかさず、友人が食べ尽くします。四回くらいの攻防の後、厨房でなにやら怒号が響き、漸く店頭に出されたメロンは、よくぞここまで薄く切れたな、と感心する程のぺらっぺらなスライス具合になっていました。

「今回はアイスを食べ尽くす!」

調子に乗った友人は、アイス用冷蔵庫に入った矢鱈シャリシャリして妙な着色料で彩られたアイスを全部一人で平らげようと試みましたが、早々と腹を壊しダウンしました。

「焼こう!焼こう!」

丸い焼き網に私たちは何でも投入しました。焼いたら何でも美味しくなる、と固く信じているかのようでした。サラダを焼き、漬物を焼きました。メロンを焼きました。シュークリームさえも、焼きました。アイスも焼きました。溶けました。誰かが宝くじの当たり券を持っていたとしても、当時の私たちなら迷うことなくそれを焼いたでしょう。非常に純粋な中学生でした。

疑念、戸惑い

その年のクリスマスイブ、表面上はいつもと同じように仲間と談笑していた私だったのですが、その実、胃液はぐつぐつ煮立ち、大腸と小腸では蟠りが渦を巻き、両方の肺から燻った煙が朦々と立ち込めていました。

(…なぜだ!なぜ誰も俺のファッションになにも言わない!)

福岡ダイエーホークススタイル

年に一度の晴れ舞台、私はとびっきりの格好で決めていました。ファッションテーマは街に溶け込む「福岡ダイエーホークス」でした。洗濯し過ぎによって、すっかり色が落ち切ったエドウィンのブルージーンズ(他の中学の奴等からケミカルウォッシュと馬鹿にされていたことが四年後に判明する)に足元はナイキ(一応エア搭載)、腕時計はシチズン、インディペンデント。

そしてアウターは福岡ダイエーホークス「鷹ジャンパー」アウェイモデルの緑色でした。右肩にハリーホークのパッチが貼られ、背中に黒地に白抜きで九州全土の線が引かれ、その上空を翼を広げた大きな鷹が羽ばたいています。前胸部は「FUKUOKA Daiei」と迫力の主張です。着たら見えませんが、インナーはオレンジ色で洒落てます。ルイスレザーみたいでお気に入りポイントの一つです。帽子も無論「FDH」で統一感を出します。

実はファンキーモンキーティーチャーという映画を観て主演の間寛平氏が「鷹ジャンパー」のオレンジを着ており、私はとても感銘を受けていたのです。

(うおお!マジかっけー!)

思えばそのセンスが異性交遊を遠ざけ、イケてないグループで不遇の年月を過ごすしかなかった元凶だったような気もします。

懺悔

後日、我慢しきれなくなった私はとうとう自分から、なぜあの日、ファッションに関してだんまりを決め込んでいたのか、を問い質しました。仲間の本心は辛辣でした。

「何なんアレ。一緒におって恥ずかしかったわ!」

「本気?ボケ?どっちかわからん」

仲間にはすまなかったと平身低頭謝りはしたものの、私は懲りずに「鷹ジャンパー」を着て、少し離れた街にある学習塾に通い、入り口で挨拶する講師から「え、えらい格好よかジャンパー、ば着とんねえ」と爆笑を我慢して語尾が震えているのを聞いたりし、他校の生徒から「ケミカルウォッシュのジーパンにダイエーのジャンパーば着たヤバい奴がいる」と噂され、半ば伝説の男みたいになっていたのでした。

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男は久留米という砂漠の中の一粒の砂であり、クルマ、金、女に縁がないライター志望の孤独で吝嗇な三十路だった…http://ameblo.jp/kt660cc http://tabelog.com/rvwr/002224433/

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